145話 寄せ集めパーティ結成
イザベラ達とアリア、トムは会議が終わるとアストラリア王国へ旅立つ準備を進めていた。
トムは最後まで別れを惜しんでいたが、アリアが急いでいたため引きずられるように馬車に乗せられる。
「遥斗、よく聞け。ルシウスから預かった転移のペンダントは1回限りのアイテムだ。マーガスが今している物は、全ての効果が無い。お前らの動向も分からないし、助けにも来てやれねぇ。十分に注意しろ」
アリアに珍しく真剣さが浮かんでいた。
「分かりました、無理はしません」
「ホントかよ、いっっっつも無茶ばかりしてるくせに!必ず生きて帰って来いよ、また鍛えてやるから」
「はい!」
アリアの横からイザベラが割って入ってきた。
「遥斗殿」
「イザベラさん」
視線が合う。
幽閉塔での時間は、2人にしか分からない通じ合う何かをもたらしていた。
生死を共にした者同士の絆かもしれない。
「貴方には大変失礼な事をしましたが、どうかアストラリア王国を悪く思わないでください」
イザベラが申し訳なさそうに目を伏せる。
「ええ、分かっています。最後に確認しておきたいんですが、涼介たちの行方は本当に知らないんですか?」
「はい、少なくとも私は知りません。エリアナ様の事です、あえて誰にも分からないようにしたのではないでしょうか?」
「そうですか、ありがとうございます」
「とんでもない!お礼を言うのは私の方です。命を救われた上に、帝国との同盟の話まで...この事は必ず報告させていただきます」
「でも王国では、これからスタンピードにどう対抗するのでしょうか?」
「おそらく今まで通りかと。人族が闇を拡大させているなど、簡単に認められる話ではないですから...」
「そうですよね...でも、もしそれが本当なら世界の在り方を変えないといけない。僕は真実を知りたいんです」
イザベラは最初見た、ひ弱そうな少年とはかけ離れた、眩しいまでの輝きを放つ遥斗に舌を巻く。
少年のその瞳には、もはや迷いは見えなかった。
「それでは道中お気を付けください」
「はい、遥斗殿も必ずアストラリア王国に帰って来てください。光翼騎士団を挙げて歓待いたします」
「その時は是非!」
こうしてイザベラ達はアストラリア王国に向けて旅立った。
馬車が遠ざかる様子を、遥斗は静かに見送った。
その日の午後、再び会議室に集合した遥斗たち。
もちろんエーデルガッシュとブリードも参加している。
緊張感漂う空気の中、遥斗が恭しく少女皇帝に尋ねた。
「陛下...本当に調査団に加わるのですか?」
「加わるも何も行くのは余だけだぞ?」
驚きで椅子から転げ落ちそうになる。
「ブ、ブリードさん...いいんですか?」
「良いわけなかろう。しかし陛下が頑として聞かんのだ...」
「現在帝都は復興に向け人手が足りん、調査に割ける人材がいないのも事実」
散々止めたのであろう、ブリードの顔は憔悴しきっていた。
数日間の激務と皇帝との攻防ですっかり老け込んでいる。
「クロノス教団とやらがエルフの国と繋がっていたら、ヴァルハラ帝国としての決定を即座に下す必要もある。どうやら余は命を狙われておるらしいし、身を隠すのにも最適なのだ」
エーデルガッシュの言葉には、慎重に練られた打算が込められていた。
「確かにそうね...」
エレナは皇帝の言葉に納得している。
その判断には、政治的な意味合いも含まれていることを理解していた。
「ブリードさんじゃダメなんですか?」
遥斗が質問した。
「今は宰相がいない。軍務尚書が宰相の分まで仕事を担わなければならんのだ。私まで居なくなればこの国の活動は完全に麻痺してしまう」
ブリードの説明には反論の余地が全くなかった。
「皇帝は居なくても大丈夫ということか」
マーガスが相変わらず、処刑になりかねない失礼な物言いをした。
平時であればとっくにダスクブリッジ家は取り潰しになっていただろう。
「陛下のお役目は、国の行いに許可を出す事だ。行った施策の責任は陛下に帰することになる。復興が最優先の今、陛下のお役目はない。が、しかし...」
「働かぬ皇帝より働く皇帝の方が意義があるではないか、のう佐倉遥斗?」
「そ、そうですね...」
なぜ自分に話が振られるのか分からないが無難に返事をしておく。
その様子に、エーデルガッシュは密かな微笑みを浮かべた。
「別に戦ったりしないんでしょ?なら視察程度に考えて、お忍びで行くのはアリなんじゃない?」
エレナの意見は実務的で現実的だった。
「しかし、万が一の事でもあれば...」
ブリードの眉間に深い皺が刻まれる。
帝国の行く末を案じる忠臣の苦悩が表れていた。
「心配は必要ない!このダスクブリッジ家次期当主!マーガス・ダスクブリッジがいる限り、か弱き皇帝に手出しなどさせはせん!」
「誰がか弱いのだ?勝負してやろうか?」
エーデルガッシュの手がブリードの愛剣シュトルムヴァッハーに伸びる。
「婦女子は騎士の後ろで守られるものです、ハッハッハッー」
ふんぞり返っているマーガスを見て、元の世界だったら顰蹙物だと遥斗は感じた。
しかし、ダスクブリッジ家では、それが騎士としての誇りの表れなのだろう。
そんなマーガスを尻目にエレナが皆に質問をする。
「ねえ、私たち4人で冒険者パーティに登録するのかな?皇帝陛下が登録出来るの?」
「それは問題無い。偽名を使う」
「偽名?」
「そうだ。ブリードの家名であるリッターと、余の幼名のユーディを組み合わせユーディ・リッターと名乗る」
「へぇーそれっぽいわね。ヴァルハラ帝国皇帝とは思えない」
「ふふん、そうであろう」
エーデルガッシュもといユーディが自慢げに胸を張る。
「職業はどうするんですか?職業でバレそうですけど」
「確かにそれはそうだ。余の職業は『神子』。分かる者には簡単にわかってしまう。神子の職業は世界でも何人もおらぬからな。だから剣聖で押し通す。後は鑑定阻害のアイテムを装備しておく」
ユーディには抜け目のない周到さがあった。
「なるほど、それならいけるかも」
エレナも納得する。
どうやらその偽装は十分に通用すると判断したようだ。
「あとはパーティ名を決めねばな!」
「パーティ名?」
遥斗がマーガスに尋ねた。
「そうだ。冒険者パーティはその特性によって名前を付ける!戦闘主体だったら、名前に武器を冠する場合が多いな。他にも爪、牙、角などを名前に入れて、他の者にわかりやすくするんだ」
「だからアリアさんたちはシルバーファングなのか!」
「俺たちもカッコいいパーティ名を付けないとな、シルバークローとかさ」
「あなた馬鹿でしょ。馬鹿よね?馬鹿に決まってるわ!」
エレナがマーガスに食って掛かる。
「私たちは調査に行くの!錬金術師2人とアイテム士がいるパーティで戦闘主体って何?悪い意味で目立ってしょうがないでしょ!」
「ぐぅ...ならば俺たちは何を主体にすればいいんだ?」
「当然、素材採取よ。珍しい素材を集めるために旅する錬金術師はいくらでもいるわ」
「騎士としてそれは如何なものかと...」
必死に食い下がるマーガスだったが周囲の白い目に耐えきれず、その声は尻すぼみに消えて行った。
傲慢な態度は影を潜め、すっかり押され気味になっている。
「遥斗くんが好きに決めていいわよ、どうせずっとパーティ組むわけじゃないんだから」
「そう?じゃあ『マテリアルシーカー』でどうかな?」
「『マテリアルシーカー』良いではないか!」
ユーディは素直に賛同する。
「やるではないか遥斗。お前にしては上出来だ!」
マーガスも上機嫌だ。
その表情からは、先ほどまでの不満は消え去っている。
「じゃあ決まりね。マテリアルシーカー。これが私たちのパーティー名よ」
こうして急遽編成された寄せ集めパーティ「マテリアルシーカー」。
このパーティが世界を揺るがす事になるとは、この時は誰も想像だにしていなかった。




