第八十二話:クリスマスパーティー
クリスマスパーティー当日。会場となる体育館は俺の予想に反して、多くの生徒達で埋め尽くされていた……………あれ?あそこにいるのって、"絶対に行かない!!"とか、言ってた連中じゃないか?何でいるんだ?
「くそっ!プライドだけで一人のクリスマスを過ごせるか!!」
「くそっ!憐れみだろうと何だろうとクリスマスに女子と触れ合えるなら、仕方ない!!」
「くそっ!クリスマスイベント、明日からじゃないか!!し、仕方ない。こうなったら、現実のヒロインを探し」
あ〜なるほど。そんな理由ね……………本当に単純だな、こいつら。
「クレア、人が多いから気を付けてな」
「ええ。でも、危なくなったら、真っ先にあなたを頼るから大丈夫よ」
俺は連中の脅威とそれから色んな要素からクレアを守るように一歩前へと出た。ちなみに周りの装いだが、男子はタキシードやスーツ、女子はドレスといった感じで思い思いに着飾っている……………そんな中でクレアは最も目立っているといっても過言ではなかった。頭にはティアラの冠を被り、耳には銀の宝石がついたイヤリング。それらはクレアが小首を傾げる度に軽く揺れ、煌びやかに光っていた。そこから視線を少し下げると右肩が少しだけ出ている水色の美しいドレスが目に入り、それは手に嵌めた真っ白いオペラグローブとの相性が抜群だった。そして、最後に普段はあまり見ることのない水色の高いヒールの靴を頑張って履いている。そう。全部ひっくるめたトータルコーディネートは控えめに言って………………最高だった!!
「とても似合ってるよ、クレア」
「そ、そう?」
「ああ。めちゃくちゃ綺麗だ」
「………………ありがとう」
何だろう。聖夜だからだろうか。いつもと違って、とても素直にこういったことを言える気がする。
「如月くん、霜月さん。こんばんは」
「おっ、長月か。こんばん…………」
俺はそこで思考が停止してしまった。長月もまたドレスを着ていたのだが、めちゃくちゃ似合っていたからだ。上から言っていくと黒のカチューシャを頭に乗せ、金の宝石がついたイヤリングをしている。またクレアとは対照的に左肩が少しだけ出た真っ赤なドレスを着ており、それは彼女がしている黒くて短い手袋によく合っていた。そして、最後はクレア同様、赤くて高いヒールの靴を履いており、若干慣れてない感じが出ていた。おそらく、この会場ではクレアと長月が人気を二分することは間違いなし。今もどこかで誰かがどっち派なのか、言い合っていた。
「あら、長月さん。こんばん、は!!」
「っ!?痛ぇっ!!」
嘘だろ。クレアの奴、いきなり俺の足を踏ん付けやがった。一体、俺が何したってんだ?ただ、長月に見惚れていただけだろうが………………まぁ、幸い温情?でヒールじゃないつま先の部分だったから、まだ良かったが。
「おい、クレア!!」
「ふんっ!だらしない顔でデレデレとしているからよ」
「可哀想な如月くん……………良かったら、そんな冷血女とじゃなくて私と回らない?ほら。私だったら、他の子にデレデレされてもそんなことしないし」
「お生憎様だけど、拓也は私と回りたいって言ってるから」
「今からそんな感じで束縛してたら、逃げられちゃうよ?」
「振られた人に説得力なんてないわ。ってか、振られてんだから、いい加減諦めて次に行きなさいよ。他人の男にちょっかいかけてる場合じゃないでしょ」
「本人を前にして、その発言……………相変わらず、デリカシーがないね。ってか、拓也くんは別にあなたの彼氏じゃないでしょ?」
「いずれはそうなるのよ。ってか、さりげなく下の名前で呼ばないでちょうだい」
「ってか、ってか、うるさいよ?ボキャブラリーが貧困だね」
「ってか、もし仮にあなたと拓也が一緒に回ったとして、本当に耐えられるかしら?拓也が他の女の子にデレデレしても」
「あの〜一応弁解させて頂きますとですね?私、デレデレなんてしてな………」
「耐えられるに決まってるじゃない。私、そこまで心が狭くないもん」
「別に耐えられたとしても心が広いってことにはならないわよ?むしろ、耐えられないってことはそれだけ相手に夢中ってことなのだから、想いは強いんじゃないかしら?」
「だから!私は自分の心がざわついたからって、パートナーにそんなことしたくないって話をしているの!」
「言ったわね?今、ちゃんと聞いたわよ」
「ふふん!もしも、私が霜月さんと同じことをしたら、あなたの言うことを何でも聞いてあげるよ」
「あの〜もう一回言うけど、俺は別にデレデレなんて…………」
「あっ!皆さん!」
「ん?」
突然、聞こえた声に振り返ると向こうから一人の天使が駆けてくるのが見えた。あれは………………
「優梨奈!?何で一年生なのに参加してるんだ!?」
優梨奈は頭に黄色い花であるマーガレットコスモスをつけ、同じ色の両肩が出ているドレスを着ていた。そして、クレア・長月同様、ヒールを履いており、慣れないのか転びそうになりながら、急いで向かってきていた……………大丈夫か?
「お待たせ致しました!こんばん…………きゃっ!?」
「っ!?」
不安が的中し、俺達の目の前で案の定転びそうになる優梨奈。しかし、俺は咄嗟に弾かれたように身体を動かして間一髪、優梨奈を抱き寄せることで地面への衝突を回避した。
「ふぅ〜危なかった」
「す、すみません!ご迷惑をお掛けして」
「いいんだよ。優梨奈が無事なら、それで」
「っ!?あ、あ、あとありがとうございます…………………拓也先輩、かっこよかったです」
「っ!?い、いやっ、咄嗟のことだったから何が何だか」
俺と優梨奈はこの態勢のせいで自然と至近距離で見つめ合う形となり、吸い寄せられたようにそこから動くことができなかった。
「拓也先輩……………」
おかしい。確かに優梨奈は可愛い後輩だ。しかし、それは妹に向けた感情に似ているはずだ。妹いないから、よく分からんけど……………とにかく、今までに優梨奈に対して、ここまでときめいたことはあったか?それとも何だ?このクリスマスパーティーという非日常の感じと普段見ることのない少し大人っぽい格好をした優梨奈が合わさったギャップにやられてしまっているのか?
「ねぇ、長月さん。この光景を見てもまだ、耐えられると言いたいのかしら?ってか、これはもはや、デレデレしてるとかいう次元を越えちゃってるでしょ………………イライライライラ」
「…………………ごめんね、霜月さん。私の負けだよ」
ん?今、何やら不穏なやり取りが聞こえたよう……………なっ!?
「い、痛い!!な、な、長月さんっ!?一体何をして……………」
「霜月さんの気持ちが良く分かったよ」
チラッと視線を下へ向けると優梨奈を助ける為に踏ん張って伸びた俺の左足を長月が何の容赦もなく、踏みつけていた。そして、視線を上へと上げるとそこには今まで見たこともない顔をした長月が仁王立ちでこちらを見ていたのだった。




