第八十四話:二人きりのイブ
「参ったわね」
「そうだな」
あれから、俺達が展望台を離れたのは少し経ってからだった。しかし、いきなり降り出した雪によって、交通機関は既に麻痺しており、その影響は電車にも及んだ。結果、俺達はクレアの降りる駅までしか乗れず、仕方がないのでこうしてクレアの一人暮らししているマンションまで押しかけたような形となってしまったのだった。ちなみにクレアの降りる駅と俺の降りる駅では二駅程離れている為、帰ろうと思えば、帰れないこともないのだが、問題は今の状態にあった。パーティー会場からそのまま抜け出してきた為、タキシードを着ており、さらに路面が凍ってしまっているかもしれない今の状態では流石に危ないとクレアが自宅まで招き入れてくれたのである。しかも着いてすぐ、それぞれ風呂に入って温まり、今はお互いがパジャマで過ごしていた。あ、俺のはクレアに借りたクマの絵が描いてある可愛いやつです、はい。本当に助かります………………しかし、この状況は……………
「なんか、変な感じね。私の家に拓也がいるなんて」
「あ、ああ。思えば、来たことなかったな。クレアが俺の家には来たことあるが」
「あぁ、あの試験勉強の時にね………………懐かしいわ。あれが半年ぐらい前の出来事とは思えないくらいに」
「だな……………それにしてもここで普段、クレアが生活しているのか。なんか、意外だな」
「そう?私のイメージ通りだと思うけど」
「そりゃ、学園の奴らからしたらな?未だにクレアのことを冷たくて優しさの欠片もないみたいに思い込んでいるのもいるくらいだ……………でも、俺は知ってる。クレアが一体どういう女の子か。クールぶってはいるけど、実は可愛いものが好きなところや意外におっちょこちょいなところを」
「ち、ちょっと!変なところを覚えてないでちょうだい!拓也にはそういうところを見せたくないんだから」
「いいや!キモいと思われようが、俺はクレアの色んなところをもっと知りたい。それに本人が恥ずかしいと思っている部分も世間でいえば、チャームポイントとして受け入れられるかもしれないぞ」
「そ、そりゃ私だって拓也のことは色々と知りたいけど………………でも、別に世間に受け入れて欲しいとは思わないわ。私は自分の大切な人にだけ理解してもらえれば、それでいいから」
「クレアは本当に欲がないよな。今時、珍しいわ」
「そうかしら?私、結構わがままよ?」
「そうか?」
「ええ。実際こうして、平静を装っている今でさえ、拓也に対して、イライラしているもの。何でこのクリスマスイブという特別な日に女の子が家に呼んであげてるのに相手の男は何もしてこないのか〜とか、そうでなくとも少しくらいは何かを感じて焦って欲しいのに〜とか」
「っ!?えっ!?ク、クレア!?そ、それはあのっ、ど、どういう……………」
「ふふっ、半分冗談よ。だから、安心して」
「えっ!?じ、冗談!?でも、半分!?えっ!?」
「今はあなたのそのリアクションだけで我慢してあげる………………でも、いずれは…………ね?」
「ひ、ひゃい!!そ、その時は全力で頑張らせて頂きます!!」
「ふふふっ。全力でって、何よ……………やっぱり、あなたといると楽しいわ」
それから夜が明けるまで二人で話をしながら、過ごした。余談だが、寝る時は一緒のベッドだった。俺は床で寝ようとしたのだが、こんな寒い時に何を考えているんだと怒ったクレアによって、引きずりこまれてしまったのだ。俺は絶対に緊張して眠れないと思ったのだが、思ってたよりも疲れていたのとクレアが横にいる安心感でベッドに入った瞬間、眠りについていた。そして、どうやらそれはクレアも同じだったらしく、次の日同じタイミングで目が覚めた俺達は顔を見合わせて笑ったのだった。




