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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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103話 暗躍

挿絵(By みてみん)

 砕け散る角の破片が、虹色の光を放ちながら降り注ぐ。その美しい光景とは裏腹に、さくらの脳内に悲痛な叫びが響き渡った。


「イタイ...イタイ...ナゼダ...」

 その声に込められた苦痛に、さくらは思わず耳を塞ぐ。るなが不安げに鳴きながら、主の足元に寄り添う。


 突如として悲鳴が途絶えた。違和感を覚えたさくらがミラージュリヴァイアスを見上げると、巨獣の瞳が真っ赤に染まり、意思の光が消え失せていた。

 それは人形のような、虚ろな眼差し。

 しかし攻撃は止まない。幾枚もの白い鱗が白く輝き、魔力を帯びていく。


 スケイルフィッシュ。

 巨獣の体から放たれた鱗が、まるで生命を持ったかのように美咲たちを襲う。


「フォトンエッジ!」

 涼介の光の刃が鱗を両断する。閃光と共に、白い破片が舞い散る。


「雷よ、我が敵を討て!サンダーアロー!」

 美咲の詠唱と共に、幾筋もの雷が放たれる。白い光が鱗を貫き、焦げた匂いが漂う。サンダーボルトより小規模だが、素早く詠唱できる彼女の得意な魔法の一つだった。


「百烈掌!」

 千夏の拳から放たれる衝撃波が、まるで機関銃のように鱗を打ち砕いていく。気の力が込められた一撃一撃が、白い破片を粉塵へと変えていった。


「スピアスラスト!」

 大輔は槍を構え、飛来する鱗を貫く。オーラを宿した槍が、まるで紙を裂くように、いとも簡単にスケイルフィッシュを撃ち落とす。


「るな!月光の矢!」

 さくらの指示で、ルナフォックスが口から銀色の光線を放つ。それは鱗を貫くというより、溶かすように消滅させていく。


 次々と放出される鱗の雨は、まるで終わりがないかのよう。その中の一つが、涼介の剣を直撃した。

 パキッ。


「チッ」

 涼介の舌打ちが漏れる。ミスリルの剣が、まるでガラスのように砕けていた。涼介の全力の一撃に、もはや剣の方が耐えきれなくなっていたのだ。


「そこだ!いるのはわかってるぞ!」

 涼介は躊躇なく折れた剣を空中に投げつける。剣は途中で何かに当たり、空中で弾かれた。


「ふははは、お見事」

 虚空から声が響く。そして徐々に、そこに姿が浮かび上がってきた。

 漆黒の鱗を持つワイバーンに跨り、深い紺色のローブを纏う小柄な人影。フードの下の顔は黒い布で覆われ、目元だけが銀の仮面で隠されている。その姿は、まるで夜空から切り取られたかのように歪だった。


「貴様何者だ!」

 涼介の声が轟く。

「それにお答えすることは出来ませんが」

 機械的に変調された声が返ってくる。

「あなた方の命をお助けすることはできますよ。ミラージュリヴァイアスをいただけたお礼にね、ふははは」


「お礼とはどういう意味だ」

 涼介の問いに、謎の人物は意味深な言葉を返す。

「あなた方が弱らせてくれたおかげですよ、感謝いたします」


「そいつテイマーだ!」

 さくらの声が響く。

「ミラージュリヴァイアスをテイムしたんだ!」

 その瞬間、全てが繋がった。


 巨獣はずっと逃げていた。この何者かによる強引なテイムから逃れようと。「ステルスオーラ」で姿を隠し、ミラージュリヴァイアスを追い詰めていたのだ。

 強引なテイムは、モンスターに大きな負担を強いる。絶え間ない精神的抵抗を強いられるからだ。そして今、涼介たちの攻撃で重傷を負い、ついにその抵抗も限界を迎えてしまった。


「すぐに開放しなさい!」

 珍しくさくらが激昂した声を上げる。その目には、怒りの炎が宿っていた。

 一方、デミットは静かにその場面を観察していた。

 しかし、彼の視線は謎のテイマーではなく、その下にいるワイバーンに向けられていた。


 デミットは黒い鱗を持つワイバーンを凝視していた。

(ワイバーンはヴァルハラ帝国が兵器化に成功していたはず、偶然か?偶然にしては出来すぎだが...)


 その思考は、テイマーの不敵な笑いによって中断された。

「ふははは。解放しろと?」

 機械的に歪んだ声が響く。

「せっかく手に入れた神の力を...か?やはり死ぬか小娘?ソニックロア!」


 その命令と共に、ミラージュリヴァイアスが大きく口を開く。魔力を帯びた空気が渦を巻き、巨大な喉へと吸い込まれていく。

「許さない!」

 さくらの声が激しく震える。

「お前だけは絶対許さない!」

 彼女の周りで魔力が爆発的に上昇し、空気が歪み始める。


「月夜に輝く幻影よ、今ここに!」

 詠唱と共に、るなの体が銀色の光に包まれる。光の粒子が舞い散る中、小さな姿が一変する。

 成長したルナフォックスの姿がそこにあった。それはまさに神獣の風格を漂わせていた。銀色の毛並みは月光のように輝き、その眼は優美な金色を放っていた。


 全てを飲み込もうとする衝撃波が放れた—-


「セレスティアル・ムーンライト!」

 さくらの咆哮と共に、るなの体から極大の光が迸る。月の幻影がるなの後ろに現出し、そこから放たれた光が衝撃波と激突。二つの力が相殺され、轟音と共に周囲の空気を震わせた。


「す、素晴らしい!」

 テイマーの声が高揚する。

「こんな所にもう1柱神獣が!ミラージュリヴァイアスよ、ルナフォックスを捕まえるのだ」

 巨獣がテイマーの命を受けるなに迫る。しかし、さくらが毅然として、前に立ちはだかった。


「もうやめて!」

 彼女の声には、強い意志が込められていた。

「もうやめよ?こんな事したいんじゃないよね?」

 そっと体を預けるように近づくさくら。


「馬鹿め、そのまま潰れろ!」

 テイマーの命令が響く。

「イヤダ...モウ...」

 かすかな声に、さくらの瞳が開かれる。


「あなたを...守らせて?」

 さくらは優しく語りかけ、「テイム!」と叫ぶ。


「ふははは。テイムされたモンスターにはテイムは効かん。常識もしらんのか愚か者」

 余裕に満ちた嘲笑。しかし、ミラージュリヴァイアスの体が柔らかな光に包まれ始めた。

「ごめんね。怖かったよね?」

 さくらはそっと頬を寄せ、巨獣を抱きしめる。赤く染まっていた瞳が元に戻り、そこには深い慈愛の色が宿っていた。


「ば、ばかな、ばかな、こんなばかなことが事があるか!」

 テイマーの男が取り乱す。

「テイムの上書きだと!そんなもの聞いた事がない!」


「モンスターの心が分からない奴にテイマーの資格はない!」

 さくらの声が、真理の重みを帯びて響き渡る。

 美咲が追撃のため詠唱を始めた。

 テイマーは形勢不利を悟ったのか、ワイバーンに命じ、黒い影となって空へと消えていった。

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