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第17話 撮影の日

「緊張するなぁ」

「大丈夫だよ。スタッフの人たちも良い人なはずだから」

「そうだよな」


 昨晩は眠りにつく直前までノートを見返していた。

 そのお陰もあり、俺は完璧な状態で撮影現場へと向かうことができている。


 よし、サリナに言われた通りに自分に自信をもって挑もう。

 自信を持つことが大事だと言っていたからな。


 今回の撮影は、大きなデパートが撮影場所らしい。

 そのため、多くの人たちに見られながらの撮影になると予想されているようだ。それに、有名モデルであるサリナの撮影だ。誰でもその場にいれば必ず足を止めるだろう。


「ユウくん、着いたよ」

「聞いてはいたけど大きいデパートだな」

「この辺りだと一番大きいデパートだよね」

「そうだな。でも、大丈夫。サリナに教えてもらったとおりにやればいける」

「そうだよ。ユウくんは自信をもってやれば絶対に上手くいくから」


 俺とサリナは一緒にデパート内へと足を踏み入れた。

 サリナは有名モデルということもあるので撮影場所に着くまでは帽子とマスクを着用して周りの客にバレないようにしていた。


 撮影場所に到着すると予想以上に多くの撮影スタッフと思われる人たちが待機していた。


(撮影スタッフって、こんなにいるの?!)


 驚いているのが顔に出てしまっていたのか、隣にいるサリナは俺を見てニコリと笑った。


「お! 二人とも来てくれたみたいだね!」


 俺たちの到着に気づいた一人の男性スタッフがこちらの方へと歩いてくる。

 優しそうな表情で声を掛けてくれたことで俺はホッとした。


 この人が今回の撮影スタッフの中では一番偉い人なのだろうか。

 他のスタッフの人たちもこの男性を慕っているように見える。


「初めまして! 夜見ユウと言います! 本日はよろしくお願いします!」

「あはは、君がユウくんか。そんなに堅くならないでいいんだよ。もっとリラックスして」

「あ、はい、そうですよね。ありがとうございます」


 俺が緊張していることに気づいたようで、俺にリラックスするように伝える。

 そうだよな。緊張してしまって空回りしてはサリナとの練習が無駄になってしまう。俺は深呼吸をして自分の心を落ち着かせる。


「それじゃあ、早速だけど準備はいいかい?」

「はい、大丈夫です」


 用意された撮影用の服を着て、サリナを待つ。

 スタッフの人たちがヘアセットまでやってくれた。最初はスタッフの数の多さに驚きを隠せなかった俺だったが、すぐにスタッフの人たちの仕事量の多さに気づいた。


 どのスタッフも忙しそうだ。

 そりゃ、この人数も必要になるか。


「お待たせっ」


 サリナが着替えやメイクを終え、目の前に姿を現す。

 白色の軽やかなレーススカートに、パステルグリーンのニットを着て、その上から黒色のジャケットを羽織った大人っぽいサリナの姿がそこにはあった。


「すごい綺麗……」

「えっ、そう……かな……?」


 俺は自然と思ったことをそのまま口に出していた。

 それを聞いたサリナは少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら笑顔を見せてくれた。


 やっぱりプロは凄いな。

 もちろん服が良いというのもあるだろうが、サリナがその服をさらに良く見せているような気がする。


「それでは、撮影始めまーす」


 もう始まるのか。

 始まる直前にサリナが耳元で囁く。


「ユウくんもかっこいいよ」

「!?」


 直前で言うのはズルいな。

 そのせいで耳まで赤くなっているような気がする。


「サリナさんはユウさんの腕に抱きついてくださーい」

「はい、わかりました~」


 サリナが俺の腕に抱きつく。


「ユウさんは少し表情が堅いから、もう少し笑顔で」

「あ、はい」


 そうだ。

 緊張しすぎちゃだめだ。


「いつもの私とお喋りしているときと同じような感覚でいいんだよ。あまり撮影だからどうしようとか考えすぎないで」

「なるほどね。ありがとう」


 たしかに普段、サリナと喋っているときはドキッとさせられてしまうこともあるが、リラックスできている気がする。


「そう! その表情いいね~!」


 カシャッ


 カメラのシャッター音が鳴る。


 撮影が始まって十分もしないうちに周りには多くの人が集まってきた。

 撮影エリアにはスタッフによって入れないようにされているので、撮影に影響はない。


『あれって、モデルのサリナちゃんじゃない?』

『ホントだ! 初めて見た!』

『その隣の男の人は?』

『あの男の人はサリナちゃんとダンジョン配信者やってるユウさんだ!』

『マジ?! めっちゃイケメンじゃん!』


 集まってきている人たちの声が耳に入ってくる。

 俺のことを悪く言う人がいなくて良かった。それどころか、俺に好感を持ってくれている人が多いようだった。


 その後も撮影は続き、約三時間後に撮影は終了した。


「ユウくん、お疲れ様」

「ありがとう。サリナもお疲れ」

「ユウくん、流石だったね。スタッフの人たちも本当にモデルやるの初めてなのか疑ってたよ」

「そう言ってもらえると嬉しいな」


 俺たちが話しているとスタッフの人たちがこちらの方に来て、俺に声を掛ける。


「ユウさん、お疲れ様でした。今日、モデル仕事を引き受けてくれてありがとう。どうだったかな?」

「もちろん大変でしたけど、それ以上に楽しかったです」

「それは良かった。それでユウさん、もしよければこれから先もモデルの仕事を続けてみない?」


 スタッフの男性は俺にモデルの仕事を続けないかと尋ねてきた。

 サリナも予想していなかったようで、驚きながらも自分が口を出してはいけないと敢えて何も言わないようにしているようだった。


 もし、俺がサリナとダンジョン配信を始める前だったら、二つ返事でオーケーを出しただろう。でも、今の俺はサリナと一緒にいることが一番だ。


「有難い話ではありますが、俺は今後もサリナとダンジョン配信を続けていきたいので、モデルを続けることはできないです」

「そうか、それは残念。まあ、興味が出たらいつでも連絡してくださいね」


 そう言うと、連絡先の書かれた名刺を渡された。


 サリナは嬉しそうに俺のことをずっと見つめていた。


「どうしたの?」

「いや、もしかしたらユウくんが申し出を受けるんじゃないかと思ってたから」

「たしかにモデルの仕事は楽しかったけど、それよりも俺はサリナとダンジョン配信を続けていきたいからね」

「ありがとう。私もユウくんとこれから先もずっとダンジョン配信を続けるつもりだからね!」


 こうしてモデルとしてのサリナの最後の仕事を終えたのだった。



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