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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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134話 努力の結晶

挿絵(By みてみん)

「ウォオォォォーーーン」

 フロストウルフ・ダイアモンドの咆哮が夜空を切り裂き、レギアス・ソルの大地を震わせた。

 その轟音は、まるで氷河が砕ける音のように響き渡る。

 それまで僅かに乱れを見せていた群れの動きが、一瞬にして完璧な連携を取り戻した。


「陛下、下がってください!」

 遥斗は咄嗟にエーデルガッシュの前に身を投げ出す。

 しかし、それは既に意味をなさなかった。

 フロストウルフたちの動きは、もはや人間の目では捉えきれないほどで、氷の刃の如く二人を取り囲んでいく。


 魔力銃を構えた瞬間、激痛が走る。

「熱っ!」

 わき腹に噛みついたフロストウルフの牙が、凍気を纏って肉を貫く。

 それは火傷のような激しい痛みを伴っていたが、実際には瞬間的な凍結による組織の破壊だった。


 痛みで一瞬だけ意識が揺らぐ。その僅かな隙を突いて、別の個体が遥斗の腕に噛みついた。

「くそっ」

 魔力銃で反撃しようとするも、標的は既に視界から消失していた。

 腕には凍傷特有の痛みが残り、動きが鈍くなっていく。


 フロストウルフたちの戦術は完璧だった。

 一撃離脱—素早く接近し、致命的な一撃を加えた後、即座に離脱する。

 もし遥斗の服に属性防御がなければ、今頃は氷の彫刻と化していただろう。


 最大の問題は、至近距離での戦闘を強いられている事だった。

 魔力銃は遠距離なら僅かな角度調整で命中が可能だが、近距離では大きく銃身を振る必要がある。

 それは即ち、狙いを定めることが著しく困難になるということだ。


(魔力銃は無理だ、生成しかない...)

 遥斗は別の戦術に切り替える。

 この状況で最も欲しいのは加速のポーション。

 フェルドガルドの戦いで使い切ってしまい、それ以降人目を気にして生成できていなかった。

 加速のポーションの速度があれば、形勢は大きく変わるはずだった。


 手のひらを広げ、精神を集中させる。

「ポップ!」

 しかし失敗。

 呪文を唱え終える前に、標的は既に視界から消えていた。


 その直後—

「ぐあっ!」

 死角からの一撃が背中を襲う。

 これ以上は危険と判断し、マジックバックから中級HP回復ポーションを取り出す。

 一気に飲み干すと、体が緑色に輝き、傷と凍傷が消えていく。


 しかし安堵する暇もない。今度は右足に鋭い痛みが走る。

 新たな噛み傷から霜が広がっていく。

(だめだ...回復してもキリがない...)


 目線をエーデルガッシュに向ける。

 彼女は皇帝の剣「サンクチュアリ」を握り、必死に戦っていた。

 その姿に、日々の鍛錬と才を見る。


 軍務尚書は最悪の事態に備え、幼いエーデルガッシュに護身用の剣術を教え込んだ。

 しかし、その類まれなる能力は、やがて師の想像を遥かに超えていった。


 今では「クロスフォード流剣術」皆伝、その技は、12歳の少女の体躯からは想像もできない威力を持っていた。

 ブリードにも引けを取らない居合の速さで、エーデルガッシュは次々と襲いかかる氷狼たちを迎え撃つ。


 凌いではいたが、圧倒的に押されている。

 いつこのバランスが相手に傾いてもおかしくはない。


 遥斗は一瞬、マーガスたちにも目を向けた。

 三人は後方から必死に援護射撃を続けている。

 しかし、フロストウルフたちの動きは速すぎ、弾は空を切るばかり。

 数匹が3人の注意を引きつけているせいで、大多数のフロストウルフは遥斗とエーデルガッシュにのみ集中していた。


 回復ポーションを飲みながら遥斗は感じる。

(まずい、相手が速すぎて僕じゃ対処が出来ない。逃げるだけなら、いくらでも手はあるけど...だめだ!勝つためには、ピースが足りない!)

 遥斗の血が夜空に舞う。


「マーガス、どうしたらいいの?このままじゃ遥斗たち死んじゃうよぉ」

「分かってる!でもあの数相手にどうすりゃいいんだ!畜生!」

「誰か助けを読んで来ちゃ駄目なのかなぁ。それしかないと思うけど。どう思うエレナ。エレナ?ひ、ひぃぃぃ!」

 トムが様子のおかしいエレナの顔を覗き込み、恐怖のあまり後ずさる。


「ねぇトム?なんであの犬っころども、好き放題やってる訳?なんで遥斗くんがあんな目に合わないといけない訳?」

 エレナの視界は真っ赤に染まっていた。

 そこには血まみれになりながらも戦い続ける遥斗の姿だけが、鮮明に浮かび上がっている。


「トム、アレをやるわ、準備して、マーガスも射撃準備...」

「ちょ、ちょっと!こんなぶっつけ本番無理だよ!落ち着いてエレナ!」

「何をしようとしているの知らんが、隊長は俺だ、俺の指示なく動くな!危険だ!」

 エレナがゆっくりとトムとマーガスに振り返る。


 その眼は完全にキマっていた。

 2人は息を呑む。

「黙って...いう事を聞きなさい...」

『は、はい!』マーガスとトムの声が完全に重なった。


 エレナは自分のマジックバックから、弾丸と素材である「レイスの嘆き」を取り出す。

 フェルドガルドでの戦いの時に、遥斗がお土産として大量に集めてきたミストレイスの素材だった。


「アルケミック!」

 エレナは呪文を唱える。錬金術師の能力は本来こうやって使う。

 複数の素材から新たなアイテムを創造する。

 白銀操術戦士であるマーガスは、錬成された素材から多種多様な武器を作るが、かなり特殊な錬金術の使い方だった。


 エレナには特殊な才能が無かった。

 ルシウスの様に奇抜で個性的な錬金も、マーガスの様に高速で頑強な錬金も。

 しかし、彼女の才能は別の所にあった。


 諦めない心。努力を結晶化する才能。


 フェルドガルドで何も出来なかった日以降、彼女なりの試行錯誤が始まった。

 旅の合間をぬって、ひたすら錬金の実験をしていた。

 遥斗の力になれるようにと。


 行きついた先は、魔力銃の弾丸をパワーアップさせること。

 鉄の塊である弾丸と素材を合わせ錬金することは、エレナにとって困難な事ではなかった。

 しかし問題は起きた。


 弾丸と素材を使い、新たな弾丸を生成すると、大きさ、形が僅かに変わってしまうのだ。

 その僅かな違いで、魔力銃の弾倉に込める事が出来なかった。

 出来た弾丸を、鍛冶屋などで調整をしてもらえば使えるかもしれないが、現実的な話ではなかった。


 トムと毎晩話し合ったが、結局問題は解決しなかった。

 てっきりエレナは、新しい弾丸の製造は諦めていたと思っていた。

 だが、諦めてなどいなかった。

 狂気とも思えるほど愚直な錬金の結果、その精度を限りなく高めていったのだ。


 創り出されたものは「恐怖心の弾丸」

 それをトムに手渡す。

「これであいつらを撃って、でも決して遥斗くんの近くには撃ちこんじゃだめ...」

「は、はい、わかりましたーー」

 弾を魔力銃に込めるトム。その弾は恐ろしい程弾倉にぴたりとはまる。

 エレナの執念が実を結んだ瞬間だった。


「ファイア!」

 4発の弾丸がトムの銃から放たれる。

 しかし、弾が見えない。

 どうやら透明な弾丸で、速度も恐ろしく遅い。

 良く見れば空気の断層があり、弾丸が飛んでいくのが分かる。


「キャウン」

 4匹のフロストウルフが蹲り震え出した。

 おそらく恐怖心の弾丸が命中したのだろう。


 この弾にあたったものは「恐怖」状態になって戦闘することが出来なくなる。

 かつてエレナも味わった、ミストレイスの状態異常攻撃だ。


「アルケミック!...はい、次」

 次の弾丸を錬金し、トムに笑顔で渡す。

「う、うん、ありがとう...」

 エレナの困惑するトム。


「マルチショット!」

 マーガスがオーラを纏った矢を打ち出す。

 その矢は途中で4つに別れ、恐怖状態の氷狼に突き刺さる。


 4匹のフロストウルフは、光の粒子となって空へと消えた。

 マーガスとトムがレベルアップの光に包まれる。


「トム、良かったわね。レベルアップしたがってたでしょ?あの犬ども全部殺していいから、ね?」

「う、うん、わかったよ」

 トムは心の中で誓う―絶対にエレナを怒らせてはいけない。彼女の中に眠る"別の顔"を、二度と見たくはなかった。

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