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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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164話 奪われた誇り

 冷や汗が、ゲイブの褐色の肌を伝い落ちる。

 得体の知れぬ恐怖が、彼の全身を支配していた。


(何が...何が起きた?)

 自分の体の中で、何かが欠落している。

 まるで魂の一部が抜け落ちたかのような、不自然な空虚感。


 高度な奥義を繰り出そうとしても、体が思うように動かない。

 長年磨き上げた技の数々が、まるで霧のように薄れていく感覚。


 一方、遥斗の体からは異質な気が立ち昇っていた。

 先ほどまでの彼とは明らかに違う、より深い、より洗練された武の気配。

 それは、まるでゲイブから失われた力が、遥斗の中で昇華されているかのようだった。


(まさか...俺の...能力が...?)

 ゲイブの脳裏に恐ろしい推測が浮かぶ。

 琥珀色のポーションが生成された瞬間、確かに自分の中から何かが抜き取られた。

 そして今、目の前の少年は、より高みへと昇り詰めている。


 それは紛れもない事実だった。

 遥斗はゲイブの職能、武道家としての力そのものを素材として利用し、さらなる高みへと到達していたのだ。


「こ、こいつぁ一体...」

 震える声で呟くゲイブの目の前で、遥斗の姿が風のように揺らめいていた。


「烈空掌!」

 渾身の一撃が放たれる。

 先ほどまでと変わらぬ威力を秘めた衝撃波が、遥斗へと向けて放たれた。


 だが、遥斗の体は軽やかに宙を舞う。

「柳の型」

 その動きは、ゲイブのそれを完全に凌駕していた。


「百烈掌!」「砕岩撃!」「天翔脚!」

 ゲイブは使えるだけの技を全て繰り出す。

 パワーもスピードも衰えてはいない。

 それでも――。


「それぞれ隙が大きいね」

 遥斗の冷静な声が響く。

 ゲイブの百烈掌を、さらに速い連撃で打ち消していく。

 砕岩撃は受け流され、天翔脚は簡単に回避された。


「くっ...」

 焦りの色が濃くなる。

 自分の得意技、磨き上げてきた技の全てが、まるで初心者のそれのように読み破られていく。


(ここまでか!?)

 その時、ゲイブの目が閃いた。

(いやいやっ...まだだ!)


 遥斗の蹴りが放たれる。

 その瞬間を狙って――。

「奥義・転身落!」


 ゲイブの体が、意図的に蹴りを受ける。

 だが、その衝撃を利用して大きく体を回転させ、遥斗の足を掴み取る。

 柔の理合いを極めた技。

 相手の力を利用し、一気に投げ飛ばす奥義。


 遥斗の体が宙を舞う。

 ゲイブの巨体が、重力を付加するように上から覆いかぶさる。

 地面に叩きつけられた衝撃で、遥斗の体が跳ね返った。


 さらにゲイブの腕が遥斗の関節を固定する。

「これで終わりだぁ!」

 途轍もないパワーで関節を極めていく。

 逃げ場のない体勢で、遥斗は完全に押さえ込まれていた。


「どうだ!これが俺の本当の力だ!」

 ゲイブの豪快な声が響く中、右腕が遥斗の肘関節をゆっくりと反らしていく。

 左手は遥斗の手首を捉え、逆方向に捻り上げている。


「この腕力は誰にも劣らねぇんだよ!」

 肩関節が軋むような音を立て、遥斗の腕が限界に近づいていく。

 120kgはある巨漢の体重が、巧みな角度で関節に圧力を加えていた。


「これだけの力があれば、たとえ技を奪われても...!」

 さらに力を強める。

 地面に押さえつけられた遥斗は、もはや指一本動かせない状況。


「へぇ...確かに凄いパワーだね」

 遥斗の声には、まったく緊張が感じられない。


「当然だ!これが俺の誇りだ!」

 ゲイブは得意げに力を込める。

 しかし、遥斗の表情は相変わらず穏やかなまま。


「誇りか...面白いね」

 遥斗はまるで、実験データを観察するかのような冷静さで続ける。

「君にとって、力ってそんなに重要なんだ?」


 その言葉にゲイブの動きが一瞬止まる。

「な...何?」


「その『誇り』...無くなったらどうなるのかな...」

 遥斗の唇が、薄く歪む。

「ポップ!」

 遥斗の掌に、深紅の液体が浮かび上がる。


 生成したのは「力のポーション」。

 ヴァルハラ帝国で覚えた、力量のステータスを上げるアイテムだった。

 生成の為には、誰かの力量のステータスを素材にしなければならない。

 素材にしたのは、当然ゲイブのもの。


「なっ...!」

 突如、ゲイブの体から力が抜けていく。

 関節を極めていた腕の力が、まるで砂時計から零れ落ちる砂のように失われていく。


「ポップ!」

 もう一度、掌に深紅の液体が生まれる。


「や、やめろーーー!」

 だが、既に遅かった。

 二度目の力のポーション生成により、ゲイブの腕から残された力が奪われていく。

 もはや少年の体を押さえつけることすら困難になっていた。


「さてと...」

 遥斗の声が静かに響く。

 その言葉と共に、遥斗の体が捻られた。

 逆関節の体勢から、簡単に振りほどいたのだった。


「ぐあっ!」

 力ずくで技を解かれたゲイブが呻く。

 圧倒的な力の差を見せつけられたゲイブは、咄嗟に後方へと距離を取った。


 その目には、もはや戦意など微塵も残っていない。

 ただ純粋な恐怖だけが、血走った瞳に浮かんでいた。


 ゲイブの目が、獣のように周囲を伺う。

(なんとしても逃げねば...!)

 スピードを活かして態勢を立て直す――それが彼の頭の中を支配する唯一の思考だった。


 遥斗の姿は、もはや怪物としか思えない。

 技を奪い、力を奪い、そして今も冷徹な目で獲物を見つめている。


「出来ると思う?」

 にっこりと笑う少年の声が、ゲイブの背筋を凍らせる。

 全てを見透かされているという恐怖が、彼の全身を支配していく。


 その瞬間、ゲイブの体が地を蹴る。

 だが――

「ポップ!」

 遥斗の掌に、黄金色の液体、「加速のポーション」が現れる。


 瞬間、ゲイブの動きが明らかに鈍る。

 足が重い。体が思うように動かない。

 今までの俊敏な身のこなしが、まるで夢のように遠のいていく。


「な、なぜだぁ...!」

 パニックに陥りながら、それでも必死に逃げようとする。


「ポップ」

 さらに一つ、加速のポーションが生成された。


 もはやゲイブの動きは、老人のそれと変わらない。

「く、くそっどうなってやがる...!」

 足を引きずるような動きで何とか逃げようとしたが、地面に転がる石に躓いた。


 ドサッ、という鈍い音と共に、巨体が地面に倒れ込む。

 起き上がろうとしても、体が言うことを聞かない。

 まるで泥の中でもがくような、途方もない鈍さで手足が動く。


「はぁ...はぁ...」

 恐怖と焦りで荒い息を吐きながら、地面を這って前進を試みる。

 その背後では、遥斗がゆっくりと歩みを進める音が聞こえてくる。


「ケ、ケヴィーーーン!」

 這いずる姿のまま、ゲイブが涙声で叫ぶ。

「た、助けてくれーーーー!」


 かつての豪傑は、今や涙と涎を垂らしながら赤子のように泣き叫んでいた。

 筋骨隆々とした巨体が、ただ地面を這いずり回る姿は痛ましく、そこにはもはや一片の威厳も残されていない。


「怖い...怖いんだ...!こいつ...化け物なんだーーー!」

 取り乱したゲイブは、まるで親を求める子供のように、ケヴィンの名を絶叫し続ける。


 遥斗はその光景を、実験の当然の結果を観察するかのように、冷淡な目で見つめていた。



 ザシュッ!



 ケヴィンが赤熱の槍を構えながら、二人の間に割って入る。

「遥斗君、これ以上は...!」

 その表情からは、いつもの爽やかな笑顔が消え失せていた。

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