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二重人格?記憶障害?取り憑かれてる?

「桃太郎?」

 吉野さんは訝しげな顔で先生を見た。


「桃太郎です」

 先生は柔和な笑顔で伝え返した。突然、多重人格者のようになっている吉野さんも、この先生の笑顔の反応もさっぱり分からない。


「あ!水亀先生、私の脚本のこと覚えていてくれたのですか?」


「はい。もちろんです」


「嬉しいですね。さすが、カウンセラーの先生ですね。そうか・・・覚えていてくれたのか・・・」

 吉野さんは、先ほどの苦しげな様子から一転して、笑顔で話し始めた。先生もカウンセラーというより、親しい友達のように笑顔を返している。二人の間の空気はまるで、カフェでお茶をしているような雰囲気だ。


「今も書かれているのですか?」


「・・・書きたいとは思っているのですが・・」

 書いていないことに罪悪感があるのか、言いにくそうに答えた。


「アイデアに行き詰まっているのですか?」


「もちろん、原作を書くのは初めてなので、上手く進まないというのもあるのですが、アイデアが浮かばないというのとは、少し違うんです」


「どのように違うのですか?」


「あの原作を書こうとすると、というか、書き始めてから、自分じゃなくなってしまうようなことがよくあり、記憶もない時もあったりして、それで、書けなくなってしまっているんです」


「そうですか。初めて、このカウンセリングルームに来てくれた時のご相談は、初めて映画原作を書くことに対する不安と期待、桃太郎という日本のスーパーヒーローを書いて演じることへのプレッシャーを感じるという不安もあるけど、期待感やワクワク感が伝わってくるようなおは話しでした。そして、その半年後くらいに来た時には、お名前は、吉野と名乗ってはいましたが、俳優という職業もはっきり覚えていないようで、どこかの組織に属している勤め人のようなお悩みを話されていました。その時のことは覚えていますか?」


「正直、うろ覚えなんです。一度目は覚えています。事務所の社長に勧められてきました。二度目は、ここに来たいと思う気持ちで足を運んだのは覚えているのですが、何を話したのかはうろ覚えで、話しをしている内に、自分が自分でないような気がしてしまって・・・」


「それで、二度目は、改めて、頭を整理したいと言ってお帰りになった訳ですね。そして、今日、久しぶりに来たいと思った理由はわかりますか?」


「・・・あれ?どうしてだろう・・・でも、来たいと思って家を出たのは覚えています。部屋に入ったこともぼんやりですが覚えているのですが、何を話したのかは覚えていません・・・」


 吉野さんは、多重人格者?夢遊病者?覚えていないことが多過ぎるけど、さっきも話しはできていたし、この一年の間にもドラマにも出ているし、本当に理解ができない。


「ここ最近で、何か普段と違う事をしましたか?」


「普段と違う事ですか・・・?」


「例えば、普段は行かない場所に久しぶりに訪れたり?」

 ちょっと誘導的な質問だ。


「あ、先日、岡山でドラマのロケがあって、帰りに時間があったので、以前に行ったことがあった神社にお参りに行きました」


「その神社の名前は覚えていますか?」


「吉備津・・あ、桃太郎!」

 吉野さんはびっくりしたような声を上げて笑った。そして、桃太郎が繋がった。


「吉備津彦神社に参拝に行かれたのですね」


「はい。正直、もう桃太郎の映画原作を書くことは諦めようと思っていたので、行きたいと思って行ったというより、気が付いたら神社の前にいたような感じでした」


「神社に呼ばれたのですかね」


「そうかもしれませんね。不思議とまた原作を書く意欲が出てきて、久しぶりに描き始めたのですが、しばらくしたら、また、思考も気持ちもおかしくなってきてしまって、戦争映画のような夢を何日も連続で見たりしてしまって、昼間に幻覚のようなものも見えるようになってしまって・・・」


「そのような状態になったのは、最近、吉備津彦神社に行った時だけですか?」


「実は、吉備津彦神社に行ったのは、二回目でして、原作を描き始めた時にも、桃太郎のモデルと言われている吉備津彦命キビツヒコノミコトの神社にご挨拶と成功祈願のためにお詣りに行ったのですが、その後にも、おかしくなっていました」


「初めて、このカウンセリングルームに来られた頃ですかね?」


「はい。同時期だと思います」


「その時期に、他の神社には行ってはいませんでしたか?例えば、関東北から東北地方の神社に」


「行きました・・・。それが、何か・・・?」


「分かりました」

 先生は静かにそう言った。

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