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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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182話 死の輪舞(10)

「皆、こっち!急いで!」

 遥斗が叫ぶ。

 その声に応えるように、エレナ、エーデルガッシュ、マーガスが走り出す。


 しかしアンデッドたちもまた、獲物を追って動き出していた。

 デュラハン・ナイトメアがエーデルガッシュの前に立ちはだかり、四本の剣と盾が月光に煌めく。

 ジェスター・コープスは歪な笑みを浮かべながら、エレナの退路を塞ぐ。

 そしてレギオンの醜悪な姿が、マーガスの行く手を阻むように浮遊している。


「ポップ」

 遥斗の掛け声が響く。

 魔力銃の弾倉に、赤く輝く弾丸が生成される。

 それは、かつてエレナがブラッドベアの素材から作り出した「血爪の弾丸」。


「行くよ」

 感情の消えた黒い瞳で標的を捉える。


 パンッ!

 一発目の弾丸が、デュラハン・ナイトメアに向かって放たれる。


 首なしの騎士は瞬時に盾を構えるが、弾丸は予想外の軌道を描く。

 生き物のように盾を回り込み、デュラハン・ナイトメアの胴体に直撃する。

 すると獣の爪のような斬撃が発生し、漆黒の鎧を引っ掻いていく。


 パンッ!パンッ!

 立て続けに放たれる二発が、ジェスター・コープスとレギオンを捉える。


「ギャハハハハ...!」

 道化師は狂気を含んだ笑い声を上げながら回避を試みるが、その動きを完全に読み切ったかのように頭に炸裂する。

 弾丸は命中すると血の色をした斬撃が、死体の顔の継ぎ接ぎを引き裂いていった。


 レギオンに命中した弾丸も、百の顔の一つを切り裂いていた。

 巨大な亡霊は僅かに後退するが、引き裂かれた箇所はすぐに修復され、元に戻っていった。


 大したダメージこそないものの、アンデッドたちの動きが一瞬止まる。

 予想外の攻撃に、それぞれが面を食らっていた。

 その僅かな隙を突いて、三人が一気に遥斗の元へと駆け寄る。


「遥斗くん!」

 エレナが真っ先に遥斗の傍らに辿り着く。

「ありがとう。よくあんな距離当てられたね...凄い!」


「やつら、かなり手強いな。まともにダメージが与えられん!遥斗の攻撃もまるで効いてないぞ」

 マーガスが首を振りながら合流する。


「あの弾丸は、単なる牽制...だったのだろうが...突破口が見つからんな。朝まで耐えられるか...いや他の方法を探すか?」

 エーデルガッシュが静かに告げる。


 無事に合流した面々に、遥斗は手短に指示を出した。

「エレナ、ケヴィンさんの回復を続けてあげて」

「陛下、サンクチュアリで結界を張って、皆を守ってください」

 マジックバックからポーションを数本取り出し、エーデルガッシュに手渡す。

「中級MP回復ポーションです。MPが切れそうになったら使ってください」


「防御に徹するつもりか...朝まで...」

 エーデルガッシュが不安げな表情を浮かべる。

「すまぬが...とても持ちこたえられるとは思えん」


 遥斗はにこやかに微笑んで、静かに首を振る。

「皆はできるだけ固まっていて。これ以上被害が広がらないように」

 その言葉に、エレナの眉が寄る。

「遥斗くん...あなた、何をする気なの?」


 遥斗の様子がおかしい。

 いつもの優しさに満ちた茶色の瞳は漆黒に染まり、その表情からは全ての感情が失われている。

 エレナの胸に不安が広がる。

 まるで別人のような遥斗に、彼女は言いようのない恐怖を感じていた。

(...まさか、また無茶を...)


「遥斗くん...?」

 エレナの不安げな声に、遥斗は笑顔を向ける。

 しかしその瞳には、何も映ってはいない。

 エレナやエーデルガッシュでさえも。


「アイツらを...何とかしてくるよ。いくらなんでも好き勝手し過ぎだからね。自分がしている事を後悔させてくる」

 エレナは遥斗の言葉に気が遠くなる。

 そんなことが簡単にできる訳がないのは、彼女が一番理解していた。

 おそらく、また無茶をする気なのだ。

 怒鳴ってでも、泣き喚いて、縋りついてでも止めたい。

 しかし、遥斗の漆黒の瞳に宿る異様な冷たさに、声を絞り出すことすらできない。


「ちょっと待てぃ!」

 マーガスが前に出る。

「アストラリア王国騎士として、俺も共に行くぞ!仲間を見捨てたとあれば、ダスクブリッジ家の名折れだ!」

「うーん、わかったよ...じゃあお願いしようかな?」

 遥斗は少し困ったような表情を見せたが、すぐに了承した。

「よっしゃ!」

 マーガスが勢いよくガッツポーズを作る。


 その時、三体のアンデッドが一斉に襲いかかってくる。


「我が剣に宿りし聖なる光よ、天より降り注ぎし神威の息吹よ、今此処に顕現せよ!聖剣奥義・極光輪!」

 エーデルガッシュの詠唱が響き渡る。


 サンクチュアリを中心に、薄紅色の光の壁が出現する。

 それは半円を描くように広がり、巨大なドームのように戦場を覆っていった。


 デュラハン・ナイトメアの剣が光の壁を打ち付け、レギオンの怨霊讃歌が襲いかかる。

 ジェスター・コープスの作る火炎の雨が降り注ぐ。

 しかし全ての攻撃は、極光輪によって弾き返されていく。


 その度にエーデルガッシュの体が僅かに震え、魔力が削り取られていくのが分かった。


「陛下...少し待っていてください。すぐ準備をします」

 遥斗は先ほど生成した「槍術士のポーション」を見つめる。

 そして一気にポーションを飲み干す。


 途端に、体の奥底からマグマのような力が湧き上がってきた。

 しかし、既に白銀操術戦士の力が遥斗の体に満ちている。

 二つの力が体内で激しくせめぎ合い、体が千切れ飛びそうな痛みが全身を襲う。


 それは全て、想定内の反応だった。

 常人では発狂するレベルの激痛が体を駆け巡るが、遥斗の表情は涼しいままだ。


 更にマジックバックから、最初に生成した槍術士のポーションを取り出す。

 それも一気に飲み干した。


 内臓が悲鳴を上げ、口から血が噴き出す。

 職業の力が暴走し、皮膚を破ってオーラが漏れ出していた。

 体の中では複数の力が渦を巻き、体を引き裂こうとして激痛が走る。

 しかし遥斗は、何でもないかのように立っている。


 その異常な光景に、エレナは震える手を口元に当て、エーデルガッシュは目を伏せ、マーガスは言葉を失う。

 彼らの目には、明らかな恐怖の色が浮かんでいた。


 遥斗はマジックバックから最上級HP回復ポーションを取り出し、それを飲み干す。

 引き裂かれた内臓が修復されていく感覚。

 気が狂いそうな痛みは残っているものの、少なくとも戦闘に支障はない。

 全て遥斗の想定通りだった。

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