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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第七十九話:テーマパーク

本日は清々しい程に晴天なり。それによって道行く人々も心なしか、その多くが笑顔で歩いているような気さえする。そんな中、俺達はというと現在、蒼最市最大のテーマパークに来ていた。そこは出来てから、約十年程が経っていること、さらには開演直後ということも相まって、そこまで混んでいるという訳ではなかった。その為、横ではしゃぐクレアちゃんが体験してみたいアトラクションに乗れるのもすぐというものだろう。


「今、サラッと馬鹿にしてなかったかしら?」


「ちょっ、お前!心を読むのは反則だろ!」


「ってことは認めるのね?」


「……………クレアちゃん。あそこでポップコーンが買えるみたいだよ」


「何よ、その呼び方!それとまだお腹空いてないわよ!」


と言いつつ、何故か視線はポップコーンをロックオン。


「とりあえず、一回どれか乗ってから考えるか」


「だから、私は別にお腹なんて空いてないって言って……………」


「え?独り言だけど」


「〜〜〜っ!!もう、知らない!!」


あらあら。拗ねちゃったよ。


「……………あっ!あの着ぐるみ、可愛い!何のキャラクターかしら?」


と思ったら、速攻機嫌直ったよ。本当、こういうところに来ると急に子供っぽくなるよなクレア。まぁ、初めてのことだらけだから、仕方ないか。









「きゃっ〜〜〜〜!!」


「うおっ〜〜〜!!!」


二十分後。俺達の姿はというと、なんと上空約10メートルのところにあった。それはとんでもない急降下を果たすアトラクションとして、パーク内では一番有名なジェットコースターだった。何故、クレアさんはこれを最初に選んだのでしょうか?こういうのは徐々にギアを上げていくもんではないんでしょうか?まだ朝の10時ですよ?


「きゃっ〜〜〜!!……………あれ?もしかしたら、めちゃくちゃ楽しいかもしれないわ」


「う、嘘だろ〜〜〜こういうの得意なのか〜〜〜〜?」


本当、何でこれを最初に選んだのでしょう。ってか、何で俺達はビブラート気味に会話をしているのでしょう………………答えはそう。ジェットコースターに乗りながら会話をしているからです、はい。


「みたいね。あ〜〜〜!!楽しいわ〜〜〜!!」


余裕そうですね。俺は恐怖で一杯ですよ。今乗っているからっていうのももちろんあるけど、この後また乗りたいとか言い出さないか……………そっちの方が怖いんですけど。


「ねぇ、拓也。この後もう一回……………」








「これは何?」


「クレア!ほら、ポップコーンあるよ!」


「露骨に話題を逸らさないでちょうだい。しかもポップコーンなら、さっき買ってくれたじゃない」


「あ〜そうでした………………で?何?」


「だから、これは何?」


「これは………………お化け屋敷だね」


「へ〜」


「まさか、行きたいとか言わないよね?」


「え?駄目なの?」


「あの〜さっき、しこたまアトラクションで怖い思いしたんだよ?それなのにまだ怖い思いするの?」


「私は別に怖い思いしてないわよ?あと、これは怖さのジャンルが違うじゃない」


「いや、あの物語の構成上、お化け屋敷はもう少し後の方が……………」


「物語?」


「うん。俺とクレアの」


「へぇ〜……………拓也って意外とロマンチストなのね」


「そ、そうなんだよ!だから、ここはもうちょっと後に取っておこうって言いたくてさ」


「そうね。拓也の言うことにも一理あるわね」


「だろ?いや〜分かってくれて良かったよ。相変わらず、できる女の子だなクレアは!」


「お褒めに預かり、光栄よ……………じゃあ、行きましょうか」


「うん!……………ってあれ?どこに向かってんだ?」


「え?お化け屋敷だけど」


「ん?あれ?一体どこで話が食い違ってん……………ちょっ、クレア!おい、待ってくれ!!何故、そんなに張り切ってんだ!!」








「いい眺めね」


「ああ」


あの後、色々とアトラクションを楽しんだ俺達。今はようやく落ち着いて、観覧車に乗りながら上からの景色を見て楽しんでいた。


「「……………」」


落ちていく夕日を背にクレアが少し遠い目をする。今、目の前に座る彼女は一体何を考え、そんな表情をするのだろうか……………クレアは霜月家という大層な家柄に生まれ、幼少期からおよそ普通の人が経験しないであろう道のりを通ってきた。そこには少なからず、両親や周りからの重圧があったはずだ。しかし、そんな中でも彼女は一切めげることなく、自分なりの道を模索して頑張ってきた。それはどんなに辛く苦しかったことだろうか………………きっと俺なんかには想像し得ないものなのだろう。


「……………」


この沈黙の時間は全く苦ではない。そればかりか、どこか心地良い気さえした。なんせ彼女が黙っている時、同時に俺も黙りさえすれば、合法的に静かな彼女を見つめることができる。そうすれば、彼女がもし過去に想いを馳せていたとしたら、俺もそれを追って手が届くかもしれないからだ。手が届いたからといって、俺に何ができるかは分からない。しかし、彼女が辛く苦しい道のりを歩いてきた先にいたのが俺であるのは間違いないのだ………………自意識過剰か?いや、少なくとも俺はそう思っているし、思い込むこと自体が大切である。俺は常に彼女の……………クレアの道標でいたいと思っているんだ。こうしている今でさえ……………


「っ!?」


「きゃっ!?」


とか、そんなことを考えていた時、突然風かなんかで観覧車が大きく揺れ動いたかと思うと緊急停止をし、それに対して内部に備え付けられたスピーカーからアナウンスが流れ始めた。


「本日は当テーマパークにお越し頂き、誠にありがとうございます。ただ今、風の影響で強い揺れが生じた為、観覧車は一時停止しております。ご来場のお客様には大変ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ございません。復旧まで今しばらくお待ち下さいませ……………繰り返します」


「だ、大丈夫か?」


「え、ええ」


こ、これは非常にまずい。揺れによって、こっちに倒れ込んできたクレアを受け止めた俺。無事を確認したのも束の間、状況をしっかりと把握してしまったことで今、俺達がとんでもない体勢になっていることに気が付いてしまった。


「「……………」」


なんと、目の前にクレアの顔があったのだ。それは普段、一緒に過ごしていても絶対に近付くことのない至近距離。少し顔を動かしてしまえば、唇が触れ合ってしまう程の距離だった。しかも問題はこれだけではない。こっちに倒れ込んできたのを受け止めたということはすなわち、そういう体勢になるのは必然で……………そう。俺達は周りから見れば、正面から抱き合っているような状態となってしまっていたのだ。


「拓也……………」


クレア!何故、そこで顔を赤くして、色っぽい声を出すんだ!そして、それ以上にさっき、道標とか言っていた自分に嫌気が差す。何が道標だ!カッコつけるな!結局、お前はクレアと同じ目線と歩幅で歩いていきたいんじゃないか!俺は頭が沸騰しそうになるのと同時にそんなことも考えていた。


「ク、クレア……………」


これ以上は本当にまずい。俺はクラクラする頭にどうにか喝を入れて、クレアを引き剥がそうとする。しかし……………


「急に動いたら、危ないわ」


そう言って、クレアはより一層強くしがみついてきた。ってか、耳元で囁くな!ゾワっとするわ!もちろん、嬉しいって意味で!……………って、嬉しがってどうする!


「いや、でも……………」


それでも俺はどうにかクレアを遠ざけようとするが、彼女は逆に力を強くしてしがみついてくる……………どころか!あろうことか、顔も段々と近付けてきたではないか……………おいおい。いよいよ、これ以上は本当にまずいぞ。


「拓也、私あなたのこと……………」


「っ!?」


俺もクレアも通常では起き得ないこの状況に遂に平静さを保てなくなる……………直前、またまた突然アナウンスが流れた。


「本日は当テーマパークを……………」


「「っ!?」」


それによって、俺達はまるで弾かれたようにお互いが元いた場所へと戻った………………危なかった。あのまま、流れに身を任せていたら、一体どうなっていたのか。


「「……………」」


その後は観覧車が地上へ着くまでお互い、ひたすら無言で過ごした。後にも先にもこんな気まずさを感じることはないだろう。こうして、俺達の初めてのテーマパークはある意味、記憶に残るものとなったのだった。








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