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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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157話 通行の代償

 シルフィスの風が、イーストヘイブンの港に停泊する。

 甲板から見える岸壁には、黒い鎧に身を包んだ兵士たちが立ち並んでいた。


「なんだこれは!?なぜ降りられないんだ!」

 船長が怒声を上げる。


「ここから先は通行止めだ。港に入りたければ入港税を払ってもらおうか」

 兵士の一人がのんびりと告げる。


「入港税だと?そんなもの聞いたことがない!」

 一人の商人が前に出て抗議する。

「私は十年来この港を使っているが、そんな税金など初めて聞くぞ!」


「へぇ、十年来ですかぁ。なら知っておくべきでしたね」

 兵士が意地の悪い笑みを浮かべる。

「新しい規則です。港に入りたい方は、一人につき銀貨10枚。簡単でしょう?」


 別の商人が叫ぶ。

「銀貨10枚!?ふざけるな!それじゃ利益なんて出やしない!」


「何が起きているんだい?」

 ケヴィンが船長に尋ねる。

「どうやら勝手に入港税なるものを設けたらしい。しかも法外な金額で、だ」

 船長は歯ぎしりしながら説明する。


「まぁまぁ、そう怒らないでくださいよ」

 兵士が軽薄な態度で手を振る。

「荷物だけなら...そうですねぇ、置いていってもいいですよ?」


「何!?」

 船長の怒りが爆発する。

「客の荷物を勝手にとる気か!」


「とる、なんて失礼な。お預かりするだけです。税金が払えないなら、それくらいの協力はしていただかないと」

 兵士がにやにやと笑う。


「これは完全な強盗だ!」

「誰の差し金だ!領主に訴えてやる!」

 商人たちの怒号が響く。


「皇帝陛下の勅命と領主様から伺っておりまーす」

 兵士は意味ありげな笑みを浮かべる。

「文句があるなら、直接言いに行かれては?まぁ、税金を払わないと港にも上がれませんがね」


 怒号と罵声が飛び交う中、遥斗たちは状況を見守るしかなかった。

 イーストヘイブンの港は、予想以上の暗雲に包まれていた。


「みなさん、どうしましょう?」

 サラが不安げに一行を見回す。


 ユーディの緑の瞳が怒りに燃えていた。

「ふざけた真似を!勝手に税を設けるなど言語道断!帝国領内でこのような所業が許されるはずがない!我は指示した覚えも許可した覚え...モガモガ!」


「ユーディ!」

 エレナが慌てて制する。

「落ち着いて!」

 エレナは必死に少女皇帝の口を抑え、羽交い絞めにする。


「ここは俺が行く!フハハハハハ、貴族の威厳を見せてやろう」

 マーガスが前に進み出る。


 マーガスはイーストヘイブンの港の兵士たちの前に、華麗に舞い降りた。

「よく聞け兵士たちよ!私はアストラリア王国辺境伯、ダスクブリッジ家次期当主、マーガス・ダスクブリッジだ!今すぐ無法を詫びてここを通すのだ!」


 兵士たちは顔を見合わせ、くすくすと笑い始める。

「へぇ、ダスクブリッジ?知らないなぁ、そんな名家」

「おいおい、子供の嘘にも程があるぜ」


「な...なんだと!?」

 マーガスの顔が怒りで真っ赤になる。

「この常識知らずの恥知らずが!無礼すぎるだろう!」


「まずいな...こんなところで揉め事になったら...」

 ケヴィンが焦りの色を見せる。


「マーガス、待って!」

 遥斗が人込みをかき分けて、マーガスのところに出てきた。

「ここは...お金を払った方がいいよ」


「何ぃ!?」

 マーガスが振り返る。


「目的を忘れちゃダメだ。僕達がここに来たのは...エルフの国に行くため。今はそれが最優先だろ?」

 遥斗は真剣な表情で訴える。


「しかい、このような言いぐさは許されるものではないだろうが!騎士として、これを見過ごすわけにはいかん!」


「モガモガ...!ウガウガ...!」

 エレナに口を押さえられたユーディも必死で何かを訴えようとする。


「おいおい」

 ケヴィンが不安そうに声を上げる。

「そんな大金、本当に払えるのかい?ひとり銀貨10枚っていったら...」


 サラも心配そうに続ける。

「ケヴィンの言う通りよ。私たちの依頼料に匹敵するわ...」


 遥斗がマジックバックに手を入れながら、小声で続ける。

「どうせエルフの国では人族の通貨なんて使えないでしょう?なら、ここで使い切ってもいいんじゃないかな」


「むぅ...」

 マーガスの表情が複雑に歪む。

 確かにエルフの国に入れば帝国の貨幣は無用になる。


「グムグム...!」

 ユーディが何やら激しく身振りをする。

 エレナは相変わらず必死に皇帝の口を押さえている。


「まさか、君たち...本当に払うつもりなのかい?」

 ケヴィンが驚いた表情で遥斗を見る。

「ええ」

 遥斗が銀貨の入った袋を差し出す。

「はい、70枚です」


「へへへ、お利口さんだ」

 兵士は下卑た笑みを浮かべながら袋を受け取る。

「さぁ、どうぞお通りください。イーストヘイブンへようこそ」


 一行は黙々と港を後にする。

 石畳の通りを進み、兵士たちの姿が見えなくなったところで、ユーディが爆発した。

「帝国がそのような税を認めているはずがない!我が直々に確認する!帝国法で明確に禁止されているはずだ!」


「でも...」

 サラが慎重に言葉を選ぶ。

「最近、帝都で大きなテロがあったと聞きます。もしかすると、復興のための税なのでは...」

「そのようなことは絶対にない!帝国が認可していない税を徴収することは、即ち反逆罪だ!」

 ユーディの反論は強く、断固としたものだった。


「まぁまぁ。とりあえず宿を探さないか?明日は早朝の出発になるよ」

 ケヴィンが場を和らげるように話しかけた。


「早朝ですか?」

 エレナが首を傾げる。


「ええ」

 サラが説明を始める。

「エルフの国に行くには、シルヴァリス山脈を越えないといけないんです。危険な山道ですから、出来るだけ明るいうちに越えましょう」


「シルヴァリス山脈...」

 遥斗はその名を繰り返す。

 銀色の岩肌と古代の伝説が残る山々。

 エルフたちの聖域を守る自然の要塞とも呼ばれる場所だ。


「そうね、だったら今日は早めに休みましょう」

 エレナも承諾する。

「あそこに宿があります」

 サラが石造りの建物を指差す。

「この辺りでは評判の良い宿なんですよ」

 一行は重い足取りで宿へと向かった。

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