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久しぶりのクライアント

 今日は久しぶりにクライアントが来るということなので、いつもより早めに事務所に到着した。カウンセリングルームの掃除などしておこうとしたが、すでに茜ちゃんが来ていて、部屋はすっかり綺麗に掃除されていた。彼女はいつ何の仕事をしているのかよく分からないところがある。

 しかし、やはり先生の優秀な助手なのだろう。今日の茜ちゃんは初めて会った時のメイドさんのような格好をしている。


「おはようございます。お掃除もう終わってるのですね。何かやることありますか?」


「おはよう。先生がそれ午後にクライアントが来る前に読んでおいてって言ってたよ」

 茜ちゃんがそう言ってテーブルの上を指差した。視線をテーブルに移すと本が置いてあった。


「桃太郎・・・?」

 子供の頃に誰もが読んだことがあるであろう超有名なお伽話の本が置いてある。午後のクライアントと関係があるのは間違いないだろう。クライアントは、絵本作家?または、この本を読むような幼少期に何かしらのトラウマを抱えたクライアントだろうか?


 クライアントと言えば、僕はカウンセリングルームにアルバイトに来てから、まだ、小夜さんくらいしかクライアントと会ったことがない。


 小夜さん、綺麗だったなあと彼女が座っていた椅子を見ながら、茜ちゃんに尋ねた。

「小夜さんは今何をしているのですかね?」


「小夜さんは今は別の世界にいるよ」


「別の・・・そうですか・・・」


「うん」

 茜ちゃんは遠くを見るように応え、自分を納得させるように頷いた。


 何だか、胸が押さえつけられるような寂しい気持ちになった。でも、茜ちゃんは僕の数倍寂しいだろうし、小夜さんの魂も還ることを選んだということなのだろう・・・。

 小夜さんのことを思い出しながら、桃太郎の本を読んだ。幼い頃に桃太郎の本を読んだ記憶は無いが、ストーリーは何故か知っている。どこかでいつの間にかインプットされている。それだけ、日本人にとって当たり前の物語なのだろう。


「読んだ?」


「はい。」


「どうだった?」


「どうだったって、誰もが知っている桃太郎でしたよ」


「それだけ?他の感想は無いの?」


「日本で一番有名なヒーローは桃太郎なのかな〜?と思いました」


「ほ〜ヒーロー。最近のヒーローは悩みがあるみたいだからね。スパイダーマンとか、バットマンとか。うん、間違っていないかもしれないね」

 茜ちゃんは、ぶつぶつ言いながら、僕の感想に納得しているようだ。


「スパイダーマンとかバットマンとかよく知ってますね」


「古今東西、英雄伝は好きだし、悩める者が主人公のお話しは観てるよ。兼人もたくさん観た方がいいよ」

「はい。でも、桃太郎はヒーローだけど、悩めるヒーローと思ったことはないですね。」


「じゃあ、本人に聞いてみたら」

 茜ちゃんは不的な笑みを浮かべた。


 本人?桃太郎・・・?どういうこと?


「そろそろ、クライアントが来る時間だね」

 茜ちゃんがそう言うと、カウンセリングルームの扉の向こう側が騒がしくなっているような雰囲気を感じた。

「さあ、開けるよ」

 茜ちゃんが扉に手を掛け、扉を開いた。桃太郎?の疑問の答えを扉の向こう側にいる人物に求めるように、入って来る人物を凝視した。扉の向こうの光りを背負い薄暗いカウンセリングルームに入って来たその人物はどこかで見た黒づくめの男性だった。


「どうぞお入り下さい」

 茜ちゃんに促され男が入って来た。


「失礼します」

 男が軽く会釈をし、顔を上げた。顔を見てあっと声を上げそうになった。俳優の吉野秀俊?


「吉野さん、よくお越し下さいました。どうぞこちらへ」

 いつの間にか水亀先生が部屋の真ん中に立っていて、クライアントに声をかけた。吉野さんと呼ぶのだから、やはり、俳優の吉野秀俊なのだろうか?

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