18話 アイテム生成の真実
「さあ、こちらが私の実験室だ」
ルシウスが扉を開けると、そこには想像を超える光景が広がっていた。天井は高く、部屋は広く何もなく床には魔法陣が描かれている、まるで闘技場のようだった。
遥斗は息を呑んだ。「すごい...」
トムも目を輝かせている。「まるで、コロッセオみたいだ...」
エレナは少し困ったように笑った。「相変わらず物騒な部屋ね」
ルシウスは気にする様子もなく、中央の魔法陣の前に立った。
「さて、遥斗くん。君の能力を見せてもらおうか」
遥斗は少し緊張しながら、魔法陣の中に立った。
「はい...では、ポーションを生成してみます」
遥斗は目を閉じ、集中する。
「ポップ!」
光が瞬き、遥斗の手の中に小さな青い瓶が現れた。
ルシウスは目を細めて、ポーションを観察する。
「ふむ...一見、普通のポーションに見えるね」
彼は慎重にポーションを手に取り、様々な角度から眺め、においを嗅ぎ、そして...
「上級アイテム鑑定」
「ふむ、鑑定の結果も...特に変わったところはないようだ」ルシウスは首をひねった。
エレナが尋ねる。「それじゃ、普通のポーションということですか?」
「そうだね」ルシウスは頷く。
「むしろ、普通すぎるのが不思議なんだ。見てごらん。確かに小瓶は発生している」
「何かわかりますか?」
遥斗は困惑した表情で尋ねた。
ルシウスは腕を組んで言った。
「君の言う質量保存の法則が本当なら、この現象は説明がつかないはずだ。小瓶の質量はどこから来ているんだ?」
エレナとトムは顔を見合わせた。
「でも...」トムが恐る恐る口を開く。
「そもそも、質量保存の法則って...本当にあるんですか?」
「私たちの世界では聞いたことがないわ」
エレナも同意するように頷いた。
遥斗は困った表情を浮かべる。「でも、僕の世界では当たり前の...」
ルシウスは深く考え込んでいたが、突然顔を上げた。
「よし、もう一つ実験をしてみよう」
彼は魔法陣に魔力を注ぎ床に描かれた模様が反応する。そして光が広がると部屋全体を包み込んだ。
「これで魔力フィールドが張られた、魔法の力が外部に漏れない。ここで生成すれば、何か分かるかもしれない」
遥斗は中央に立ち、再び目を閉じた。
「ポップ!」
...しかし今度は、何も起こらなかった。
「あれ?」遥斗は困惑した表情を浮かべる。
「さあもう1度やってみよう」ルシウスが遥斗に声をかけた。しかし、
「すみません。もうMPが切れてしまいました」申し訳なさそうに答える。
ルシウスは考え込むような表情をした後、隣の部屋からポーションを持ってきた。
「これはMP回復ポーションだよ。飲んで」
遥斗はポーションを飲み、再度挑戦する。
「ポップ!」
今度は成功し、小さな青い瓶が現れた。
「やった!」トムが喜びの声を上げる。
しかし、ルシウスの表情は急に変わった。
「待て...MP回復ポーションの小瓶が消えている!」
その瞬間、トムが突然倒れた。
「トム!」エレナが駆け寄る。
ルシウスは慌てて呪文を唱えた。「生命鑑定!」
ルシウスの表情が曇る。「HPが38になっている。トムの最大HPは68だ、30減っている」
遥斗は慌てて、今生成したポーションをトムに飲ませる。トムの顔色が徐々に戻り始めた。
部屋に重い沈黙が流れる。
遥斗は、頭の中で急速に思考を巡らせていた。そして、ある考えが閃いた。
「もしかして...生成は錬成の下位互換なのかも...」遥斗は小さな声で呟いた。
ルシウスが鋭い眼差しで遥斗を見た。
「どういうことだい?」
「錬成は素材を融合させて新しい物質を生むけど、生成は無意識にどこかから素材を持ってきているんじゃないでしょうか」遥斗は興奮気味に説明し始めた。
「例えばHP回復ポーションなら、どこかのガラスと誰かのHPを持ってきてHP回復ポーションにしている。それを持ってくるエネルギーが消費MPで、素材は質量保存の法則が適用されている...」
「なるほど!そう考えれば辻褄が合う。しかし...」
「錬成ではHPは素材にできない」エレナが口を挟んだ。
「そう。だからこれは...アイテム士の特性かもしれません」遥斗は頷いた。
ルシウスは興奮した様子で歩き回り始めた。
「これは...これは驚くべき発見だ!遥斗くん、君の発想は想像以上に特殊かもしれない」
遥斗は複雑な表情を浮かべた。自分の能力の真の姿が明らかになりつつあることに、喜びと同時に不安も感じていた。
ルシウスは興奮した様子で遥斗に向き直った。
「よし、では試してみよう。錬成のように素材を指定できるか挑戦してみるんだ」
「で、でも...どうすればいいんでしょうか?」
「心配するな。錬成のコツを教えてあげよう。それを応用してみるんだ」
ルシウスは丁寧に錬成の基本を説明し始めた。素材のイメージの仕方、エネルギーの流れ、そして変化の過程。遥斗は真剣な表情で聞き入っていた。
「さあ、準備はいいかな。私と、この空の小瓶をイメージしてみてくれ」ルシウスが声をかける。
遥斗は深呼吸をし、目を閉じた。ルシウスと小瓶のイメージを心に描き、そっと呟いた。
「ポップ」
突然、ルシウスが体から力が抜けたような感覚に襲われた。同時に、彼の手にあった小瓶が光に包まれ、分解されていく。そして新たに、青い液体の入ったポーションが遥斗の手の中に現れた。
「成功だ!」ルシウスは喜びの声を上げた。
「私のHPと小瓶でポーションが生成された!」
遥斗は驚きと心配が入り混じった表情でルシウスを見た。
「大丈夫ですか?」
「HP30くらい、問題ないさ。それより...これは世紀の大発見だ!」
彼の目は興奮で輝いていたが、エレナ、トムは少し引いた表情を浮かべていた。
ルシウスはその反応に気づき、眉をひそめた。
「なんだ?君たちはこの発見がどれほどすごいことか分かっていないのか?」
三人は黙ったまま、互いの顔を見合わせる。
「よし、では教えてあげよう」ルシウスは部屋の隅に向かい、いくつかの小瓶を持ってきた。
「遥斗くん、このMP回復ポーションを飲みなさい」
遥斗は言われるがままにポーションを飲んだ。
突然、ルシウスがポケットから小さな箱を取り出した。
「エーテルケージだ」
彼が箱を開けると、白い光が溢れ出し、目の前に緑色のゼリー状の生き物が現れた。
「ス、スライム!?」トムが驚いて声を上げた。
「ル、ルシウスおじさま...これは...」エレナも顔を引きつらせている。
遥斗は緊張した面持ちで尋ねた。
「これは...どういうことですか?」
「今、君たちには武器がない。そして、スライムには通常の武器はほとんど効果がない。捕食されれば、逃げる術はないぞ」
三人の顔から血の気が引いていく。
「さあ、遥斗くん。このスライムのHPからポーションを作るんだ」ルシウスの声が響く。
遥斗は慌てて、頭の中でスライムのHPと小瓶をイメージした。
「ポップ!」
青いポーションが生成される。しかし、スライムには変化がない。
「もう一度だ!」ルシウスが促す。
遥斗は祈るような気持ちで、再び呪文を唱えた。
「ポップ!!!」
ポーションが生成されると同時に、スライムが光に包まれて消えた。そして...
「わっ!」遥斗の体が赤い光に包まれる。
「おめでとうレベルアップだ、遥斗くん、君はレベル2になった」
部屋に静寂が流れる。遥斗は自分の体に起こった変化に戸惑いを隠せない様子だった。
「これが...レベルアップ...」
「遥斗くん...大丈夫?」エレナが小さな声で言った。
トムも心配そうに遥斗を見ている。
遥斗はゆっくりと頷いた。
「うん...なんだか体が軽くなったような...そして、何か力がみなぎってくる感じ」
ルシウスは満足げに三人を見渡した。
「分かっただろう?遥斗くんの能力は、通常では考えられないことを可能にする。HPを直接操作し、モンスターを倒すことさえできる。これは...革命的な発見だ!」
遥斗は複雑な表情を浮かべていた。確かに自分の能力の真の姿を知ることができた。しかし同時に、その力の危険性も感じ取っていた。