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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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172話 決意の階段

 すこし時は戻る。


「それで、覚えてるか?新入り兵の訓練で、盾の持ち方すら分からなかったヴィクターをな...」

「ちょっとちょっと、ゲイブ殿。今じゃ私も衛兵長ですぞ」

「はっはっは!そうだった、そうだった。だが昔は本当に情けなかったぞ。盾を逆さに構えて、みんなの笑い者だったじゃないか」


 城門前で、ゲイブは昔の部下たちと談笑していた。

 十年以上前、彼が指導官を務めていた頃の思い出話に、兵士たちの表情も自然と緩んでいく。


「ゲイブ殿の特訓は鬼のようでしたからな」

「当たり前だ。お前らを一人前にするのが俺の仕事だったんだからよ」

「ですが、あの厳しい訓練のおかげで、私たちは今がある」

 衛兵長のヴィクターが懐かしむように言う。


「そうそう、あと笑い話といえば夜間訓練で...」


「ゲイブさんーーー!」


 慌ただしい足音と共に、エレナが駆け寄ってくる。

 その表情には明らかな動揺の色が浮かんでいた。


「大変です!地下室に...地下室に死体が...!領主館の地下が...!」

 息を切らしながら、エレナは必死に状況を説明しようとする。


「おい、待て。お前は...?」

 ヴィクターが不審げな目でエレナを見る。

「不審者か!?捕まえろ!」


「待て!」

 ゲイブの声が響く。

「彼女の話を聞け」


「しかし...」


「ヴィクター、お前らに話がある」

 ゲイブの表情が一変する。

「バートラムは、お前たちを欺いていた」

「何を...言うのですか?」

「帝国の税?モンスター対策の防衛費?全て嘘だ。奴は税を着服し、住民を拷問し、そして...」

 ゲイブは拳を固く握りしめる。

「冒険者たちを人身売買していたんだ」


「そんな...証拠が...」

「証拠は地下室にあります!今、遥斗くんと皇帝陛下が...!」

 エレナが叫ぶ。


「何!皇帝陛下だと!?」

 衛兵たちの間に動揺が走る。


「そうだ。これは陛下の作戦なんだ。俺たちはその協力者よ」

 ゲイブは真摯な表情で告げる。

「お前らも、本当の忠誠を示す時が来たんだ」


「し、しかし...」

 兵士たちが躊躇する中、エレナが必死の表情で訴える。


「お願いです!陛下が危ないんです!地下室では大変なことが...!私は皆に知らせるために、一人でここに来ました!」


 その言葉に、ヴィクターの表情が変わる。

「すまない、確認させてもらう」

「全員に知らせろ!皇帝陛下救出のため、即刻出陣する!」

 ヴィクターの号令が響く。


「俺は街の連中に伝えてくる。お前ら、準備を急げ!」

 兵士たちが散っていく中、ゲイブは夜の街へと駆け出した。


「こちらです!早く!」

 エレナも地下室の入口を目指し、ヴィクターたちを先導する。


(もしかしたら...もう遥斗くんたちが解決しているかもしれない)

 廊下を走りながら、僅かな希望が胸をよぎる。


 地下室の入り口は、領主館の一階奥まった場所にあった。

 松明の灯りが不気味な影を作り出し、湿った空気が鼻をつく。


「本当に陛下がここに...?」

 若い兵士の一人が不安げに呟く。


「とにかく、まずは偵察を...」

 ヴィクターが提案しかけたその時。


 ドォォォン!!


 地下から轟音が響き渡る。


「そんな...戦いが...!」

 エレナは即座にマジックバックから魔力銃を取り出す。

 その手が小刻みに震えていた。


 ヴィクターは部下たちと目配せを交わし、剣を構える。

「援軍を待ちましょう。この人数では...」


 しかし連続する爆発音と共に、エレナの理性が崩れ始めていた。


 地下で何が起きているのか。

 遥斗たちは無事なのか。

 想像するだけで胸が締め付けられる。


(遥斗くん...大丈夫なの?)

 魔力銃を握る手に力が入る。

(...このまま見ているだけなんて...できない!)


 地下室から響く爆発音に、エレナの体が震える。

「遥斗くん!」


「お嬢さん、あと少しで仲間が集まります。動かないで」

 ヴィクターがエレナの様子を懸念し、警告を発する。


「でも...!」

 地下から響く激しい音が、エレナの心を引き裂く。

「今、皆が戦っている...!」


(冷静に...冷静に考えなきゃ)

 エレナは必死で理性を保とうとする。

 確かに自分の戦闘能力は低い。

 一人で突入しても、足手纏いになるのが関の山。

 それは分かっている。頭では理解している。


 しかし――


 轟音と共に、地下室から悲鳴が聞こえてくる。

(遥斗くん!マーガス!ユーディ!皆...!)


 魔力銃を握る手に力が入る。

 恐怖で震える足を、必死で抑え込む。


「駄目だ!危険です!」

 ヴィクターが制止しするが、ついにエレナは階段へと踏み出した。


「ごめんなさい...もう...待てないの!」

 エレナの声が小さく漏れる。


 エレナの金髪が風を切って揺れる。

 ヴィクターの制止の声も、もはや彼女の耳には届かない。


 覚悟を決めた少女は、暗い階段を一歩一歩駆け下りていく。

「遥斗くん...今行くから...!」


 暗い階段を駆け下りているエレナの耳に、地下方向から急いで上がってくる大勢の足音が響く。


「あ...」

 エレナが立ち止まったその瞬間、白銀の鎧に身を包んだエーデルガッシュが階段を駆け上がってきた。


「エレナ!?上に逃げろ!早く!」

 皇帝の声が階段に響き渡る。

 一瞬の間もなく、白い影が彼女の脇を通り過ぎていく。


 次いで現れたのは遥斗。

「エレナ!」

 彼は走りながら、咄嗟にエレナの手を掴む。

「来て!」


 エレナは混乱しながらも、遥斗に引かれるまま階段を上る。

 すぐ後ろでは、アレクスが意識を失ったマーガスを担ぎ、ケヴィンとサラが殿を務めていた。


 地上に出た一行。遥斗は即座にマーガスの状態を確認する。

「これは...!」

 マーガスの体には深い傷が刻まれ、呼吸も浅い。

 遥斗は急いでマジックバックから中級HP回復ポーションを取り出し、マーガスの口に流し込む。


「一体...?」

 事態が呑み込めないエレナが尋ねかけた時。


「全員、中庭に出ろ!防衛態勢を取るんだ!ヴィクター殿!兵士を集めてください!アンデッドが来ます!」

 ケヴィンの号令が響く。


「遥斗くん...?何があったの?」

 エレナの問いかけに、遥斗は短く、しかし重大な事実を告げる。


「バートラムはネクロマンサーだった。強力なアンデッドを操ってる」

「そんな...」

「レギオン、ジェスター・コープス、そしてデュラハン・ナイトメア」

 遥斗の声は張り詰めていた。

「もう個別の戦いは通用しない。総力戦になる」


 エレナの顔から血の気が引く。

 デュラハン・ナイトメアの強さは遥斗から聞いていた。

 その他に、2体もの強力なアンデッドになると考えると、背筋が凍る。


「早く中庭に!」

 サラの叫びが響く中、地下室から不気味な音がゆっくりと迫っていた。

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