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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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174話 死の輪舞(2)

「あれはアンデッドです!討伐を!」

 サラの声が兵士たちに叫ぶ。


 その声に、兵士たちが一斉に動き出す。


「突けーーー!」「死体とはいえ、ダメージはあるはずだ!」

 ベテランの兵士たちの声に導かれ、突撃が始まる。


 首のないイグナートは、松明を振り回しながら不規則な動きで応戦する。

 その予測不能な動きに、数人の兵士が腕を灼かれる。


 しかし、周囲を完全に包囲された状態では、長くは持たなかった。

 十本以上の槍が一斉に突き刺さり、イグナートの体を串刺しにする。


 片腕を失ったリチャードは、残された腕で剣を振るい反撃を試みる。

「すまない、リチャード!」

 かつての戦友が、涙を流しながら背後から刃を突き立てる。

 それでもリチャードは倒れず、まるで機械のように剣を振り続ける。

「全員で一気にいくぞ!」

 号令一下、幾重もの剣がリチャードの体を切り裂いていく。


 心臓を失った三人目の兵士は、最後まで抵抗する力もなく、ただ不気味に前進を続けるだけだった。

「もう死んでくれ!」

 五人がかりで体を切り刻み、ようやく動きを止めることに成功する。


 だが、それでもアンデッド化した兵士たちの目は動き続け、体は微かに痙攣している。

 切断された肉片からは血液の代わりに黒い液体が滲み出し、地面に這うように広がっていく。


「おいおい...何度突いても血一つ出ねぇ...」

「見ろ...動きが止まっても目が...目が動いてるぞ...」

 ようやく倒した兵士たち見て、恐怖の声が漏れ始める。


 その時、一陣の冷たい風が吹き抜けた。

「これは...冷気か?」

 違った。

 それは死の気配を帯びた瘴気だった。


 音もなく、巨大な影が建物から姿を現す。

 レギオン――百もの顔を持つ巨大な亡霊が、月光を背に浮遊していた。

 歪な形相の無数の顔が蠢き、その一つ一つから苦悶の声が漏れ出す。


「うわあぁぁぁーーー!」

「化け物だ!」

「な、なんなんだあれは...!」

 兵士たちの悲鳴が中庭に響き渡る。


 カン、カン、カン――

 次いで金属が床を歩く音が、不吉に響き始める。

 四本の腕を持つデュラハン・ナイトメアが、剣と盾を携え、静かに歩を進める。


 その後ろからはジェスター・コープスが、ピエロのように軽やかに飛び跳ねながら現れた。


「こ、これは...」

「嫌だ!嫌だ―ーー!」

 兵士たちの士気が、見る見る崩れていく。


 そして、最後に黒い衣装に身を包んだバートラムが姿を現した。

 その紫の瞳には、もはや人としての感情は宿っていない。

 まるで死神のような冷徹な視線が、中庭の兵士たちを見下ろしていた。


「バートラム様...やはり本当に...」

「皇帝陛下の仰る通りだったのか...」

 もはや誰一人として、エーデルガッシュの言葉を疑う者はいなかった。

 目の前の光景は、あまりにも明確な証拠となっていた。


 バートラムは、中庭に集まった兵士たちとエーデルガッシュの姿を見渡した。

 百数十人を相手に、たった一人と三体のアンデッド。

 しかしその表情には、なんの不安も映っていない。


「壮観だな...これほどの数が集まってくれるとは」

 バートラムは低く、地から響くような声で語り始める。


「人とは本当に愚かだ。世界を食い尽くし、無へと変えていく...その真実すら知らずに」


「逆賊が何を言っている!」

 兵士たちの怒声が響くが、バートラムは意に介さない。


「人族の業。我々が放つ一つ一つの技が...世界を蝕み...闇へと変えていく。いつまで目を背けるのだ...」


 バートラムは嘲るように笑みを浮かべ、エーデルガッシュを見据える。

「誰も耳を貸そうとはしない。なぜか...死を恐れるからだ。自らの死を受け入れられぬ愚かな生き物、それが人族」


「ふざけるな!」

「黙れ!」

 数名の兵士が、怒りに任せて突撃を開始する。

 槍と剣が、バートラムめがけて突き出される。


 ガキン!

 金属の砕ける音が響き渡る。


 デュラハン・ナイトメアが瞬時に前進し、四本の腕を器用に操る。

 上腕の二本の剣で襲い来る武器を弾き、下腕の二枚の盾で兵士たちの攻撃を受け止める。


「くそっ!」

 武器を受け止められた兵士たちは、あまりの力量の違いに身動きすら出来ない。


「世界を救うには...人族が消えねばならぬ。我々自身も...含めて...な」

 バートラムの声がさらに冷酷さを帯びる。

「もはや言葉は必要ない...説得は諦めた。世界の救済のため...贖罪を果たす...」


 レギオンが不気味な唸り声を上げ、ジェスター・コープスが狂気の笑みを浮かべる。

 バートラムの隣で、三体のアンデッドが戦いの構えを取った。


「な、なんという狂気だ...」

 兵士たちの間から、戦慄の声が漏れる。


 エーデルガッシュは聖剣サンクチュアリを手に、バートラムを正面から見据えた。


 魔物たちの攻撃が、一斉に始まった。

 サーカスの道化のように、ジェスター・コープスが歪な笑みを浮かべながら兵士たちの間を駆け回る。

 しかも手にした火の玉を、見せ物のようにジャグリングしながらだ。


「ギャハハハハ!」

 火の玉が次々と放たれる。

「逃げろ!」

「盾を構えるんだ!」

 慌てふためく兵士たちの頭上を、炎の雨が襲う。


 炎は兵士に触れ話た瞬間に大きく爆ぜ、周囲を巻き込み人々を跳ね飛ばしていく。

「ぐあぁぁぁ!」

「あ、熱い!熱い...!」

 燃え盛る炎は消えることなく、次々と犠牲者を生み出す。


「オォォォォーーーン」

 レギオンの百の顔が一斉に口を開き、おぞましい音を放つ。

 それは叫びでも歌でもない、魂を引き裂くような不協和音。

 特殊攻撃、怨霊讃歌だった。


「がはっ...!」

 音波の直撃を受けた兵士たちが、体を歪める。

 内部から骨が砕け、精神が引き裂かれていく。

「う...あ...」

 言葉すら発せないまま、血を体中から吹き出して地面に倒れていく。


 そして――

 閃光が走る。

 デュラハン・ナイトメアの剣が輝いた。

 一振りの円弧を描く剣筋が、複数の兵士の首を薙ぎ払う。


「へ?」

 実感すら湧かぬまま、次々と頭が宙を舞う。

 血が噴水のように吹き出し、赤い雨となって降り注ぐ。


「ひぃ、避けろ!」

「陣形を...陣形を!」

 しかし叫びも虚しく、三体のアンデッドによる死の舞踏は容赦なく続いていく。

 絶望的な戦力差を前に、どうしようもない現実が兵士たちの眼前を覆った。


 パチン――


 バートラムの指が鳴らす音が、死体の山を震わせる。


「さあ、我が子たちよ。目覚めの時だ」


 炎に包まれながらも立ち上がる死体。その体からは黒煙が立ち上り、燃え尽きることなく歩み続ける。

 レギオンの怨霊讃歌で魂を破壊された兵士たちは、今も苦悶の声を上げながら、機械的に動き出す。

 首のない胴体が、まるでデュラハン・ナイトメアの仲間のように起き上がり、よろめきながら歩を進める。


「な、なんてことを...!」

「た、助けてーーー!」

 生き残った兵士たちは、目の前で親しい仲間たちがアンデッド化していく光景に、恐怖で声を震わせる。


「美しい...実に美しい...これこそが新しい世界の姿。人族が消え去った後の...理想の形だ」

 月光の下、バートラムは歓喜に満ちた表情を浮かべる。


 生ける屍となった兵士たちが、かつての仲間に向かって這いずり寄る。

 中庭は瞬く間に、地獄がそのまま地上に顕現していた。

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