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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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135話 クロノス

挿絵(By みてみん)

 トムの魔力銃から「恐怖心の弾丸」が次々と撃ち出される。

 この弾丸の特色は透明なだけでは無かった。

 生命を持つ者に命中するまで、自動で追尾する機能が秀逸なアイテムだ。

 まさに、ミストレイスの能力を弾に宿した存在だった。


 狙った標的を追うのではなく、近くにいる獲物に自動で襲いかかる。

 多数対少数で最大限に効果が発揮される、まさに今の状態にうってつけの兵器だった。


 止めを刺さなくても、恐怖状態になったフロストウルフは、回復手段がなければ戦闘復帰できない。

 撃てば撃つほど、戦況はエレナたちに有利になっていく。


「やったよ、これならいけそうだ。さすがエレナ」

「ああ、この活躍は認めざるを得ない。マーガス隊副隊長を任せてもいいぞ」

 トムとマーガスは窮地を脱し、笑みを見せていた。

 しかし、その場で唯一油断が無かったは、エレナだけだった。


 彼女の鋭い眼差しは、群れの後方にいるフロストウルフ・ダイアモンドを捉えて離さない。

 氷狼の王もまた、冷徹な青い瞳で三人を見据えていた。

 両者の視線が交差する空間に、まるで見えない火花が散るかのような緊張が漂う。

 戦況が変わったことを敏感に察し、その原因を探っていたのだ。


 黒いローブの女が、その様子を見て取ると、静かに告げた。

「行きたいのね。わかったわ、好きになさい」

 その言葉を待っていたかのように、フロストウルフ・ダイアモンドは低く唸りを上げる。

「ウォン」


 次の瞬間、白銀の影が地面を蹴った。

 その動きは、まるで風のように読めない軌道を描く。

 ジグザグに跳躍しながら、瞬く間に三人との距離を詰めた。


「来た、ボスモンスターよ、トム、迎撃できる?」

「やってみるよ」

 トムは即座に応じ、魔力銃の引き金を引き絞った。

 透明な弾丸が次々と放たれる。

 自動追尾機能があれば、いずれは命中するはずだった。


 しかし、フロストウルフ・ダイアモンドの反応は、トムの予想を遥かに超えていた。

 空中で瞬時に氷の足場を生み出し、それを踏み台にすることで三次元的な動きを可能にして、弾丸を軽々と躱していく。


 最後の優雅な跳躍で三人の頭上を超え、音もなく背後に着地した。

 その存在感に、エレナたちの背筋が凍る。

 氷耐性を持たない彼らにとって、このモンスターに触れられることは即座に致命傷を意味した。

 エレナが咄嗟に魔力銃を構えようとするが、もはや後の祭りだった。


「アルケミック!」

 マーガスの声が響く。

 ミスリルの弓を、槍へと瞬時に変化させる。


「スピアスラスト!」

 オーラに包まれた槍が、稲妻のような速さで突き出される。

 マーガスの反応速度は、確かにフロストウルフ・ダイアモンドと互角だった


 だが、それすらも氷狼王の前では不十分だった。

 優雅な動きで槍を避けると同時に、それを踏み台として更なる高みへと舞い上がる。

「あつっ!」マーガスの悲鳴が響く。彼の手は凍りつき、ミスリルの槍が地面に落ちた。


 一瞬の接触で、武器もろとも凍結させる恐るべき能力。

 トムは即座にマジックバックからHP回復ポーションを取り出し、マーガスの手に振りかける。

 緑色の光が傷を包み込み、何とか最悪の事態は免れた。


「アルケミック!」

 マーガスは再び詠唱を行い、凍りついた槍を剣へと変化させる。

「だめだぁ...勝てないよぉ...」

「諦めるな!気持ちで負けたら終わるぞ!死にたくないなら戦え!」


 パンパンパンパン!

 トムが怯んで動けない間に、エレナは4連射でフロストウルフ・ダイアモンドを撃つ。

 刹那のタイミングで放った弾丸は、跳躍中で回避出来ない相手に見事命中した。

 しかし、全くダメージは無かった。


 フロストウルフ・ダイアモンドの体表を覆っている氷の鎧。

 そこに弾丸が突き刺さったまま止まっていた。

 エレナがそれを見て舌打ちをする。


「二人とも援護!あれを倒せるものを創る時間を頂戴!」

「な、なんとか頑張ってみるよ」

「そんなに時間は稼げんぞ」

「頑張りなさい、男でしょ」

 と言いながらエレナは自分のマジックバックの中から、素材「ブルの4本角」を取り出した。

 その間、視線は決して標的からは逸らさない。


 一方遥斗たちの状況は、かなり有利になっていた。

 エレナ達が数を減らしてくれたのもあるが、恐怖状態で動けないフロストウルフも多数いた。

「ポップ!」

 動けないフロストウルフに向かって「加速のポーション」の生成を行う。

 今度は成功、遥斗の手にポーションが握られる。

 それを一気に飲み干す。


 今まで残像しか捉えられなかったフロストウルフの動きがはっきりと見える。

 加速のポーションは、自身の素早さだけでなく、思考速度、動体視力など全てが加速する。

 結果、遥斗から見た世界は、全てがスローモーションがかかった様に感じるのだ。

 今まさに腕に噛みつこうとする1体がいるが、腕を引いて軽く躱す。

 さらにもう1体が迫っているが、ジャンプで避ける。


 すれ違いざまに「ポップ」で、再度加速のポーションを生成した。

 必死にフロストウルフたちの猛攻を凌いでいるエーデルガッシュに駆け寄り、加速のポーションをかける。


「何をするか!」

 怒りをぶちまけようとするエーデルガッシュは。驚くべき光景を目の当たりにする。

 あの素早かったフロストウルフたちが、まるで遊戯をしているかのように遅くなる。


「これは一体なんなのだ...」

「心配しないでください。加速のポーションの影響です」

「加速のポーション...」

 エーデルガッシュでさえ聞いたことはあるが、実際に使用するのは初めての希少アイテムだった。


「これならば問題無いぞ!」

 先ほどの苦戦が嘘の様に、皇帝の剣が氷狼たちを切り捨てる。


 形勢逆転。

 残ったフロストウルフたちはローブの女を守るように取り囲む。

 攻撃は自分たちのボスに任せて、モンスターテイマーを守る作戦に出たようだ。


 しかし、遥斗には魔力銃がある。

 遠距離戦になれば一方的に有利になるのだが、そこまでは判断は出来ないらしい。


「もう一度言う、もう止めよ。お前に勝ち目はない、本当の意味でな!」

「そう...かもしれませんね...ですがあなた方に人が殺せるのですか?私を殺さない限り終わりは来ません...」


 パン!


 魔力銃を撃つ遥斗。

 弾丸はローブの女の左肩を掠めるようにあたり、僅かだが体の一部を吹き飛ばす。


「殺せなくても戦闘不能には出来ます。この世界ではポーションで傷が簡単に治せる。躊躇はしませんよ」

 遥斗が魔力銃で狙いを付ける。

 フロストウルフたちが低い唸り声を上げるが、襲い掛かることは出来ない。

 エーデルガッシュが遥斗を守るように立ちふさがっているからだ。


「ふふっ、顔に似合わず大胆なのですね」

 何事も無かったかのようにローブの女は立っていた。

 左肩からは出血が一切なかった。代わりに黒い霧が立ち上っていた。


「人...ではないのか?」

 エーデルガッシュが問う。

「さあ?まだ人のつもりですが...違うのかもしれません...」

「どういう意味だ!答えよ!」

 さらに詰め寄る。


「不思議な気分です。あなた方の真っすぐな瞳を見ると、自分のしていることに疑問が生じます」

「なら、こんなことは止めてください!今すぐに!」

 遥斗は叫んだ。


「私は元々細工士でした」

 突然の違う話に困惑する2人。しかし戦闘も忘れ聞き入ってしまう。


「細工士ご存じですか?アイテムや貴金属に装飾を施す職業です。神から与えられた細工士という職業で、私の心は満たされていました。この世界の全てを愛し、感謝し、生きてまいりました。ですがある日、この世界が終わってしまう事を知ったのです」

「闇の侵略ですか?」

 頷くローブの女。


「そうです。闇は広がります。人が生きている限り。そして、いずれ全てが飲み込まれてしまうのです」

「誰ですか、誰がそれをあなたに教えたんですか!」

「クロノス協会...」

「クロ..ノス」

「そうです。協会は闇を解明し、世界を救う活動をしているのです」


 エーデルガッシュの顔色が変わる。

「解明だと?本当にそのようなことが出来たのか!闇とはなんなのだ!」

「闇とは無」

「無?」

「そう、何もないのです。世界は消滅しているのです」

「何故だ、何故消滅する!原因は一体何なのだ」

「...魔法です。魔法は人には余る力...魔法を使えば使うほど、世界は消えるのです...」


「質量...保存則...」

 遥斗の背筋に悪寒が走った。

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