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13話 図書館にて

挿絵(By みてみん)

 翌朝、遥斗は早々に学舎の図書館へと足を運んだ。昨夜の実験で生まれた疑問を解決するため、心は期待と不安で一杯だった。


(きっと何か手がかりがあるはず...)


 図書館のドアを開けると、意外にも小さな空間が広がっていた。遥斗が想像していた大規模な図書館とは程遠く、机と椅子が20セット程度置かれているだけの、こじんまりとした部屋だった。


(え? これだけ...?)


 戸惑いながら室内を見渡すと、本棚はわずかで、そこに並ぶ本の数も少ない。朝早い時間帯のせいか、他の利用者の姿は見当たらなかった。


 そんな中、一人の若い女性が目に入った。長い銀髪を後ろで束ね、知的な雰囲気の眼鏡をかけた司書だ。彼女は優雅な動作で本を整理している。


(わっ...かわいい)


 思わず固まる遥斗。司書の女性は遥斗に気づくと、柔らかな微笑みを浮かべた。


「おはようございます。何かお探しですか?」


「あ、はい...えっと...」


 遥斗は慌てて言葉を探す。司書の視線に気恥ずかしさを感じながら、なんとか会話を始めようとした。


「本を...探してるんですが」


「はい、どのような本をお探しでしょうか?」


 遥斗は周囲を見回し、本棚に並ぶ本を手に取った。しかし、そこに書かれているのは本のタイトルと番号の羅列だけだった。


「あの、これは...」


「はい、それは目録です」司書が丁寧に説明する。


「お探しの本のタイトルや番号をお教えいただければお持ちしますよ」


 遥斗は困惑した表情で司書を見つめた。


「え? じゃあ、本棚に並んでいる本は...全部目録なんですか?」


 司書は少し驚いたような表情を浮かべる。


「ええ、そうですが...」彼女は遥斗の服装をじっと見つめた。


「もしかして、騎士見習いの方ですか?」


「あっ、いえ、その...」


「図書館の使い方も知らないなんて..教養がないのではありませんか?.」司書は少し呆れたような表情を浮かべた。


 その言葉に、遥斗は少し凹んだ。


「じっ、...実は僕、異世界から来たんです!」


 司書の目が大きく見開かれた。


「異世界の方!?」彼女の声には驚きと興奮が混ざっていた。


「そうだったんですね。失礼いたしました」


 遥斗は照れくさそうに頭を掻いた。


「いえ...」


 司書は軽く咳払いをすると、姿勢を正した。


「では、図書館のシステムについてご説明いたしますね。当館では、魔法の書棚を使用しています。これで、膨大な量の本を保管・管理しています。ここに本を置けば学舎の半分は埋まってしまいますから」


 遥斗は目を輝かせて聞き入る。


「お客様が目録から本を指定いていただきましてたら、私がその本を魔法の書棚から取り出します。ここで読んでいただいても良いですし、貸し出しも可能です」


「へぇ...」遥斗は感心しながら頷いた。


「魔法のバッグの図書館版みたいなものですね」


 司書は微笑んだ。


「そうですね。とても的確な例えです」彼女は続けた。


「また、お探しの本の種類についてご相談いただくこともできます」


 遥斗は少し考え込んだ。


(よし、ここで聞いてみよう)


「あの、魔法と物質についての本はありますか?」


「魔法と物質についての本...ですか?」


 司書は首を傾げ、困惑した表情を浮かべた。


「はい。アイテム生成で小瓶が出ることに疑問があって...」遥斗は少し躊躇いながら続けた。


「小瓶が出ることが...疑問?なぜそれが疑問なのでしょうか?」司書の表情がさらに混乱する。


 遥斗は深呼吸をして、思い切って質問した。


「そうですね、集められた小瓶はどこに行くんですか?」


「再利用されますね、錬成などに使用されます」司書はあっさりと答えた。


「錬成では小瓶は発生しないのですか?」


「はい。素材を使わないアイテム生成は『ポップ』の呪文で、錬成は別の呪文になりますから。『ポップ』の呪文のみ小瓶が一緒に生成されます」


「じゃあ、もし「ポップ』の呪文をみんなで使いまくって、世界が小瓶でいっぱいになったらどうなるんですか?」


 今度は司書が遥斗を不思議そうに見つめた。


「いっぱいになる...? ごめんなさい、その意味がよく分かりません」


 遥斗は言葉に詰まった。話が全く噛み合っていない。


(この世界の人は、こういうことを疑問に思わないのかな...)


「えっと...」遥斗は別の角度から質問してみた。「小瓶もいつかモンスターのように消えるんですか?」


「いいえ、消えるのはモンスターだけです」司書は淡々と答えた。遥斗に次の疑問が浮かんだ。


「じゃあ...人間は死ぬとどうなるんですか?」


 司書は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに落ち着いた様子で説明を始めた。


「人間は、そのまま放っておくとゾンビなどのモンスターになってしまいますので、基本的に僧侶に浄化してもらいます。浄化されると、体は消えます」


 遥斗は目を見開いた。


「消える!じゃあ、お墓には何もないんですか?」


「お墓...? ああ、慰霊碑のことですね。はい、そこには何もありません」


 遥斗は言葉を失った。文化の違いがここまで大きいとは思っていなかった。


(質量保存の法則どころか、死生観まで全然違う...)


「あの...魔法の基本的な概念が書かれた本はありますか?」遥斗は最後の望みをかけて尋ねた。


 司書は少し考え込んでから、にっこりと笑顔を見せた。


「ああ、それならありますよ。少々お待ちください」


 彼女は魔法の杖を取り出し、空中に複雑な文様を描いた。すると、突如として本が数冊、空中に現れた。


「これらの本が、魔法の基礎について詳しく解説しています」司書は本を遥斗に手渡した。


「貸し出しも可能ですが、いかがいたしましょうか?」


「はい、借りていきます」


 遥斗は感謝の言葉を述べながら本を受け取った。


 図書館を出る際、遥斗の頭の中は混乱で一杯だった。


(この世界の常識は、僕の知っているものとは全然違う...)


 しかし同時に、新たな発見への期待も高まっていた。


(これらの本で、きっと何か分かるはず。この世界の仕組みを、解明できるかもしれない)


 遥斗は借りた本を大切そうに抱え、学舎へと急いだ。彼の心には、未知の世界を解き明かす冒険者のような高揚感が芽生えていた。



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