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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第七十二話:焼きいも

その日はみんなで神無月邸にお邪魔していた。その理由はただ一つ。


「広いな〜」


「ここが神無月の実家か」


「凄いね〜」


「本当にお庭をお借りしていいんですか?」


そう。ここの庭を使って"焼きいも"をする為だ。焼きいもとはいってもただ、スーパーなどで既に出来ているものを買ってきて食べる訳ではない。普通のさつまいもを買ってきて、ここで焼いて食べるのだ。これは先日、商店街を歩いていた時にたまたま通りかかった焼きいもの移動販売車から焼きいものあの歌が聞こえてきたと俺が話したところ、是非みんなでやろうということになったのである。その際、本格的にやってみようということで落ち葉などを集めて、そこでさつまいもを焼くこととなった。


「うん。僕もやってみたかったしね。うわ〜楽しみだ」


みんなも思い思いにテンションが上がっている。しかし、そんな中、ただ一人浮かない顔をしている者がいた。


「優梨奈、こっちに来いよ」


「……………はい」


いや、浮かないというよりもどんな顔をしていいのか分からないといったところか………………まぁ、無理もない。聞くところによると神無月が優梨奈に告白してから、今日に至るまで二人は一度も顔を合わせていないらしいのだ………………そして、二人は随分と久しぶりにこうして再会を果たしたという訳だ。そりゃ、気まずいはずだ。


「葉月さん…………」


「……………」


現に神無月の方もどうしたらいいのかという顔をしている………………はぁ。仕方ない。


「おい!神無月!優梨奈!」


「「っ!?」」


突然、俺に呼ばれたことでびっくりする二人。ところが、どっこい!びっくりするのはまだ早いぞ!


「今からみんなで勝負するぞ!誰が一番美味い焼きいもを作れるかで!」


「「「「えっ!?」」」」


これには他のメンバーもびっくり。そりゃ、そうだ。今、やるって決めたからな。


「最下位は罰ゲームな!ちなみに罰ゲームの内容は……………まぁ、いい。後で考えよう」


「……………一位は?」


「まぁ、それも後で」


「随分とアバウトだね」


「それが俺だろ?」


「はははっ!そうだね」


「おい!納得するなよ!」


ここで軽く笑いが起きる。やっぱり、みんなでいる時はこうでなくちゃな……………この後、俺達は各々いもを焼いていった。






             ★





「美味いな〜」


「そうね。でも、残念ながら私のが一番よ」


「誰も俺のが一番とは言ってねぇよ」


「霜月さん?一位を取りたいからって嘘は良くないよ?」


「あら、長月さん。じゃあ、誰が一位なのかしら?」


「そんなの……………私以外、いる?」


「溜めた割には予想通りの答えね。つまらないわ」


「霜月さんの負けず嫌いも相当、うざいけどね」


「「……………」」


「お、おい二人とも。もう劇は終わってるんだぞ」


みんなで焼きいもを分け合って食べながら、俺達は味の品評会みたいなことをしていた。ちなみにここまでで神無月と優梨奈は仲直り……………というか、以前のように普通に接することができるようになり、それぞれがリラックスした状態で過ごしていた。やっぱり、友達の絆っていうものはそんな簡単に壊れたりはしないのだ。本人達が気まずくなったと思ってもいざ、話してみるとすんなりと前のような状態に戻れるのがよい証拠だ。


「優梨奈、こっちのも美味しいよ!」


「えっ!?どれどれ……………あ、美味しい!」


「でしょ?」


「じゃあ、桃香。今度はクレア先輩のを食べてみなって!」


「えっ!?…………い、いいよ別に」


ほら、今も一年生組が仲良く焼きいもを頬張ってるよ。こんな優しい世界ある?


「何で?今までだったら、私が言わなくても行ってたじゃん」


「えっ、う、うん……………それはそうだけど」


「クレア先輩とそういう関係になりたいんじゃないの?……………ボソッ」


「……………」


あ〜焼きいも、美味〜……………みんなで食べれて幸せだ〜


「ほら、行きなって!」


「っ!?」


さて、そろそろ次の……………と俺が思った瞬間だった。突然、皐月の大きな声が聞こえたのは。


「何度も同じことを言わないでよ!別にいいって言ってるでしょ!」


そこには怒った表情の皐月が優梨奈を強く見据えて立っていた……………と同時にそこに十月の冷たい風が吹く。それはまるで今までの平和な空気とみんなで食べる焼きいもの味をどこかへと攫っていってしまうかのようだった。








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