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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第六十九話:噂

"人の噂も七十五日"とはよく言ったもので俺とクレアの噂はすぐにされなくなった。まぁ、実際は一週間ぐらいしかされてなかったのだが。そして、記念すべきことに噂が終わったそのタイミングで優梨奈が復帰登校を果たしたのだ。皐月が担任の先生から聞いたところによると慣れない文化祭に力を出しすぎて体調を崩した為、しばらく休んでいたそうだ。それを聞いた皐月はホッとしていた。その際、あんまり無理はしないで欲しいと彼女は言っていた。俺もそれには同感だった。


「私のいない間に何かありました?」


「っ!?な、何故そう思う?」


久しぶりの三人での昼食時、優梨奈がそんなことを言い出した。くそっ!優梨奈にはちょうど都合良くあの劇も見られてなかったし、噂も知らないとタカを括っていた。まずい。あれを知られる訳には……………


「あったわよ」


おい、クレア!


「進路調査票の提出」


「進路調査……………もう、するんですか。わ〜私も来年はするんですよね」


って、進路調査か!危ない。危うく、自爆するところだった。


「進路調査といえば……………珍しく長月が師走先生から何か言われてたな」







            ★





「長月さん。私は別に早く提出して欲しいって言ってる訳じゃないのよ?期限だって、まだあるし」


「はい。知っています」


「じゃあ何故、"進路希望"のところを空欄で出したの?」


「……………」


「先生の見込み違いかしら?最近、とてもいい表情をするようになったって、この間話したばかりなのにね」


「……………」


「とりあえず何か書いておくか、ギリギリまで悩んで思い付いたものを書くでもいいのよ?別にこれが最終案ってことじゃないから」


「その辺にしといた方がいいんじゃないですか?」


「…………睦月くん」


「長月にもおそらく色々あるんですよ………………よくは知らないけど」


「あなたは他人のことを言えた立場じゃないでしょ?"進路希望"の欄に"どっか"なんて書く人は見たことないわよ」


「だって、進学するにしろ就職するにしろ、必ずどっかには行くじゃないですか」


「はぁ…………その言い分はこちらの目的を分かってないってことでいいわよね?」


「分かりません!僕も睦月も!」


「え〜…………今度は神無月くん?やばい。頭痛くなってきた。よりにもよって、何でうちのクラスを代表する秀才達がこんなことに……………」


「……………私は」


「はい、長月さん。どうぞ」


「私はまだ、自分の将来について何も決めていなくて……………先生はああ言ってくれましたけど、やっぱり不安で。この先、自分は一体どうなっていくのか、考えないようにみんなで過ごす楽しい毎日に逃げていました…………小さな頃は怖いもの知らずで将来の夢とか沢山言っていたような気がしますけど、ある程度歳を重ねると世の中を知っていって怖くなってしまって」


「あ〜………私も君らぐらいの年齢の頃はそう考えた時もあったかもしれないわね。でも、はっきり言わせてもらうけど……………たかだか十年そこら生きたくらいで世の中語んなって話」


「っ!?」


「先生!流石に今の言い方は!」


「神無月、加勢するぜ!」


「あ〜はいはい。加勢しなくていいから。じゃあ、聞くけど、長月さん。あなたは一体世の中の何を知ったの?」


「えっ!?……………いや、それは」


「どう?はっきりと答えられる?」


「………………」


「"おそらく"とか、"なんとなく"しか頭の中になかったでしょ?まぁ、別に責めやしないわ。君らぐらいの年齢の子はそんなものだから。そこに成績の良し悪しなんて関係ない。それはその子自身の問題だから。そう考える子もいるし、そう考えない子もいるってだけの話。それにそう考えた子がいたとしても私は怒りはしないわ」


「へ?」


「な、何だ」


「先生って意外といいこと」


「私にとってはどうでもいいから」


「「「……………」」」


「冷たい言い方をするようだけれど、自分の人生なんて結局、自分が決めて責任取るしかないのよ。泣いて叫んだって誰かが代わってくれる訳でもない。私には私の人生があるし、君達には君達の人生がある。どう?これで合計四つの人生……………これでもまだ、世の中を知ったって言い張れる?」


「「「……………」」」


「私は綺麗事を言う気がない。きっと私以外の教師陣は親身になって相談に乗ってくれるわ。でも、それは彼らの人生に余裕があるか、それが仕事だから。ごく稀に自分の生活時間を削ってまで本当にその生徒のことを考えて相談に乗ってくれる教師もいるにはいるわ。でも、そんなのは例外中の例外。大概はその日つまむアテのことか、もしくは異性のことでも考えながら、相談に乗ってるの」


「……………じゃあ、先生は」


「ん?」


「そこまで言っておいて、どうして教師になったんですか!」


長月が机を強く叩いた為、その音によって彼女達は教室中から注目を浴びた。


「なりたかったから。ただ、それだけよ」


「なり、たかった…………?」


「ええ。勘違いしないで欲しいのは私は教師になりたかったのであって、別に進路調査の相談に乗りたかった訳じゃないってこと」


「えっ…………それって、どういう」


「いずれ、分かるわ」


「はぁ」


「私はただ教師になりたかったから、なった。それだけ。それ以上でもそれ以下でもない。あなた達はまだまだ、これからよ。だから、どうか世の中を知った気にならないで……………それって、凄くもったいないことだから」


師走柚葉のその言葉が果たして届いたのか、そうでないのか……………三人はただ神妙な表情をするだけだった。








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