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6月26日水曜日

 目を覚ますともう14時になっていた。とりあえずグッズを買いに行こうかと思ったが、ありえないほどお腹がすいているから何か食べようと階段を下りた。冷蔵庫の中を適当に漁ってみるが腹を満たせそうなものはなんにもない。少し考えてから財布を持って家を出た。家を出るとき早く帰ってきた母とすれ違ったが、特に何も言われなかったから僕も何も言わなかった。

 しばらく歩いていくと安いことで有名な牛丼屋に着いた。店内はガラガラでかすかにキッチンから話し声が聞こえる。カウンター席に座るとすぐに牛丼を大盛りで注文した。牛丼が運ばれてくると僕は流し込むように食べた。それほどおなかがすいていたのもあるけど、何よりグッズを1秒でも早く手に入れたかった。完食して、会計をして、店を出る。そして、最寄りの小さな書店に向かった。書店にはおじいさん店長が1人レジのところにいるだけで静かだ。店内を2周したけれど、スニア様のグッズどころか本以外のものは何もなかった。諦めて書店を出て、駅にある大きな本屋に向かう。

 本屋に着くと目立つ位置にスニア様のグッズが並んでいた。大きくなったな、なんてめんどくさいオタクみたいなことを考えながらノートとボールペンを持ってレジに向かう。中学生の財布にはまあまあ辛い価格設定ではあるが買わないという選択肢はないのである。袋に入れられたグッズを抱えて店を出ると

「大原くん?」

と呼ばれた。振り返るとクラスメイトであるサファイアの村山さんがいた。初めて会ったとき、艶やかな黒髪と整った顔が宝石のようだと思った。数ある宝石の中からなぜサファイアが思い浮かんだのかはわからないが、彼女の落ち着いて、それでいて凛としている姿がそう思わせたと今になっては思う。

「な、何?」

少し声が裏返ってしまった。村山さんが笑ったように見えたのは気のせいだろうか。

「久しぶりに見たなって思って、声かけちゃった。」

今度こそ確実に村山さんが微笑んで言った。

「ごめん、急いでるんだった。また明日ね。」

そう言って村山さんは本屋に入っていった。”また明日”という言葉が脳内で繰り返し再生される。こんな些細なことで学校に行く気になってしまうんだから僕はちょろい男だと思う。その言葉はベッドで眠る瞬間まで脳にこびりついていた。

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