6月27日木曜日
8時30分に学校に着いた。今週初めての学校だったが、僕がしばらく休むことなんてしょっちゅうだからクラスメイトたちは特に気にしない。変な目で見られるのは嫌だが、興味を持たれないのは少し寂しい。
「おはよう」
驚いて、声のしたほうを向くとサファイアのような瞳がこちらを見ていた。
「あっ、おはよぅ…」
声をかけてもらえた嬉しさと情けない返事をした恥ずかしさがこみ上げてくる。
「今日は学校来たんだね。良かった。」
「あっ、うん」
また上手く返事できなかった。
「そういえば、昨日会ったね。びっくりしちゃった。」
「うん、本屋でね。なんか買ったの?」
「参考書と小説買った。そういえば、大原くんって文芸部だったよね。」
「一応ね。岡山先生に言われて。」
「なんかおすすめの本ないの?聞いてみたい」
スニア様の二次創作の小説なんて言えるわけないな、なんてしばらく考えた後に答える。
「うーん、蜘蛛の糸とかかな(教科書の後ろのほうに載ってたの読んだだけだけど)」
「芥川龍之介のやつだっけ。そういうのが好きなんだ。」
「まあね」
授業中はずっと村山さんとの会話を振り返っていた。話せた喜びと見栄を張った罪悪感を抱えながら。
「せんせー、そこ書き間違えてますよー」
信号機の藤井くんの声だ。ボーっとしていたのでびっくりした。藤井くんはクラスを牽引している。でも、いわゆるガキ大将的な感じじゃなくてクラスが悪い方向に向かった時にはストップをかけられるタイプだ。だからしんごうきみたいだなぁ、と思う。
「ホントだ!間違えて覚えたらどうするんですかー」
スピーカーの古川くんが続く。古川くんは落ち着きがなくてとにかくうるさい。
「はいはい。ごめんなさいね。」
バネの岡山先生が謝る。岡田美咲先生は美人で優しいから男子たちがこぞって告白して玉砕している。だから、近付くと反発するバネだ。どことなく生徒と距離がある感じもあり、しっくりくる。
ぼんやりと授業を聞き流していたらすぐに下校時刻だ。
「また明日ね」
「あっ、うん。また明日。」
サファイアの瞳に見つめられてまたうまい返事ができなかった。