第八十七話:仕組まれた罠
「………………今の話、本当か?」
修学旅行から帰ってきたばかりの俺達はその足ですぐ俺の家に集合した。当然、皐月も呼んである。というのも結局、優梨奈と仲直りできたのかを聞く為だった。まぁ、っつても二人のことだ。どうせ仲直りできたんだろう……………そんな俺達の淡い希望は皐月の報告によって、すぐに打ち砕かれた。
「ええ。あまり頼りたくはないんですが、今回ばかりは家の力を使わせて頂いたので間違いはないかと」
「家の力?」
「皐月家には情報収集に長けた人達がいるのよ。元は忍者の家系だし」
「えっ!?何それ!!カッケェ!!………………ん?ってか、何でそんなことクレアが知ってんだ?」
「なるほど。皐月家が調べたのなら、間違いはなさそうだ。なんせ、十二家の中で彼らは最も情報収集能力が高いからね」
「おい、神無月。お前まで何言ってんだ?」
「それにしてもまさか、彼らがね」
「えっ!?長月も何か知ってんの?」
「なるほどな」
「圭太、まさかお前まで…………」
「いや、俺は何も知らん。俺が頷いたのはそいつらの正体よりも葉月と皐月がすれ違ってた理由が分かったからだよ」
そう。皐月からもたらされた報告によると彼女達のすれ違いは第三者によって意図的に起こされていたということだった。
★
「ちょっと。こんなところに呼び出して一体何の用よ」
「あたしら、時間ないんだけど」
「あれ?あなた、もしかして、あの有名な皐月さんじゃね?」
「白々しい態度はよして下さい」
「「「は?」」」
「弥生さん、水無月さん、文月さん………………あなた達の仕業だったんですね?私と優梨奈が一向に会えないのは」
「はっ!何を言うかと思えば、私達を犯人扱い?」
「何であたしらがそんな面倒臭いことしなきゃなんないのよ」
「本当よ。そんなことしても私達にはメリットが一つもないじゃない」
「家の力を借りて、調べさせて頂きました。すると、あなた達の仕業だということが分かったんです」
「「「……………」」」
「私は皐月家の者です。これが一体何を意味するのか、知らない訳ではないでしょう?」
「……………あぁ、はいはい。やりましたよ!私達が!」
「ちょっと!あんた!」
「仕方ないだろ?あの皐月家が調べたって言ってんだから!言い逃れなんか、できるもんか!」
「ではあなた達三人の動機を伺いましょうか?」
「前々から、あんたが気に食わなかったんだよ。いきなり、転校してきて、すぐにチヤホヤされちゃってさ」
「あ、あたしも同じ……………」
「う、うん。私も同じ動機で…………」
「弥生さんのは事実でしょう……………しかし、水無月さん、文月さん。あなた達は違いますね?」
「「っ!?」」
「十二家は一枚岩ではないということでしょう。弥生さんに協力することでその親である重吾さんに取り入ろうとしたんですよね?おそらく、両親から何か吹き込まれて」
「えっ!?あんた達、そうだったの?」
「「……………」」
「わ、私あんた達のこと友達だと思ってたのに……………まさか、頼まれて仕方なく私に協力したの?」
「だ、だって!あんたに協力したら何でも好きな物買ってあげるって!!」
「わ、私はお父さんとお母さんに褒めてもらいたくて……………私、何にも取り柄がなくて、いつも迷惑かけてるし」
「あんた達……………」
「まぁ、お二人のご両親がそういった行動を取るのは想定内ですね。なんせ重吾さんは十二家の中で序列に見合わぬ顔の強さがあります」
「……………」
「まぁ、とはいっても私が知っているのはこのくらいです。十二家については両親も意図的に私を遠ざけて接触しないようにしているのであまり詳しいことは知りません。どういった活動をしているのか、彼らの真意など………………でも、これだけはハッキリと言えます。自分達が甘い汁を吸う為だけに子供を利用するなど、あってはならないことです………………まぁ、今回、弥生さんはある意味で被害者でしょうが」
「ご、ごめんね茜」
「私、今冷静になってみて随分と酷いことしたと思う。本当にごめん」
「……………これだけは聞かせて」
「「えっ…………」」
「親に言われたからとかじゃなくても……………今後も私と一緒にいてくれる?」
「「……………」」
「そ、そうだよね。やっぱり、無理だよね。だって、私なんか友達じゃないん」
「「そんなことないよ!!」」
「えっ」
「茜は大切な友達だよ!確かに今回、親に言われて仕方なく、あんたに近付いたのは事実だよ。でも、一緒にいるうちに分かったんだ。あんたが物凄くいい奴だってこと!!」
「私にとっても茜ちゃんは大切な友達だよ!素直だし、明るいし……………でも、わがままなところは直して欲しいけど」
「あんた達…………」
「「ふふっ」」
「全く、馬鹿だね………………それとさ、まず謝るんなら、他に相手がいるだろ?」
「「あっ!!」」
そこで三人は私へと向き直り、深く頭を下げながら、こう言った。
「「「皐月さん。この度は本当にすみませんでした」」」
「反省してくれているのなら、いいですよ」
私はその場でニッコリと微笑み、同時に一つ決意をしたのだった。




