第九十六話:思い出
それからの日々はみんなで楽しく笑い合いながら、過ぎていった。おそらく、あの後それぞれが考えに考えて、どうするべきなのか、辿り着いた結論がそれだったのだ。残された少ない時間を無駄にせず、一緒に楽しく過ごすことが俺達にとっても……………何より、優梨奈にとっても最適であると思ったのだ。
「でさ、その時こいつが言ったんだよ。"いくら外見を取り繕ったって、中身がそれじゃ無意味だよね"って」
「ちょっと、睦月くん!言わないでくれよ!恥ずかしいな、もう!」
「だって、本当のことじゃんか」
「………………まぁ、確かにそう言ったけどさ」
「ほら!」
「だって、あれはあの子達がいけないんじゃないか。ただ、僕の落とし物を拾ってくれただけの子に色目を使うなとか、好感度を上げようとするなとか言ってたんだから」
「まぁ、それには同意見だけどよ」
「で、その後に睦月くんが言ったのが………………"どっか行ってくんねぇ?うちの広輔はお前らなんかに構ってる暇ねぇんだわ"だって………………その時、思ったよ。あ、名前初めて呼ばれたっ!!ドキッ!!って」
「ぷぷっ!睦月先輩、やってますねぇ。カッコつけちゃってますねぇ」
「おい、皐月!お前、馬鹿にしてるだろ!!それから、神無月!お前、絶対そんなこと思ってないだろ!!」
「うん。あ、これはやってるわー……………って思ってた」
「皐月と同じじゃねぇか!!」
「でも、神無月先輩の言ってることは本当なんですよね?睦月先輩、カッコつけたんですよね?」
「いや、言ってることは本当だが、別に俺はカッコつけてねぇよ。俺はただ、神無月を守ろうとしただけで」
「えっ、何から?」
「あの女子達からだよ。お前だって色々と苦労してきたから、分かるだろ。もし、反発して何かされたら……………」
「ちょっと待って下さい………………私、今ピーンと来ちゃいました!睦月先輩、あなたの言っていることはおそらく本当でしょう!!しかし!それだけでは不十分!!足りてないんです!!」
「何がだよ」
「あなたは神無月先輩だけではなく、その落とし物を拾った女の子も守ろうとした。なんせ、神無月先輩がああ言ったままでその場が終われば、ムカムカとした怒りの矛先が女の子に向かってしまう可能性がある。女子は怖いですからねぇ。おそらく、裏で"恥かかせやがって"的なことを言われてしまうでしょう。ですが、ここで睦月先輩の登場です!お目当ての人物にとやかく言われるのなら、まだしもその友人である、よく分からん小僧に何か言われたとあってはプライドもズタズタです」
「誰が、よく分からん小僧じゃ」
「えっ、でも睦月先輩ってスペックや周りの環境の割に学園内での知名度、全然ないじゃないですか」
「う、うるせぇ!人がちょっと気にしてること言うなよ」
「とにかく!女子達からしたら、そんな奴にそんなこと言われたら、矛先が確実に睦月先輩に向きます」
「そんな奴……………」
「"えっ、こいつ誰?"とか"ほら、あれだよ。あの如月先輩や霜月先輩、長月先輩の周りをうろついてる"とか」
「うろついてる…………」
「"最近ではこうして神無月先輩にまで擦り寄ってるんだ…………引くわ〜"とか"あたしらと同じ学年でいえば、あの葉月とも一緒にいるとこ見たって誰かから聞いたよ。なんか、軽くあしらわれていたらしい。あと、皐月は可愛い"とか"うわっ、それで私達にこんな態度取ってんの?同じ穴の狢じゃん。皐月ちゃん、まじ可愛い"ってな具合に裏で言われてますよ」
「俺って外からはそんな印象なの……………?みんなと仲良く話しているつもりだったのに………………あと、最後の部分、変なのが混じってたな」
「まぁ、まとめますと睦月先輩は落とし物を拾った女の子に矛先がいかないようにしたってことです」
「まとめたねぇ〜皐月さん」
「えへへ。長月先輩、私頑張りました?」
「うん。偉いね〜」
「な、何なんだこの空間は……………」
だから、こうして今日も俺達は窓際のベッドに座る優梨奈を囲んで楽しくおしゃべりに興じていた。優梨奈と過ごすこの日々を大切な思い出として、持っておきたくて……………そして、それを優梨奈にも持っていて欲しくて。
「ふふふ。今日のお話も面白いですね!!」
「どこがだ!!」
微笑みながら言う優梨奈は本当に心の底から楽しそうだった。そうして、俺達の一週間はあっという間に過ぎていった。




