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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第九十九話:それぞれの道

「私の目指すべき進路が決まりました」


「……………そう」


「師走先生は以前、"世の中を知った気になるな、たかが十年そこら生きたくらいで…………"と仰いました」


「言ったわね」


「でも、私は……………この先、こんな思いをいくつもするのが世の常だなんて思いたくありません………………こんなの知りたくなかった………………こんなのが大人になるってことだとしたら、私は大人になんてなりたくない」


「……………そうね。理不尽よね。でも、それが世の中ってもんなの。いつだって、環境は、人は、運命は、私達に牙を向いてくる。ただ、大切な人といつまでも一緒にいたいだけなのに……………そんなささやかな願いすらも奪われかねない………………それが人生よ」


「………………先生は知っていたんですか?」


「………………」


「答えて下さい。先生は葉月さんがこうなるってこと、知っていたんですか?」


「長月さんは一体何が言いたいのかしら?」


「っ!?何ですか、その態度!!いつも、いつも、いつも、いつも!!上から目線で自分は何でも分かってますみたい…な、その態度!!で、肝心なことになるとしらばっくれて!!………………あんた、一体なんなんだよ!!そんなに偉いのかよ!!知っていたんなら………………どうして助けてくれなかったんだよ!!」


私は思わず、先生の胸ぐらを掴み詰め寄っていた。これは八つ当たりだ。先生に悪意がないことなんて分かっている。でも、それでも……………私には今、心の余裕がない。今回の件は私達にとって、それほど大きなことだった。しかし、最後の一言だけは絶対に言ってはいけなかった。何故なら……………


「ごめん……………ごめんね………………私が無力なばかりに………………私には結局、誰も……………本当にごめん……………」


先生が泣いていたからだ。いつも飄々としていて、常に冷静で、でも時にはお茶目で……………そんな先生の泣いているところは初めて見た。一体何が先生にそんな顔をさせるのだろうか……………一瞬だけ浮かんだ疑問はしかし、すぐに流されてしまった。それよりもまずは自分の失言について謝るのが先だと。


「せ、先生!す、すみません!私の方こそ、失礼なことを言ってしまって………………こんなの完全に八つ当たりです」


「ううん。あなたは…………あなた達は何も悪くないの。本来は私達教師が教え子であるあなた達を助けてあげなければならない立場なのに………………」


教師?教え子?……………私は先生のその言葉に違和感を覚えた。先生は決してそれだけで言っていないような気がする。まだ他に理由があるような……………


「先生、それって……………」


「でも、これだけは覚えておいて………………どれだけ掛かるか分からないけど、絶対に私が何とかしてみせるから」


何故かは分からないけど、師走先生のその言葉が頭を離れることはなかった。








            ★







静粛な雰囲気の漂うここは教会だった。ステンドグラスから差し込む陽の光が美しく清らかに中を照らしていく。本日は晴天なり。この日に式を挙げる新郎新婦にとっては何よりの吉日だった。現に今も牧師の目の前に並んで式を挙げている者達がいた。


「あれから、どれだけの年月が流れたのか………………兎にも角にも遂にこの日が来たか」


「感慨深いですね」


それを椅子には座らず、後方に立ちながら見守る二人の男女がいた。


「お前、いつまで後輩気分でいるんだよ。いい加減、その敬語やめろ」


「えぇ〜別にいいじゃないですか睦月先輩。私にとって先輩はいつまで経っても先輩ですよ?」


「っつても、高校卒業してからどのくらい経つと思ってるんだよ」


「えぇ〜……………じゃあ、分かったよ睦月!」


「全く……………お前は相変わらずだな皐月」


「それ、褒めてます?」


「切り替えが早い…………というより順応性が高いって言ってんだ。あと、敬語に戻ってるぞ」


「おおっと!いけない、いけない!」


「ったく…………」


軽口を叩き合う男女。ふと男の方が前方に目を向けると式はいよいよ終わりというところまできていた。


「…………何泣いてんだよ」


「ふんっ。あなたも人のこと言えないじゃない。酷い顔・・・」


「うるせ。お前、俺の顔見てないのに適当なこと言うな」


「それはこっちの台詞」


「ふんっ。これは・・・嬉し涙だ」


「・・・馬鹿ね。そんなになるんなら、何で自分の気持ちを伝えなかったのよ」


「うるせぇ。それはお互い様だ」


「そうね……………私達、大馬鹿者同士ね」


気が付けば、式はクライマックスだった。そして、この男女の立ち位置は……………いや、距離は式の開始前より、心なしか縮まっていたのだった。









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