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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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139話 帝都会合

挿絵(By みてみん)

 激動の夜から二日目の朝を迎えていた。

 瓦礫の山と化した街並みに、ようやく人々の声が戻り始めている。

 しかし、その傷跡は深く、帝都の住民の4分の1にも及ぶ死傷者が出ていた。

 倒壊した建物の下からは、今なお新たな犠牲者が見つかり続ける。

 さらに、守護獣の反乱による軍への不信感も拭えず、ヴァルハラ帝国は大きく揺らいでいた。


 皇城の一室で、遥斗たちは束の間の休息を取っていた。

 アリアやイザベラ達光翼騎士団も同じ館に身を寄せている。

 戦いの緊張から解き放たれた彼らは、一部の者を除き、丸1日以上眠り続けた。

 その眠りは、まるで死んだかのように深いものだった。


「皆の者良く集まってくれた、礼を言う」

 エーデルガッシュの呼びかけで、遥斗を始めとするアストラリア王国の人間とブリードによる会合が開かれた。

 皇帝自ら望んだ会合は、情報を整理し、もう一度アストラリア王国とヴァルハラ帝国の関係を考え直すためだった。


 朝日が差し込む広間に、重苦しい空気が漂う。


「まずはヴァルハラ帝国の君主として謝罪をさせてくれ、このような事に巻き込んで、すまなかった」

 その言葉に、イザベラが椅子から半ば飛び上がるように立ち上がった。

「お止め下さい陛下。陛下が謝罪される事ではございません」

「いや、余が甘かったのだ。その為に民を苦しめてしまった」

 エーデルガッシュは拳を握り締め、その小さな肩を震わせた。

「いえ、陛下に責はございません。全ては私の不徳の致すところでございます」

 ブリードが深く目を伏せ、静かに言葉を紡ぐ。


「責任の所在はもういいだろ?」

 アリアが苛立たしげに、椅子のひじ掛けを叩く。

「それより聞きたいのはアイツらが何者なのかってことだ」


 窓から差し込む光が、遥斗の横顔を照らす。

「クロノス教団...て言ってました」

「クロノス教団?聞いた事ねぇな」

 アリアが眉をひそめる。

「私もです」

 イザベラが顔を上げ、同意の言葉を重ねた。


「彼らの目的は世界を救う事だそうです」

「はぁ?」アリアが鼻で笑う。

「世界を救うだぁ、世界を混乱の渦に叩き込むの間違いじゃねぇのか?」

「世界といっても、人族ではなく本当に世界そのもののらしいです」

「意味が分からねー」


 遥斗は一度深く息を吸い、言葉を選びながら説明を始めた。

「ここからは想像になりますが...この世界では、スキルや魔法が一般的に使用されます」

 テーブルに置かれた水の入った杯を手に取り、

「しかしこれらを使用する為にはMPを消費しますが、このMPだけではあれだけの力は行使できない。足りない力はどうやって補うのか?」

 杯の水を静かにテーブルに零す。

「その答えが、『世界を消費する』ということらしいのです」


 エレナが身を乗り出すように遥斗を見つめる。

「世界は消費されるとどうなるの?」

「消える...らしい」


「バカバカしい。消えたら無くなるって事じゃねぇか」

 アリアが言いかけて、突如として言葉を切った。

「って、ちょっと待て!それってもしかして...」

「はい、闇です。闇とは世界が消滅した空間」


 広間に重い沈黙が落ちる。


 イザベラが静かに口を開いた。

「魔物は闇からやって来ます。何のためにやって来るのですか?我々は闇の領域を広げるためだと考えておりますが」

「魔物はこの世界が生み出したもの、との事です。世界がこれ以上自分を消費させないために、スキルや魔法を使うものを消し去る目的で」


「それでは」イザベラの声が僅かに震える。

「闇を広げているのは我々で、闇から世界を救おうとしているのが魔物だとでも?」

「クロノス教団の教えではそのようです」

 イザベラは乾いた笑いを漏らしたが、その目は笑っていなかった。

「いくら何でも突拍子が無さ過ぎですね」


「そうですね。事実は分かりませんが、その教えを信じて人を全て抹殺しようとしているのが彼らです」

「何でそんな話信じられるのかねぇ?」

 アリアが椅子の背に深く身を預けながら呟く。


「神の理を超越するほどの知識を持っているかららしいです。例えばモンスターテイマーに転職するとか」

 遥斗は窓の外に目を向けた。

「もしかしたらモンスターの生産も可能だったのかもしれません。あれだけの数はやはり異常だと思います」


 その言葉にブリードが身を乗り出す。

「転職...ですか」

 彼の声には、普段には無い緊張が滲んでいた。

「にわかには信じがたいですが、それならば納得出来ます」


「どういうことだ」

 皇帝の表情が一変する。


 ブリードは慎重に言葉を選びながら、あの夜の出来事を語り始めた。

「はい。私の倒した男は、私の知っている者でした」

 その言葉に、部屋の空気が凍り付く。


「誰なのだ!一体!」

 エーデルガッシュが声を荒げた。

 ブリードは遠い日の記憶を辿るように目を細める。


「20年前になるでしょうか...スタンピードの調査にエルフの国へ派遣した我が友、グリエ・ガルフィールド」

 一瞬の躊躇いを見せ、続ける。

「顔を確認したのですが、すぐに黒い霧となって消失した為、確信が持てませんでした」


「グリエはモンクだったはずです。それがテイマーであるはずがないと思っておりました」

「派遣したはずのグリエが、何故クロノス教団に加担している」

 エーデルガッシュの問いに、ブリードは深いため息をつく。


「グリエはエルフの国で調査中に行方不明となったのです。その為調査は中止され、エルフの国に不信感を抱いた先代皇帝陛下は国交を断絶、現在まで交流がございません」


「たしか」皇帝は物思いに沈むように言葉を紡ぐ。

「エルフの国は魔法やスキルの使用に否定的であったな。異世界からの知識を取り入れ融和すべきとの主張が強い。ゆえに帝国の力を削ぎ、アストラリア王国と裏で繋がり侵攻を目論んでいると懸念しておった」


「アストラリア王国はそのようなことはしておりません!」

 イザベラが再び立ち上がって抗議する。

 その声には、わずかな震えが混じっていた。


「分かっておる」

 エーデルガッシュは穏やかな口調で応える。

「王国がヴァルハラ帝国の滅亡を望んでいれば、命を懸けて救ったりはせん。しかし、我が国は悩んでおったのだ。だから再三に渡って異世界召喚を辞めるように働きかけていた」


「それは...」

 イザベラは何かを言いかけたが、言葉を飲み込んで静かに着席した。


「こうなってくると、エルフの国がこの一件に関わっている可能性が高いと思われます」

 ブリードの言葉に、皇帝が身を乗り出す。

「ならばどうする?」

「極秘に調査団を結成し、潜入調査すべきかと」


「うむ、そうだな」

 エーデルガッシュは一度目を閉じ、ゆっくりと開く。

「出来れば王国側からも人員を出して同行し、中立的に我が国の動向を見てもらいたいと思うが如何か」


「すぐに返答は出来ません。明日もう一度話し合いの場を持っていただけますか?」

「了承した。こちらも検討をせねばならん。それでは明日、また会談を持たせてもらう」


「それでは」

 イザベラを筆頭に、一同が会議室を後にする。


「すまんが、遥斗殿は残っていただけるか」

 立ち上がろうとした遥斗を、軍務尚書の声が引き止めた。


 少女皇帝がどこか興味深げな表情でその様子を見つめており、遥斗は背筋に冷たいものを感じた。

 これは間違いなく、何か面倒なことが起きる。

 と遥斗の直感は告げていた。

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