10話 戦闘訓練
「さて、みなさん。今日は実践的な戦闘訓練を行います」
アルフレッド先生の声に、教室中が緊張感に包まれた。遥斗の心臓は激しく鼓動を打ち始める。
(戦闘...本当にやるんだ)
「では、私について来てください」
アルフレッドに導かれ、クラスメイトたちと共に遥斗は学舎の一角にやってきた。そこには不思議な光の壁のようなものが張られていた。
「ここが魔力フィールドです」
アルフレッドは説明を始めた。
「この中では、人間もモンスターも許可がなければ出入りできません。また、ここで魔法やスキル、技や道具を使っても、外部には影響が出ません」
生徒たちは興味深そうに周囲を見回している。
「それでは、実際にモンスターを召喚しましょう」
アルフレッドはポケットから小さな箱を取り出した。
「これは『エーテルケージ』という魔道具です。中にはモンスターが封印されていて、自由に解放することができます」
そう言うと、アルフレッドは箱を開けた。突然、白い光が溢れ出し、目の前に大きな影が現れた。
「わっ!」遥斗は思わず後ずさりした。
光が収まると、そこには大きな兎のようなモンスターが立っていた。長い耳と強そうな後ろ足が特徴的だ。
「これは『バウンドホッパー』と呼ばれるモンスターです」アルフレッドが説明する。
「速く動き回るので、注意して」
生徒たちにナイフが配られる。遥斗は震える手でナイフを受け取った。
「では、始めなさい!」
アルフレッドの合図と共に、バウンドホッパーが動き出した。驚くべき速さで跳ね回り、まるで生徒たちを挑発するかのようだ。
貴族の子弟たちが真っ先に攻撃を仕掛ける。エレナも冷静な表情で動きを読み、的確に攻撃を繰り出していた。トムも必死に食らいついていく。
しかし遥斗は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
(速すぎる...何も見えない)
必死に動こうとするが、足が思うように動かない。そのとき—
「危ない!」
誰かの声が聞こえたと思った瞬間、強烈な衝撃を受けて遥斗は吹き飛ばされた。
「ぐっ...」
地面に倒れ込む遥斗。バウンドホッパーの攻撃を受けてしまったのだ。
痛みで目が霞む中、エレナの姿が見えた。彼女は優雅に跳躍し、鮮やかな一撃でバウンドホッパーを倒した。
モンスターの姿が光となって消えると、そこに何かが落ちた。
「これが『ホッパーの毛皮』です」アルフレッドが拾い上げる。「モンスターを倒すと、このようにアイテムをドロップすることがあります。これは錬成に必要な素材になります」
生徒たちの間で歓声が上がる。
アルフレッドが続ける。
「さて、経験値ですが。経験値はダメージを与えた量に応じて分配されます。みなさん実感できますか」
何人かの生徒が喜びの声を上げた。どうやらレベルが上がったらしい。
「遥斗くん」アルフレッドが遥斗に近づいてきた。
「残念ながら、君は経験値を得られていないはずです。バウンドホッパーにダメージを与えられませんでしたから」
遥斗は顔を伏せた。
(悔しいけど僕には向いてないよ...)
「遥斗くん、大丈夫?」トムが心配そうに声をかけてきた。
「あ、うん...」遥斗は少し恥ずかしそうに答えた。
「ごめん、色々考えてた」
「何を?」
「この世界のこと。モンスターのこと。魔法のこと...」
遥斗の目が輝いていた。
「全部が不思議で、もっと知りたくなっちゃって」
トムは少し驚いたような顔をした。
「へぇ、そうなんだ。僕はただ怖かっただけだけど...」
遥斗は苦笑いした。確かに怖かった。でも、それ以上に興味深かった。
(僕には戦うことはできないかもしれない。でも、それでも!)
「よし」遥斗は小さく、しかし強く呟いた。
「もっとこの世界のこと、勉強しなきゃ」
遥斗の口元に、小さな笑みが浮かんだ。