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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第七十一話:屋内プール

蒼最市最大の屋内プール施設……………その名も「水の楽園(ウォーター・ヘブン)」。"およそ日本中に存在する屋内プールのアトラクションを全て詰め込みます!"をテーマに数年前、オープンしたばかりで休日になると未だに家族連れが多く訪れる場所である。そんな場所のプールサイドにて、俺はある者を待っていた。


「何気に二人きりってほぼない?……………いや、初めてか?」


俺はそこでつい数日前のことを思い出していた。







            ★





「どうしたんだ、こんなところに」


俺は放課後、教室にやってきた優梨奈によって屋上付近の階段に連れていかれた。あまりに突然のことに驚きはしたものの、何か真剣な話があるんだろうなと優梨奈の表情を見て察した。


「あの…………これ、知り合いからもらったんですけど、良かったら一緒に行きませんか?」


意を決して告げられた言葉は俺が想像しているようなものではなかった。だから、だろう。優梨奈が見せてきた屋内プールのペアチケットに対して俺はこの時、"何だ、そんなことか"と内心ホッとしていた。


「いいぞ。いつにする?」


「えっ〜と……………今度の祝日とかどうですか?」


「そうだな。その日なら、人もそんなにいなさそうだし」


今度の祝日とはこの学園の創立記念日だった。


「じゃあ、それで決まりで!!」


「待ち合わせ場所や時間は追って連絡するわ」


「はい!!……………うわぁ〜楽しみだなー」


「ははっ。優梨奈は子供だな」


「それ、どういう意味ですか!!」


「だって、屋内プールとか遊園地ではしゃぐのってそういうイメージがあるから」


「た、確かに子供はそうですけど……………私の場合は拓也先輩と二人きりで行けるからっていう理由で……………ブツブツ」


「ん?」


「な、何でもありません!…………じゃあ、そういうことで!」


そのまま優梨奈は慌てて、階段を駆け降りていった………………大丈夫か、あいつ?






            ★






「お待たせ致しました!!」


俺が優梨奈とのやり取りを思い出していると元気な声が聞こえた為、ハッと我に返り目の前を見た。


「すみません。お時間掛かっちゃって」


そこにいたのは夏休みの時にクレアの持つプライベートビーチで見たのと同じ水着を身に付けた天使だった。


「……………ここは天国か?」


「へ?確かに名前にもヘブンって入ってますが……………どうかしましたか?」


「い、いや!何でもない!……………それじゃ行くか!」


「はい!!」







「拓也先輩!まずは流れるプールに行きましょう!」


「ん?いいけど」


「いいですか?……………こ〜うやって〜まずは流れに身を任せることで〜」


「うわ〜いいなぁ〜これ……………で?流れに身を任せることで?」


「自然と流れていきます」


「そりゃそうだろ!」


「焦りは禁物ですよ?これは準備体操も兼ねているんですから!まだまだ私達にはウォータースライダーは早いです!!」


「うん。後でちゃんと準備体操しような?」


「……………はい」








「拓也先輩!次はいよいよウォータースライダーです!」


「お、もうか」


「何を言ってるんですか!準備体操、恥ずかしかったんですからね!!」


「確かに……………優梨奈のは独特だったな」


「ゴホンッ!さて、ここで問題です!ウォータースライダーを行うにあたって最も気にしなければならないポイントは何でしょう?」


「ん?う〜ん………………待ち時間?それともどんな態勢で滑るのか……………あっ!夢中になると時間を食うから、少ない回数でどれだけ楽しめるか、だ!!」


「ブブッー!どれも不正解です!」


「えっ!?まじか……………結構いいセンいってたと思ったんだけどな」


「正解は"二人同時に滑るのか、それとも一人ずつ滑るのか"です!」


「なんだ、それ!一人でいる時にも当てはまるものかと思ってたぞ」


「そんなことは一言も言ってません」


「くそっ!なんか、ムカつくな」


「だって……………私達は今、二人きりですよ?」


「っ!?」


少し顔を赤くしながら上目遣いで俺を見る優梨奈。それに対して、俺の心臓は早鐘を打っていた。おい、相手は優梨奈だぞ!


「さ、さて!監視員さんに二人同時に滑ってもいいのか訊いてきますか」


「お、おお!そ、そうだな!」








「どんどんいきますよ!次は温水プールです!一回強めのアトラクションいって、こうして緩いのを挟むのがミソなんです!!」


「そ、そうだな〜」


やばい。さっきのウォータースライダー……………密着度合いが凄すぎて、何も頭に入ってこなかった。優梨奈……………お前のポテンシャルはやはり凄かったよ。


「どうしました?」


「いや、さっきのウォータースライダーの余韻がね」


「ああ。あれ、楽しかったですね!二人同時でも滑れましたし」


「うん。凄かったね、とにかく」


「うん?そうですね。じゃあ、温水プールに行きましょうか」


こうして俺達は優梨奈が先導する形で次々とアトラクションやらなんやらを楽しんでいった。俺の印象に残ったのでいうとやはりウォータースライダーと………………売店で買った焼きそばが美味かったことか。こういうところで食べるとまた一段と美味く感じるんだよな。








「もうこんな時間ですか」


「そうだな」


「楽しい時間が過ぎるのはあっという間ですね」


「ああ」


「……………私が今日の遊びをお誘いしたのって純粋に拓也先輩と楽しみたかったからっていうのもあるんですけど……………実は他にも理由があるんです」


プールからの帰り。電車に乗りながらとりとめのない会話をしていると優梨奈がいきなり、そんなことを言い始めた。


「他にも?」


「はい。桃香から聞いていると思いますけど……………私、文化祭の二日目から学園に行ってなくて、つい二週間前に復帰登校を果たしたじゃないですか」


「ああ」


「あれ、体調が悪かったからじゃないんです。それを言いたくて今日、先輩と出掛けたんです」


「……………えっ!?」


「すみません。学園では言いづらくて…………」


「いや、いいけど……………でも、体調が理由じゃない?じゃあ、何で?」


「……………このことは本人から話しても構わないと了承を得ているんで言いますけど……………私、文化祭一日目に神無月先輩に告白されているんです」


「……………は!?」


「それで断ってしまって………………家に帰ってから、そのことを考える度に神無月先輩のあの表情が思い起こされて……………辛くて悲しくて胸が苦しくて」


「……………」


「次の日、起きてみたら学園に行くのが怖くなってしまったんです。あのストーカーの件もそうですけど、私が関わると誰かを傷付けてしまうんじゃないかと……………あと、神無月先輩の姿を見るのも辛かったですし」


「それで休んでいたのか」


「はい」


「こんなことを言ったら、無神経かもしれないが……………休んでいる間、大丈夫だったのか?」


「辛くなかったというのは嘘になりますが、頭の中で先輩達と夏休みで一緒に過ごしたことなんかを思い出してました。そしたら、胸が温かくなって……………私が学園に再び通えるようになったのもそのおかげなんです」


「そうか。気付いてあげられなくて、ごめん。とにかく、優梨奈に怪我とかが何もなくて良かったよ」


「……………拓也先輩」


「ん?」


「私、中でも拓也先輩とのことを思い出していると一番元気が出たんです。拓也先輩はいつも私を気にかけてくれて、楽しませてくれました。そんな先輩だから、こうして今日という日も一緒に過ごしたいと思ったんです」


「優梨奈?」


なんだか、優梨奈の雰囲気が変わった気がしたが……………何なんだ?


「神無月先輩も……………長月先輩だって、あんなに勇気を振り絞って行動に移したんです!私もそれに勇気を貰いました……………先輩、これから私が言うことをよく聞いて下さい」


「あ、ああ」


何だ?一体何を言われるんだ?


「……………拓也先輩」


「はい」


思わず、姿勢を正してしまった。何だ、この緊張感は。


「私は拓也先輩、あなたのことが………………」


"プルルルルルッ"


「うおっ!?」


「っ!?」


静寂な電車内に突如、鳴り響く着信音。見ると、それは俺の携帯であり、相手はクレアだった。びっくりした!良かった〜俺達以外、他に乗客がいなくて!うん。これからはちゃんとマナーモードにしておこう。


「っと!悪い!優梨奈、何だって?」


「出てあげて下さい。今、ちょうど他に人いませんし」


「え、でも」


そして、このタイミングで電車は駅へと辿り着く。そこはちょうど優梨奈の降りる駅だった。プシューという空気が抜けるような音を立てて扉が開き、中から溜まった空気が外へと押し出される。代わりに外からは少し冷たい空気が入ってきた。


「拓也先輩……………それじゃあ、また明日学園で」


「えっ!?ちょっ、待」


優梨奈が少し悲しそうな顔でそう言い、俺の制止も聞かず足早に外へと出ていく。相変わらず、乗客は俺以外にはおらず、新たに誰かが入ってくることもなかった。そのまま、しばらく待って、ようやく扉が閉まり、電車は発車した。もう十月も後半。俺は通話ボタンを押しっぱなしにしていた携帯を耳に当ててみた。すると、直後に耳をつんざくような声が聞こえ、俺は後悔するハメになるのだった。







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