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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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161話 職業の理を超えて

 遥斗は、エレナが作り出した琥珀色のポーションを受け取る。

 すぐにアイテム鑑定を行った。


 -武道家のポーション-

 武道家の職業が追加される。能力値には職業補正がかかり、武道家のスキルを得る。効果時間:1時間。


(予想通りだ...)

 遥斗はフェイトシェイバーを完全に理解した。

 この短刀が何故封印されていたのか。

 使い方によっては、まさに世界を揺るがす能力を秘めている。


 神に与えられる職業は1人につき1つ。

 その絶対なる真理を、クロノス教団は職業の上書きという手段を用いて覆した。


 しかしフェイトシェイバーは違う。

 時間制限があるとはいえ、職業の書き換えではなく、「追加」なのだ。

 この力は果たして、世界の理を越え、どうなっていくのか。



「ありがとう、エレナ」

「うん!」

 エレナは満面の笑みで応えた。

 遥斗に必要とされたこと、その一点が何よりも嬉しかった。


 遥斗はポーションを意識に刻み込む。

 武道家のポーションが、新たにアイテム登録された。


 そして、ためらうことなくポーションを飲み干す。

 琥珀色の液体が喉を通り、遥斗の全身に広がっていく。

 生命の奥深くに、武道家という職業が刻み込まれる感覚。


 次の瞬間、いくつかのスキルが意識に流れ込んできた。


 立ち上がった遥斗は、すぐさまスキルを発動する。

「息吹!」


 大きく深い呼吸と共に、全身に生命力が巡る。

 内臓の破裂による出血が止まり、体の状態が正しく修正されていく。

 失われたHPが回復していった。


「エレナ、待っていて。マジックバックを取って来る」

 遥斗の声に、エレナは頷きだけで応える。


 アレクスに向かって走り出す遥斗。

 加速のポーションを使った時とは、まるで違う感覚だった。

 時間の流れが遅くなるのではない。

 自分自身の身体能力が、根本から強化されているのを実感する。


 アレクスは既に巨大な盾を構えていた。

 その横では、サラが補助魔法の準備を整えている。


「シールドバッシュ!」

 アレクスの雄叫びと共に、盾が突き出される。

 その威力は、岩をも砕くほどの破壊力を持っていた。


 だが遥斗は、大地を力強く踏みしめると右手の縦拳を繰り出す。

 それは先ほどゲイブが放った「崩撃」。

 武道家の魂を抽出した時に、その技も共に得ていたのだ。


 鈍い衝撃音が山肌に響く。


(な...何てことだ...!)

 アレクスの目が見開かれる。

(あ、あんな小さな体で、こ、この俺と互角に...!)


 サラも驚愕の表情を隠せない。

 目の前で起きている光景が、現実とは思えなかった。

 巨体のアレクスが渾身の力で放ったシールドバッシュを、遥斗は真正面から受け止め、互角の打ち合いを演じていたのだ。


 アレクスは遥斗の攻撃に本能的な恐怖を覚え、即座に防御態勢に入る。

「シールドウォール!」


 盾から放たれた魔力が壁となって広がり、完全な防御圏を作り出す。

 確かに魔力は刻一刻と失われていく。

 しかしサラの補助魔法がある限り、この防壁は決して破られることはない。


(こ、これで...完璧だ)

 アレクスの中で、小さな安堵が広がる。

 守備において最強――それは誇り高き盾術士の自負だった。


「ありがとう」

 遥斗の静かな声に、アレクスは全身の筋肉が萎縮する。

(な、な、なぜ礼を...?)

 その疑問の答えを知るまでもなく、遥斗の手が光を放った。


「ポップ!」

 遥斗の掌に、緑色に輝く最上級HP回復ポーションが出現する。


 ポーション生成には必ず素材が必要となる。

 等価交換の原理――それは遥斗のアイテム士としての根幹を成す知識。

 しかしそれは、遥斗だけが知る真実だった。


 そして今、その素材となったのは――アレクスのHPそのもの。


「うっ...!」

 突如、アレクスの体から力が抜けていく。

 理由も分からぬまま、巨体が地面に崩れ落ちる。


「な...何を...」

 アレクスの視界が霞み始める。

 HPが一瞬のうちに奪われ、意識が遠のいていく。

 シールドウォールは魔力の供給を失い、もろくも崩れ去った。


 遥斗の生成は攻撃にあらず。

 ゆえに防御で防ぐことは敵わない。

 完璧な防御の殻に閉じこもった瞬間こそが、最大の隙だったのだ。


 自分を守るアレクスがいなくなったことで、無防備になったサラが咄嗟に錫杖を振りかぶる。

「この!」


 一見ひ弱そうな杖だが、魔力を纏わせることで見た目以上の破壊力を持つ。

 しかし――その時既に遥斗の拳は動いていた。


 鈍い音が響く。

 崩撃がサラのみぞおちに深く沈み込んでいた。

「がはっ...!」

 白目を剥いて、サラの体が崩れ落ちる。


 遥斗は気絶したアレクスの傍らから、自分とエレナのマジックバックを回収する。

 その動作の中で、彼は確信を得ていた。


(やっぱり...二つの力を同時に使える)

 それらは互いを打ち消し合うことなく、むしろ相乗効果を生み出していた。


 先ほどの一連の戦いは、その証明でもあった。

 アイテム生成能力と、武道家の戦闘技術。

 その組み合わせが、新たな戦い方を可能にしている。


 遠目に戦いを見ていたゲイブは、アレクスとサラがあっけなく倒れる様子に呆然としていた。


「ケヴィン!」

 ゲイブが怒りに任せて部下の襟首を掴む。

「おいおい!話が違うじゃねえか!あいつはアイテム士だって言ったよな!なんで格闘術を使えるんだ!」


「ちょ...違います、ゲイブさん」

 ケヴィンは爽やかな笑顔を崩さない。

「確かにアイテム士でした。自分でもそう言ってましたし、俺も間違いないと判断しました」


「なら、なんだあの強さはよ!?」

「さぁ...」

 ケヴィンの表情が曇る。


「でも、それより大問題です」

「何が問題だ」

「マジックバックを取られました。あの中には...」

「あの中には何だ?」

「武器が入っているんですよ...とんでもなく強力な...魔力銃ってやつが...」

 ケヴィンの顔から血の気が引いていく。


「チッ!」

 ゲイブは舌打ちし、ケヴィンの襟首を放す。

「くそっ!なぜ早く言わん!お前らぼさっとすんな!やっちまえ!」


 ゲイブの号令と共に、グリーズファンガスの面々が一斉に襲いかかってくる。


 その時すでに、遥斗の元にエレナが駆け寄っていた。

「エレナ、取り返したよ」

 遥斗はマジックバックを差し出す。


「あ、ありがとう...」

 少しだけ戸惑った様子でバッグを受け取る。

 あまりに冷静な遥斗に、エレナはほんの僅かだが恐怖を覚える。


 受け取ったマジックバックを開け、魔力銃を取り出す。

 そして恐怖心の弾丸を装填していく。

 命中した相手を恐怖状態にし、戦闘不能に追い込む特殊な弾丸だ。

(私に人は...殺せない...)


 それを察したように、遥斗が静かに告げる。

「援護をしてくれればいいよ、お願い」


 そう言い残すと、白い軌跡を描いて、遥斗は敵陣へと飛び込む。

 アイテム士でありながら、魔力銃ではなく格闘戦を選択した。

 エレナは遥斗の背中を見つめながら、しっかりと魔力銃を構える。

 もう迷いはない。

 遥斗を守るため、彼女は引き金を引く覚悟を決めた。

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