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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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169話 偽りの慈悲、狂気の実験室

 地下室の松明が、異様な影を壁に映し出していた。

 バートラムは目隠しをされた四人の周りをゆっくりと歩き、まるで上等な品物を品定めするように、一人一人を観察していく。


「それで...職業は?」

 バートラムは唇の端を吊り上げながら、サラに向かって尋ねる。


「はい。錬金術師、アイテム士、白銀操術戦士、そして...剣聖でございます」

 サラは丁寧に一礼しながら答えた。


「ククク...フワァーハハハハハ」

 バートラムの低い笑い声が地下室に響き渡る。

「なんと贅沢な...アイテム士以外は全てレア職業とは」


 紫の瞳が妖しく輝きを増す。

 特に、その視線は目隠しをされた少女に注がれていた。

「この若さ、そして剣聖とは...実に興味深いな」


 笑いが止まらないバートラムに、ケヴィンが尋ねた。

「バートラム様、一つご相談がございます」


「ほう?」

「最近の入港税の追加により、我々の活動に支障が出始めております。今後どのようにすれば...」


 バートラムは言葉を遮るように手を上げ、しばし思考に耽る。

(準備はほぼ整った...もはやグリーズファンガスなど...用済みだ。だが、まだしばしの時間が必要...)


「ふむ」

 ゆっくりと目を開き、バートラムは優雅に言葉を紡ぐ。

「実はな...帝都から調査が入るという情報が入っている。その対応もあり、しばらくは静かにしていた方がよい...だろうな」

「しかし、我々は...」

「なに心配することは...ない」

 バートラムは柔らかな微笑みを浮かべる。

 その表情の下に潜む殺意に、誰も気付いていなかった。

「全ては...私が責任を持って...処理する。それまでは...待つがよい」


「これは...」

 ケヴィンは差し出された金貨を見て、言葉を詰まらせる。


「10枚だ。しばらく仕事が減ることへの埋め合わせとしてな」

 バートラムは丁寧な態度で告げる。


「これはすごいですね...」

「どうした...気に入らんか?」

「滅相もない!」


 ケヴィンは懐に金貨を収めながら、唐突に話題を変える。

「そういえば、最近港で奇妙な噂を耳にしまして」

「なんだ?」

「ええ、夜な夜な黒い影が海の上を渡っているとか...」


 バートラムの眉が僅かにピクリと動く。

「それがどうした...つまらぬ...噂だな」

「いえ、それだけではございません。漁師たちの間で、魚の群れが急に消えるという話も...」

「...」

「それと商人たちの...」

「それが...何だというのだ...」

 苛立ちを隠せなくなったバートラムの表情が強張る。


 その時――

「う、う、うわああああぁぁぁ!」


 奥の通路から悲鳴が響き渡る。

 バートラムは弾かれたように振り返り、通路へと駆け出していく。


 その先にあったのは、想像を絶する光景だった。

 巨大な実験室。無数の装置が壁一面に並び、その一つ一つに人が繋がれている。

 肉体を切り刻む装置、魂を抽出する魔導具、再生と破壊を繰り返す生命の歪な循環。


 天井まで届く巨大な円柱には、透明な液体の入った無数の管が繋がれ、その中で人の魂が蠢いていた。

 床には血が川のように流れ、壁には人体の一部が無造作に放置されている。


 そこで、アレクスが膝を震わせていた。

 巨体は完全に凍りつき、恐怖で声すら出ない。


「おまえ...どうして...なぜ...ここにいる。先ほどまで...確かに私の目の前に...」

 バートラムの声が低く唸る。


 アレクスの喉から、意味をなさない音が漏れる。

 巨体は恐怖で震えるばかりで、まともな言葉を発することもできない。


「貴様...」

 バートラムの紫の瞳から、人としての理性が消え失せる。

 殺意むき出しの姿で、彼はアレクスに向かって歩を進める。


「待て!」

 ケヴィンが赤熱の槍を構えながら、部屋に飛び込んできた。


 その直後、悲鳴とも叫びともつかない声が響く。

 実験室に入ったサラが、その惨状を目の当たりにして膝から崩れ落ちる。

「こ、これは...いったい...」


「くくく...なるほど。先ほどまで一緒にいたアレクスは幻術か...貴様ら...何が目的だ?」

 バートラムの笑い声が歪む。


「こちらの台詞だ!」

 ケヴィンの声が怒りに震える。

「お前こそ、何者なんだ!これは一体...」


「お前たちが知る必要などない」

 バートラムが静かに、しかし威圧的に答える。


「いいや、知る必要はあるぞ」

 冷たい声が実験室に響き渡る。


「洗いざらい吐いてもらおうか、バートラム・ザイル!」

 その声の主に、バートラムが振り向く。

 入口には白い髪の少女が立っていた。その背後には遥斗とマーガスの姿もあった。


「次から次へと...いい加減にしろぉぉぉ!」

 バートラムの表情が完全に歪む。


 バートラムが懐から取り出したのは、黒檀で作られた呼子。

 その装飾には、複雑な紋様が刻まれている。

(まずい!兵士を呼ぶ気だ!)

 ケヴィンがバートラムの意図に気が付くが、その対処は間に合わなかった。


 瞬間――

「ポップ!」

 遥斗の掌から放たれる光が、周囲の空気を歪ませる。

 音爆弾の生成。

 呼子から漏れかけていた音が、まるで吸い込まれるように消失した。

 空気中の振動すら、全てが素材として吸収されていく。


「な...に!?」

 バートラムの表情が凍りつく。


 その一瞬の隙を、ケヴィンの赤熱の槍が突く。

 閃光のような一撃が、呼子を弾き飛ばす。

 黒檀の呼子は、実験室の床を転がっていった。


「くっ...」

 バートラムに、初めて焦りの色が浮かぶ。


「すまんな、佐倉遥斗。まだこやつには、聞かねばならんことがあるのでな。邪魔はされたくない」


 遥斗が頷くと、ユーディは一歩前に踏み出す。

 深い緑の瞳が、燃えるような怒りを湛えている。


「答えよ、バートラム・ザイル。貴様何者だ!」

 小さな体から放たれる威圧感が、実験室全体を支配する。

「ゲオルグとどういう繋がりがある!」

「ゲオルグ...?なぜ...その名が...」

 バートラムの表情が僅かに歪む。

 その視線は目の前の少女を捉えながら、何かを思い出そうとしているかのようだった。


(この顔...どこかで...)

 バートラムの目が泳ぐ。

 確かにどこかで見た顔。

 だが、記憶の中で結びつかない。


「領主ともあろうものが、余の顔を見忘れたか!」

 少女の声が地下室に響き渡る。

「不敬であるぞ!」


 その瞬間、バートラムの脳裏で何かが弾ける。

 その言葉遣い、その威厳、そしてその姿。

 全てが一つの答えへと結びついていく。


「まさか...」

 バートラムの声が震える。

「ヴァルハラ帝国皇帝...エーデルガッシュ・ユーディ・ヴァルハラ...!?」


 松明の灯りが揺らめき、少女の影が大きく広がる。

 それは皇帝の威光そのものが具現化したかのようだった。

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