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この国の神と鬼と怨霊

「この国の神と鬼と怨霊について理解できましたか?」


「はい」茜ちゃんが力強く応えた。茜ちゃんは、先生の前では無邪気な少女、いや、猫のようだ。


「『桃太郎』のお話しは、この国に根ざす怨霊信仰の一つの側面過ぎません。しかし、それが日本の代表的な正義の姿を表しているので、実際に目にして、感じてもらいたいと思いました」


 僕は、今回の時間と空間の旅で感じた事を声にした。


「先生、神と鬼と怨霊は同義語ですか・・・?」


 茜ちゃんの瞳孔が開いた。禁句だったのか・・・?先生が珍しく鋭い目をして言った。


「兼人くん、その通りです。神と鬼と怨霊と正義と悪は同義語です」


 怒られるのかと思って身構えたが、杞憂だったようで安心した。そして、先生が言葉を続けた。


「補足をすると、神社には格があります。人が決めたことではあるのですが、これも神を慕う者たちが成した術なのでしょう」


 何を言いたいのか分からなかったが、次の言葉で僕が抱えていた疑問を見透かされた上の話しだとやっと分かった。


「吉備津彦命ことワカタケルとあった神社が一の宮だった事に疑問があったのでしょう?温羅の後の吉備国の王はイサセリ将軍なのに、と」


 その通りだ。文献を調べても、通りとしても吉備津神社の主祭神はイサセリ将軍のはずだ。


「それが、イサセリ将軍の知恵であり偉大さです。温羅の命を弟のワカタケルに任せて、吉備国の荒ぶる魂、怨霊を収めさせたのです。元々、同じ一の宮の神社にイサセリ将軍もワカタケルも温羅も、温羅の奥さんも祀られていたのです。それが、乙巳の変から始まった大化の改新で国が割れ、今の岡山県に二つの一の宮の神社が存在することになったのです。イサセリ将軍はこれも予測して、温羅の命をワカタケルに託したのでしょう。だから、イサセリ将軍もワカタケルも吉備津彦命として祀られているのです。といった大和の国づくりの都合で、二人の英雄が同じ名前で神として祀られているのですね。それをワカタケルは納得がいかなかったのですね。この地を長年収められたのは軍事力での制圧でなく、名を捨て、大和に、いや、イサセリ将軍の見事な采配とワカタケルとの友情に殉じた温羅があってこそなのに、現在に伝えられないことに」


「だから、悩んで心を病んで先生に相談していたということですか・・・?」


「そうです。でも、今回、吉野さんの登場で上手く解決しました。兼人くんと茜ちゃんが見て来たようにワカタケルのカウンセリングは終了しました」


「でも、イサセリ将軍は心を病んでいないのですか?」


「イサセリ将軍の悩み相談は今のところありませんね。あと、ワカタケルも温羅も奥さんもイサセリ将軍が祀られている一の宮には、催事の度に行き来しているのですが、あまり、言葉を交わさずに頷いている姿を見ますね。自らの立場を受け入れているのでしょう。だからこそ、人から神に成れたのでしょうね」


 人から神になる程の気持ちが分かるとは言えないが、今回カウンセリングの流れは何とか分かった。しかし、カウンセリングってこんなに複雑且つ、難しいものなのだろうか・・・?そんな疑問と不安を顔に浮かべていると、先生が言った。


「大丈夫ですよ。不安は成長の入り口です。苦しみは大成の前兆です」


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