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吉備の国にさようなら

「私は鬼だ。今まで通り、鬼として描いてほしい」


 温羅が口火を切った。


「いや、私などが英雄ではないと描いてほしい。温羅こそが英雄であり、その立役者はイサセリの兄者だという真実を描いてほしい」


 吉備津彦命が反論する。


「い〜え、イサセリ将軍は吉備国を鬼の地とした大罪人です。英雄を生み出した立役者なんて認められません!」


 阿曽媛が吠えた。


「三者三様ですね。しかし、皆、元気そうで何よりです」


 水亀先生が笑いながら、三人の口争いを収めた。そして、吉野さんに向かって声をかけた。


「吉野さんは『シン・桃太郎』のイメージは出来上がっているのですか?」


「はい。私なりぼんやりとしたイメージはできてます」

 そう言う吉野さん今までで一番力強い印象を受けた。


「どんなイメージですか?今の段階でよいので教えてもらえますか?」


「神も人も曖昧な世界で生きる少女が人智を越える男に出会い恋をして、国作りに励み国を成すが、抗えぬ強大な力に晒され、愛した夫の決断に戸惑う。そこに、敵だと思っていた男が実は夫の命を救おうとしていて、その男は夫ともに国の行く末を語る真の友だった。という、悲劇に翻弄される女性視点の恋愛あり友情ありのストーリーを考えました」


「鬼も神も人も、ましてや、正義も悪も見えないストーリー。面白そうです。現代ならではの、吉野さんならではの、お話しが書けそうですね」先生が言った。吉備津彦命、温羅、阿曽媛は想像が付いたのかどうか分からない顔をしている。


「え、あの。私は・・・」温羅が不安そうに何かを言おうとするが、阿曽媛に袖を引かれ止められた。温羅もそれ以上何も言わなかった。この夫婦は良い夫婦だなと思った。


「温羅さん、阿曽媛、後は、吉野さんに任せましょう。では、我々は目的を達したので帰ります」


「え、まだゆっくりしていって下さい」吉備津彦命が言った。


「いえ、私たちはカウンセラーの仕事で来ていますので、また改めて観光にお邪魔させて下さい。吉備津彦さん、温羅さんは貴方が思っているような悲劇のヒーローではありませんよ。貴方が思っているよりずっと幸せです。それが分かったから、吉備津彦さんも安心したのではないですか?」


「は、はい。確かに、私の思い込みもありましたね・・・」吉備津彦命は目を逸らした。自分に思い聞かせるように何度も頷いた。その肩に温羅が肩を置いた。


「では、以上で吉備津彦さんのカウンセリングは終わります。そして、改めて、吉備の国は素敵な場所だと分かりました。この地を護るために祀られている神様が素敵ですから間違いありません。では、また来ます。さようなら」


 そう言って、先生は右手を胸の辺りで軽く捻った。空間が飛ぶ瞬間、焦って、三人に向かって頭を下げた。吉備津彦命、温羅、阿曽媛、そして、その後ろに鬼たち、いや、吉備国の民たちの姿が見えた、笑っているように見えた。このような地が日本にはたくさんあったのだろう・・・。その代表がこの「鬼ヶ島」のモデル吉備の国だったのだろう・・・。


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