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吉備津彦神社到着

 吉備津彦神社の最寄駅、備前一宮駅は小さな無人駅だった。周りに高い建物は一切なく、すぐ裏手には山が見え、紅葉の季節には赤や黄色が映えた美しい姿を見せるであろう、そんな山だ。そして、空気がいい。天気は晴々しい快晴とはいかず、若干、曇ってはいるが周りに遮るものが無いためか、都内で感じる空気がぶつかるような質量を感じない。また、柔らかい風を感じる。流れる川の中の石が水を割るように、流れる空気が自分の横を通り過ぎていくのを感じる。


「見られていますよね?」

 僕が、空気が気持ち良いな〜と感じ入っていると、不意に、茜ちゃんが先生に声をかけた。


「それはもうたくさんの目を感じますね。流石は桃太郎伝説の中心地、いえ、鬼ヶ島ですね」

 先生も茜ちゃんの質問に答えながら、笑顔で不穏な言葉を口にした。鬼ヶ島・・・?気持ちがいい場所だと感じた僕の感覚は間違っているのだろうか?


「でも、敵意は無い目ですよね?」


「そうですね。吉備津彦さんに会いに来たのですから、地元の鬼(?)たちが興味津々なのは当然です。でも、我々に敵意が無いのは理解頂けているようなので、彼方さんも敵意が無いのでしょう。では、参りましょう」


 この場所の鬼は吉備津彦命が制圧した後もずっといるのだろうか?やはり、鬼についての理解は深まった気になっていたが、吉備津彦命に関する謎はほとんど分かっていないので、もどかしさを感じる。そんなことを考えていると間も無く、『吉備津彦神社』の社号が見えて来た。社号の横にいるのが吉野さんだろう。こちらに気が付いたようで、手を振っている。徐々に近付いて行くと笑顔が見える。一週間前の暗さが全く感じられない爽やかさだ。


「お待たせしました。体調良さそうですね」


「はい。一週間前から体調はすこぶる良く、気持ちも晴れやかです。私自身が先生方と早く吉備津彦神社に訪れたいという気持ちがあったのも間違いないのですが、不思議な力に早く早くとせがまれる様に追い風に背を押されるような気分でした。今日この時を迎えられて本当にテンションが上がっています。根駒さん、九条さんもどうぞよろしくお願いします」


 ハイテンションな吉野さんは僕たちにも明るく挨拶してくれた。僕と茜ちゃんは少し気圧され気味に挨拶を返した。

「こちらこそ本日もどうぞよろしくお願いします」


「追い風・・・って、吉野さんに憑いている鬼も今日を楽しみにしていたということなのでしょうか?」

 僕は、吉野さんに聞こえない小声で茜ちゃんに質問した。

「そういう事だろうね。相変わらず鬼は憑いているけど、暗さが全く無いからね。鬼も吉備津彦神社に来たかった様子だね」


「でも、「桃太郎」が鬼門封じのお話しだとして、桃太郎のモデルの吉備津彦命を必要以上に恐れる必要が無かったとしても、鬼が早く吉備津彦神社に行きたいと思いますかね・・・?」


「東北の鬼が吉備津彦神社に行きたい理由・・・私にも分からない・・・」


 鬼の様子が見える茜ちゃんにも分からないとなると、さっぱり分からない。この旅は本当に謎が解けたと思うと、すぐに次の謎が生まれる。先生はこの事には気が付いているのだろうか?と、先生の方に目を向けると、吉野さんと談笑しながら、すでに鳥居を潜って、参道を歩いている。水亀先生は神様の中の神様のような方なのに、参道の脇を歩くのだなと、妙な事に感心してしまった。


「兼人、私たちも急ごう!」

 茜ちゃんに促されて、僕たちも鳥居の前で一礼して先生たちを追った。


 手水舎から拝殿に向かい、一連の参拝の作法を終えると、後ろから凛とした声が響いた。

「お待ちしておりました」

 その声の方を振り返ると、紫の袴の男性が立っていた。おそらくこちらの神社の神職の方だろう。

「お久しぶりです。吉備津彦さん。お元気そうですね」

 その先生の言葉に僕と茜ちゃんと吉野さんは驚いて先生の方や、紫の袴の男性の方を見た。誰も予想できていない形での吉備津彦命の登場だった。

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