12話 ポーション考察
夜更け、遥斗の部屋に小さな明かりが灯っていた。
(よし、実験の準備をしよう)
遥斗は魔法のバッグを取り出した。このバッグは、学舎から支給されたもので、一見何の変哲もない布製のショルダーバッグだ。しかし、その特性は驚くべきものだった。
「すごいよな、これ」
遥斗はバッグの中に手を入れ、様々なものを取り出しては戻す。教科書、ノート、ペン、そして自分で生成したポーションまで。全てを入れても、バッグの形は変わらず、重さも感じない。
(いったいどうなってるんだろう)
遥斗はバッグを裏返し、縫い目を調べ、布地を念入りに確認した。しかし、特別な構造は見当たらない。
(機能は分かるけど、原理が全然見当つかない...)
遥斗の頭の中で、様々な仮説が飛び交う。
(もしかして、時空間を捻じ曲げているのかな。別の次元にものを送り込んでいる? でも、そんなことが可能なら、もっと凄いことができるはずだ)
疑問は深まるばかり。遥斗は首を振り、次の実験に移った。
バッグから、戦闘訓練で配られたナイフを取り出す。その刃を見つめ、少し躊躇した後、自分の左腕に軽く押し当てた。
「いてっ!」
思わず声が漏れる。小さな傷から、赤い血が滲み出た。
(やっぱり痛いな...ちょっとやりすぎたかも)
遥斗は慌てて、自分で生成したポーションを取り出した。小さな青い小瓶に入ったそれは、内容量が約100mlほど。
(半分使ってみよう)
ポーションの半分ほどを傷口に注ぐと、傷はみるみるうちに塞がっていった。
「へぇ...」
遥斗は感心しながら、残りのポーションを見つめた。そして、ふと思いついて鑑定してみる。
「え?」
鑑定結果に、遥斗は驚いた。残ったポーションは「ポーションだったもの」に変化していたのだ。
遥斗は残ったポーションをじっと見つめた。
(全部使用しなくても一部を身体にかけると回復する。しかし残ったものは効果を失う。これって、どういうことだろう)
さらに疑問が湧いてきた。遥斗は小瓶を手に取り、じっくりと観察した。
(ポーションは使用すると消えるはずだ。でも、半分のポーションは残ったまま消えない。そして小瓶も消えない...)
遥斗の頭の中で、新たな疑問が次々と浮かび上がる。魔法のバッグの不思議な特性、ポーションの謎めいた性質、そして自分のアイテム生成能力の本質。全てが繋がっているような、でも掴みどころのない感覚に襲われる。
(もっと詳しく調べないと...)
遥斗は机に向かい、ノートを広げた。今夜の実験結果と浮かんできた疑問を書き留め始める。夜は更けていったが、遥斗の探究心は尽きることを知らなかった。
遥斗は小瓶を手に取り、じっくりと観察した。
(そもそも、この小瓶はどこから来たんだろう。MPを消費して生成されたのなら、MPは小瓶になるのか?)
遥斗の頭の中で、様々な仮説が飛び交う。
(MPが物質に変わる...? いや、そんな馬鹿な。エネルギーと物質は等価ではあるけど、簡単に変換できるわけじゃない。それに、錬成や錬金には素材が必要らしい。MPが物質になるなら素材は必要ないはずだ)
遥斗は机に向かい、ノートを広げた。思考を整理するように、書き始める。
1. ポーションは使用すると消える
2. 部分使用したポーションは効果を失うが、消えない
3. 小瓶は残る
4. MPを消費してポーションを生成できる
5. 錬成には素材が必要
(矛盾してる...どこかおかしい)
遥斗は授業を思い出した。
(そういえば、授業で使用した小瓶は小瓶回収箱があって、そこに入れたんだ。あれは最終的にどうなるんだろう)
新たな疑問が浮かび上がる。
(生成し続ければ、この世界は小瓶だらけになるんじゃ...)
遥斗は窓の外を見た。静かな夜の景色が広がっている。
(質量保存の法則は、この世界でも成り立つのかな。もし成り立つなら、小瓶の材料はどこから来てるんだろう。成り立たないなら、この世界の物理法則は地球とは全く違うことになる)
遥斗は深く息をついた。疑問は解けるどころか、どんどん深まっていく。
(明日の朝、学舎付属の図書館に行ってみよう)
遥斗はそう決意し、ベッドに横たわった。しかし、頭の中は様々な仮説で一杯だった。
(ポーションの効果は、使用した瞬間にどこかから物質やエネルギーを引き出しているのかもしれない。でも、それなら残ったポーションはなぜ効果を失うんだろう。魔力の本質は一体何なんだろう)
遥斗は天井を見つめながら、考え続けた。
(もしかしたら、ポーションの効果は別の次元から引き出されているのかも)
疑問は尽きることがない。遥斗は目を閉じ、深呼吸をした。
(図書館なら、きっと何か手がかりが見つかるはず)
そう思いながら、遥斗はゆっくりと眠りについた。