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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第八十三話:聖夜

「そういえば、何で優梨奈がここに?一年生は出られないはずじゃ」


「私の大好きな先輩方がいらっしゃるので、私も参加したいって言ったら……………何かできちゃいました」


「えっ、何そのアバウトな感じ………………ちなみに誰に言ったの?」


「教頭先生です……………なんか、"可愛いから、許す!"とか言って、サムズアップしてましたけど」


「言いそう!」


「優梨奈、よければ私達と一緒に回らない?」


「えっ!?いいんですか!!」


「だって、その為に来たんだろ?当たり前じゃないか」


「うわ〜い!!」


「ふふふ。霜月さんも葉月さんも可愛いね」


「ち、ちょっと!優梨奈はともかくとして、何で私まで」


「だって、葉月さんが来た瞬間、嬉しそうにしていたから」


「っ!?ほ、ほら!行くわよ!!」


「あっ!クレア先輩、待って下さい!!」


「「やれやれ………」」


俺と長月はスタスタと先に行く二人を少し遅れて追いかけたのだった。






            ★






「楽しいな」


「ええ」


みんなで楽しく回りながら、時々クラスメイトとも挨拶を交わし、様々な料理を堪能した俺とクレアは現在、外の空気を吸おうと校門へ向かって歩いていた。


「なぁ」


「うん?」


「ここから抜け出して、どこかへ行かないか?」


「……………それって二人きりで?」


「ああ」


「みんなに悪いわよ?」


「後でいくらでも謝ればいいさ。もちろん、俺がな」


「私も一緒に謝るわ」


「いいや。そのぐらい、俺は今クレアと二人でいたいって思ってるから」


「………………寒いわね」


「こうやれば、大丈夫だろ?」


俺は右手でクレアの冷たそうな左手をゆっくりと強く握る。その強さはまるで俺がクレアに対して抱く想いの強さを表しているかのようだった。


「………………暖かいわね」


「………………ああ」


そのまま冷たい風が吹きつける中を歩幅を合わせて歩く俺達。街はやはり、カップルだらけだった。そこでいつかの会話を思い出す。確か、あの時は俺達の関係が周りからどう見られているか、クレアは気にしていたっけ……………懐かしい。つい一、二ヶ月前のことを随分と昔のことのように感じる。以前はそんなことがなかった。それだけクレアと過ごす穏やかで心地良い日々に俺は幸せを感じているのだろう。彼女とはどこにいても何をしていても心が温かくなる。思わず、先人の言葉が思い浮かんだ。"どこに行くか、何をするかではない……………誰といるかだ"。


「そういえば、どこに向かってるの?」


「まぁ、ちょっとな」


そんなことを考えながら街を歩き、駅に着いて電車に乗る。気のせいでないのなら、車内は男女二人組の率が高かったように思う。席に座っても俺達は手を繋いだままだった。クレアは車窓から、過ぎゆく街を眺め、少し経っては俺を見てというのを繰り返していた。彼女が何を考えているのか、分かってる。だが、それをここで言う訳にはいかない。俺達はそこから20分もの間、電車に揺られていた。この時の20分は人生でも相当長く感じる時間だった。










「綺麗ね……………とっても」


「そうだな」


俺がクレアを連れてきた場所は最近できたばかりの展望台だった。展望台とはいっても別に外にある訳ではない。高さ400メートルのタワー、その頂上付近の階にあるガラス張りのところである。上下左右が透明でまるで空の上を歩いているような感覚に陥る為、高所恐怖症にとっては涙目なのだが、クレアがそうでないことはテーマパークで実証済みであった。


「ここってさ……………カップルに人気の場所なんだよ」


「っ!?……………そ、そうなの」


「ああ。何でも"ここの展望台からの景色を一緒に眺めたカップルは永遠に結ばれる"とかなんとか」


「へ、へぇ〜……………」


「………………クレア」


そこで俺は徐にポケットから箱を二つ取り出した。そして、それをクレアに向かって差し出す。


「……………これは?」


「俺の気持ちだ………………受け取ってくれ」


俺の言葉をどう受け取ったのか、クレアは頷き、俺に箱を開けてもいいか確認してから、ゆっくりと箱を開けた。


「っ!?これって」


それはイルカのネックレスとクレアの名前が彫られた指輪だった。それぞれ水族館とテーマパークに行った時、クレアにバレないよう、こっそりと買ったものだった。


「その……………気に入ってくれるといいんだが」


「当たり前じゃない!こんなに素敵なものを想いを寄せる人から頂いて、喜ばない人なんていないわよ!」


「っ!?そ、そうか」  


「拓也、本当にありがとう。とっても嬉しいわ」


俺はクレアからの言葉に思わず、顔が熱くなるのを感じた。しかし、ここでただ熱くなっている場合ではない。なんせ、俺の目的はまだ他にあったのだから。


「それとクレア」


「?」


「聞いて欲しいことがあるんだ」


「聞いて……………欲しいこと?」


俺の表情から何かを感じ取ったクレアはたった今、受け取ったばかりの物を大事そうに抱きしめ、真剣な顔で俺を見つめた。


「ああ」


緊張する。おそらく、これまでの人生で一番の緊張だ。夏でもないのに急速で喉が渇いてきているのがそのいい証拠だ。まずい。このままでは上手く話せるかどうか、呂律がちゃんと回るかどうかも怪しい。しかし、ここで逃げる訳にはいかない。なんせ、目の前では俺の最も大切な人が俺を信じて待っていてくれてるのだから。


「文化祭の劇の時、クレアは言った。あの言葉の続きはもう少し待って欲しいって。だから、俺はちゃんと待った。クレアの覚悟ができるまで、こうして約三ヶ月もの間………………」


「………………」


「でも、俺は気付いたんだ。それはクレアが俺の想いを受けて、答えを出す覚悟だってこと。それかどちらであったとしても俺達と周りを取り巻く関係性は否応でも変わる。つまり、クレアの覚悟とは新しい環境へのものだということを」


「そう……………かもしれないわね」


「だから、例えばここで俺がクレアに対して……………"一方的に気持ちを伝えるだけ"だったとしたら、それはクレア的には許容範囲なんじゃないかって」


「っ!?まさか」


「今、ここで返事はしなくていい。これは俺のわがままだからな。だが、忘れないで欲しい。俺が今からすることはもしかしたら、一番大切な人に一番嫌われてしまうようなことかもしれない………………それぐらいの覚悟が俺にはあるってことを」


「拓也……………」


「すぅ〜はぁ〜……………」


俺はそこで目を瞑り深呼吸をしてから、ゆっくりと目を開けた。すると、目の前には何をしてでも守りたい…………この世のどんなものよりも大切なものがあった。


「霜月クレアさん………………俺はあなたのことが好きです」


「っ!?」


言った。言ってしまった。もう後戻りはできない…………俺の方は。しかし、そんなことをするつもりは毛頭ない。出会ってから、まだ一年経っていないが俺の中で彼女の存在はこんなにも大きくなった。それこそ、一生を共にしたいと思える程。


「……………わ、私は」


だが、それをクレアに強制することは間違っている。彼女は俺が知る限り、最も純粋で優しくどこか放っておけない人だ。そんな人がこうして俺の言葉を受けて、答えを出さなくてはと震えてしまっている。もし仮に俺に対して、俺の望むような想いがあるとしてもそれを言うことは彼女にとって、とても勇気のいることだからだ。それぐらい彼女にとって、"環境の変化"とは重いものだった。だから、俺は"返事は今、ここでしなくていい"と言ったのだ。だが、理屈と感情は違う。彼女は俺の為に答えを出してあげたいと思っているのだ。でも、俺はそれを望んでいない。彼女は彼女自身の為に答えを出して欲しいのだ。


「………………あっ」


「………………えっ」


ちょうどその時、空から白い粉のようなものが舞い落ちてきた。そして、それに気が付いた俺が声を上げるとクレアもつられて外を見て、思わず声を上げた。


「ホワイトクリスマスだな」


「………………ええ」


それは雪だった。まるで聖夜に二人で過ごす多くの者達を祝福するかのようなプレゼント。と、同時に今年最初の初雪でもあった。


「「……………」」


二人揃って、空を見上げ段々とその視線を下げていく。街に降り積もる雪を見ているとまるで俺達の想いも確かに積もっていくような気さえする。チラッと横を見るとクレアはもうさっきのような表情はしておらず、焦ってもいなかった。ただ、そこで俺の視線に気が付き、軽く微笑んだ後、徐に鞄から何かを取り出した。


「?」


「はい……………今度は私からあなたに」


そう言ってクレアが差し出してきたのはラッピングのされた紙袋だった。開けてもいいか確認してから、開けてみるとそこには……………


「手袋……………とマフラー?」


「拓也、手袋なかったでしよ?凄く寒そうだったから」


ん?……………ああっ!それでチラチラと俺の手を見ていたのか。


「おおっ、ありがとう!………………あれ?このマフラーって……………手編みだよな?俺の名前の刺繍があるし」


「ええ。やったことないから、時間が掛かってしまったのだけれど………………手編みなんて、もらってもあまり嬉しくはないかしら?」


「そんなことないよ!むしろ、自分の為にそこまでしてくれたのが嬉しいよ!!本当にありがとう!!」


「ふふっ……………せっかくだから、巻いてあげるわ」


「そんじゃ、俺もつけさせてもらうぞ」


そう言って、俺はクレアの首にネックレスを付けて、指輪を指に通した。ティアラやイヤリングはしていたが、ちょうど都合良くネックレスと指輪がなかった為、被らずに済んで良かった。ってか、よくよく考えると俺達、このクリスマスパーティーでの格好のまま、ここまで来たんだよな。そういえば、周りからの視線が痛かったような………………


「うふふ」


「うん?」


「今年のクリスマスは今までで一番のものだと思って」


「それは俺も同感だ」


それから、俺達はただただ寄り添いながら静かに街に降る雪を見ていた……………この後、その雪が交通機関に多大な影響を及ぼすことなど露知らず。





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