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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第3章 マテリアルシーカー始動編

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154話 氷の墓標

「なんだ、あの水柱は!?」

 マーガスの声が、轟音にかき消されそうになる。

 水面から数メートルの高さまで立ち上がった水柱が、周囲に飛沫を撒き散らす。

 その水しぶきは陽光を受けて一瞬きらめき、小さな虹を作っていた。


「うおっ!?」

 バランスを崩したマーガスが手すりに掴まる。

 何が起きたのか理解できないまま、混乱した表情を浮かべる。

 その横を、遥斗とエレナが駆け抜けていった。

「マーガス!今よ!音爆弾で敵が水面に出てくる。この瞬間を逃すと、また水中に潜られちゃうわ!」

「なっ...待て!」

 慌てて立ち上がったマーガスは、白銀の弓を握り直す。

 二人の後を追いながら、ようやく状況を把握し始めていた。

(遥斗め、またこんな作戦を...!)


「あそこだ!」

 ユーディが船首から前方を指差す。

「次々と浮上してきているぞ!」

 波打つ水面から、銀色の巨体が次々と姿を現す。


 音爆弾の衝撃で気を失ったスケイルサーペントたちは、まるで浮きのように水面に浮かび上がってきていた。


「すごいね...これがアイテムの力か」

 ケヴィンは爽やかな笑顔の中に驚きを滲ませる。

「護衛の身だけど、こんな戦法は初めて見たよ。君たち、面白いパーティだ」


 12体の巨大な魔物たちが、ゆっくりと水面に浮かんでいた。

 音爆弾の一撃で、水中の脅威は一気にその牙を失っている。


「見事だ佐倉遥斗、12体を一撃で倒すとは」

 ユーディが満足げに頷く。

「まだです!」

 遥斗の声が響く。

「まだ倒せていません。気絶しているだけです。このまま放置すれば、すぐに目を覚ましてしまいます!エレナ、行くよ!」


「ファイア!」

 遥斗とエレナの掛け声が重なる。

 2人の放った氷結弾が、目標目掛け一直線に飛んでいく。

 白く輝く魔力の弾は、水面に浮かぶスケイルサーペントに直撃した。


 氷結弾がスケイルサーペントの銀色の鱗に命中した瞬間、白い霧をまき散らせながら弾け散る。

 中から放たれた無色透明の液体が、周囲に飛び散った。

 その液体は窒素だった。

 マイナス百九十六度という極低温の液化窒素は、触れたものを一瞬で凍結させていく。


 氷結弾の効果は、スケイルサーペントの体表から徐々に内部へと広がっていく。

 銀色の鱗は白く凍り付き、その姿はまるで氷の彫刻のようだった。

 気絶していたモンスターたちは、身動きすら取れないまま、次々と氷の牢獄に閉じ込められていく。


「マーガス!今だ!凍ったモンスターを狙って!」

 遥斗の声が響く。

「言われなくてもわかってる!」

 マーガスは左手のミスリルの弓を構え、魔力を込めていく。

 弦に架けられた矢が青白い輝きを帯び、オーラの光を纏い始めた。


「これで...トドメだ!マルチショット!」

 マーガスの放った五つの魔力の矢が、凍り付いた魔物たちを貫く。

 氷漬けとなった巨体は、ガラスが砕けるような音を立てて、粉々に破裂した。


「お見事!」

 ケヴィンが感嘆の声を上げる。

 砕け散った氷の破片は、まるで星屑のように光を放ちながら、光の粒子となって消えていく。

 その光景は幻想的で、水面に映る陽光と相まって、美しくさえあった。


「リロード!」

 遥斗の掛け声が響き、素早い手つきで魔力銃に通常弾を装填していく。


「アルケミック!」

 エレナの詠唱が始まる。

 彼女の手の中で、氷狼の霜毛と通常弾が白い光に包まれる。

 光の中で二つの素材が溶け合い、水の結晶のような模様が刻まれた冷凍弾が完成した。

 それを手際よく魔力銃に装填していく。


「ファイア!」

 遥斗の掛け声で、二人の魔力銃から弾が放たれる。

 遥斗の放った通常弾は、凍り付いたスケイルサーペントの体を貫いていく。

 氷のように脆くなった鱗を砕きながら、魔力の弾は巨体を粉砕していった。


 エレナの冷凍弾は、まるで霜の花が咲くように、着弾したスケイルサーペントを中心に白い結晶の網目を広げていく。

 気絶しているモンスターの体が、次々と氷の彫刻へと変わっていった。


「マルチショット!」

 マーガスが放った五つの魔力の矢は、それぞれ標的を捉える。

 氷漬けとなった残りのスケイルサーペントたちは、一斉に砕け散った。

 光の粒子となって消えゆく魔物たちを、シルフィスの風の乗組員たちが呆然と見つめていた。

 たった4人の連携で、水中の脅威は完全に排除されたのだ。


「あっ!素材が...!」

 エレナが声を上げる。

 スケイルサーペントの体から放出された素材――銀色に輝く鱗が、次々と水底へと沈んでいく。


「仕方ないよ、倒せただけでも幸運だったと思うよ...」

「そうよね。あのままだったら、私たちみんな蛇のエサだったんだから」

 危機を脱した遥斗に、エレナに柔らかく微笑みかける。


「うー、しかしもったいないぞ」

 マーガスが歯痒そうに呟く。

 貴重な素材を目の前で失うのは、遥斗もアイテム士として辛いものがあったが、誰も傷つかずに生き残れた喜びの方が大きかった。


 遥斗、エレナ、マーガスが赤い光に包まれる。

「レベルアップしたみたいだね、おめでとう」

 ケヴィンが3人の様子に気が付いて祝福してくれた。


「大丈夫ですか!?」

 サラが真っ先に駆け寄ってくる。アレクスも無言で続く。

「みなさんご無事でよかった。さすがはケヴィン、敵の攻撃から完璧に守り切りましたね」

 サラがケヴィンに賛辞の言葉を述べる。


「いやぁ」

 ケヴィンは後頭部を掻きながら説明を始める。

「実は俺、ほとんど見てるだけだったんだ...彼ら完璧な連携プレイだった」


「そ、そうなんですか?私たち、必要なかったのかもしれませんね...」

 サラが俯く。


「そんなことないわ!」

 エレナが即座に首を振る。

「ケヴィンさんが槍で魔力の鱗を防いでくれなかったら、作戦を実行できなかったもの。アレクスさんの盾のおかげで、私たちは安心して戦えたわ」


「その通りです、レディ」

 マーガスが一歩前に出て、優雅に頭を下げる。

「あなたの勇敢な行動がシルフィスの風を救ったのですよ」

 王国騎士に恥じない態度で接するが、どこに出しても恥ずかしい台詞だった。


「いや、今回の勝利は明らかに佐倉遥斗の手柄であろう」

 ユーディが冷静に指摘する。

「ふん、お子様には、このマテリアルシーカーのリーダーであるマーガス様の、巧妙なる采配が理解できないようだな」

 マーガスが高慢に嗤う。


「ほう?お子様とは...剣でその言葉、証明してもらおうか」

 ユーディの緑の瞳が鋭く光る。


「まぁまぁ」

 ケヴィンが二人の間に入る。

「それにしても、アイテム士がなぜこのパーティにいるのか不思議だったけど」

 爽やかな笑顔で遥斗を見る。

「君がこのパーティの頭脳だったってことね。納得したよ」


「い、いえ、そんな...」

 遥斗は赤くなって俯く。

「みんなが協力してくれたから上手くいっただけです。一人じゃ何もできませんから」


「いや、君は立派だよ」

 ケヴィンは親指を立てて、満面の笑みを向ける。


「的確な判断を下し、仲間の力を最大限に引き出せる。その能力は誇っていいぞ」

 サラが静かに頷き、アレクスも珍しく表情を緩める。

 アイアンシールドの面々が、無言で同意を示していた。


「ありがとうございます」

 遥斗は深々と頭を下げる。

 胸の中に、温かなものが広がっていく。


 アイアンシールド。

 遥斗はこのパーティに出会えて、本当によかったと感じた。

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