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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第六十七話:ロミオとジュリエット3/キャンプファイヤー

「白紙に……………?」


「ええ」


「そ、そうか…………」


私がそう答えると拓也はかなり戸惑った様子で頷いた。


「まぁ、とはいっても私は詳しい経緯についてはよく知らないのだけれど」


「ん?」


「数日前にいきなり知らされたのよ。やっぱり今回の婚約はなしになったからって」


「なんだ、それ。随分と自分勝手な話だな」


「「ぐさっ!?」」


拓也の言葉に客席の後方で約二名程が反応した…………あれ、やっぱりあの人達来てたのね。


「でも、そうか。婚約はなしになったのか…………」


「……………安心した?」


「なっ!?お、俺は別に」


「うふふ」


拓也は少し顔を赤くしながらもホッとしたような様子を見せた。拓也、可愛いわね。私はその姿を見るだけで胸が熱くなる……………いや、実際彼が話し始めてから、ずっと私は胸がドキドキして仕方ないのだけれども。


「あの時の神無月の台詞はそういうことだったのか…………ボソッ」


「うん?」


「いや……………でも、あれだな?なんか、俺すごい恥ずかしい奴だな」


「え?」


「だって、そうだろ?もう解決しているにも関わらず、あんな感情剥き出しで………………あぁ、穴があったら入りたい。結局、俺のやったことなんて何の意味も…………」


「そんなことないわ!!」


「っ!?」


私は強い口調でそう言った。拓也は一瞬、それに驚いて思わず、私を凝視してきた。


「私は拓也があそこまで私の為に感情を剥き出しにして、言ってくれたこと自体が嬉しかった。そこに私の問題が解決しているかどうかなんて関係ない。あなたが私の為にそこまでしてくれたっていうことが重要なの」


「クレア……………」


「それにこれであの人達も拓也の良さが分かり、婚約を白紙にしたことにようやく納得してくれるはずよ」


「あの人達………………?」


「……………それはそうと、拓也」


「ん?」


「今はまだ、あなたの気持ちを聞けなくていい…………ううん、違うわね。私にはただ、聞く勇気がないだけ。婚約という話が出た時、私は思わず将来を想像してしまった。そうしたら、凄く怖くなったの。霜月の人間として生きていくとなると家の重荷を背負っていくことになる。私にはそれが嫌だったから…………でも、それは以前の話で今は違う。婚約が白紙になったことで私は将来、きっと霜月家の人間としてではなく、ただの霜月クレアとして生きていくことになる………………私にとってはそれもまた、たまらなく怖いの。私は所詮、霜月という狭い世界しか知らない。あなたは沢山、色々なことを教えてくれたけど、私にとってはまだまだ足りない。だから……………」


私はそこで一旦深呼吸をすると、こう言葉を続けた。


「私の覚悟が決まったその時……………あなたの気持ちを聞かせて下さい。それまでその言葉はまだあなたに預けておきます。今の私にあなたのその言葉を受ける資格はないから」


私がそう言うと拓也は目を大きく見開き、少しの間、唇をプルプル震わせたかと思うと短い言葉でこう言った。


「やっぱり、お前は最高だぜ!霜月クレア!」


「っ!?」


私は拓也のその笑顔と言葉に今までで一番顔が熱くなるのを感じ、思わず下を向いてしまった………………と、次の瞬間、こうナレーションが入った。


「二人はとうとうお互いの間にあった壁を取り払い、見事に通じ合った。すると、ここでロミオが驚きの行動に出た!なんと、衆人環視の中、ジュリエットの手を取って舞踏会を抜け出したではないか!どうなる、ロミオ!?どうなる、ジュリエット!?」


「「へ?」」


私と拓也は突然のことに呆然と立ち尽くしてしまった。すると、今度は客席から声が……………いや、ヤジが飛んできた。


「早く連れてけ!」


「そうよ!彼女の為を思うならば、早く!!」


「あんたが見たいだけでしょ!」


「だって、まさか、こんなの現実で見れるとは思わないじゃない!!」


「これが学生の演劇だと!?」


「厄介な家族達は俺達が押さえておくから!!」


「いや、だから婚約はなしになったんだって」


好き勝手な言いようだった。そして、ここで再びナレーショ…ンが。


「早く行けよ!拓也、お前男だろ!!俺の知ってるお前はこんなところでグズグスしてねぇぞ!!」


「圭太っ!!」


むっ……………睦月圭太。彼は…………彼だけは拓也にとって、なんか特別なのよね。なんだか凄いむかつくわ。


「お、おい拓也!!は、早くしてくれ!!お前の嫁さん、俺に凄い視線向けてきてるから!!」


「よ、嫁さん!?」


「分かった!!サンキューな圭太!!この借りはいずれ、させてもらうぜ!!」


「期待せずに待っとくよ」


「お嫁さん…………お嫁さん……………私が拓也の」


「ほら、クレア!行くぞ!!」


「私達はまだ、そんな関係じゃなくて…………ブツブツ」


頭が沸騰している私の手を取って、拓也が駆けていく。あぁ、なんて頼もしい背中なのかしら……………






            ★






「行っちゃったね」


「……………ああ」


興奮冷めやらぬ客席を尻目に舞台裏で長月が声を掛けてくる。暗くて、分かりづらいが彼女の目は……………いや、やめておこう。


「良かったの?」


「は?」


「いや、睦月くん的にこれで良かったのかなって」


「いいも悪いもないだろ。告白は肝心なところで止められたが、あいつらの気持ちが一緒だということはこの場にいる全員が分かったはずだ。大事なことはたった一つ…………お互いをどう思っているかだ」


「でも、それじゃあなたが可哀想すぎる。あまりにも浮かばれないよ」


「……………自分の気持ちを俺のとして言うな」


「違うよ。確かに私は深く傷付き、苦しんだ……………ううん。もしかしたら、私は過去形にしたいだけなのかもしれない。現に今もここが苦しいから」


そう言って胸を押さえる長月。世界中に彼女をこんな表情にできる人間がどれほどいるのだろうか……………失礼ながら、自分が冷静になれるよう彼女を利用して、そんなことを考えていた。


「だけど、あなたは私なんかよりももっと苦しそうだよ!!」


「は?俺が?一体どうして?」


「こんだけ暗くても分かる……………あなた、今の自分がどんな顔してるか、分かってないでしょ」


「分からないな。後で鏡でも見るさ」


おどけた態度で話す俺を今度はキッと睨む長月。俺、何かしたか?


「もう勝負はついてるとか、俺なんかがとか…………色々と言い訳して、逃げないでよ!!そんなことをすれば、後できっと後悔するよ!!」


「……………しないよ」


「本当に?ちゃんと自分の気持ちを伝えなくても?」


「ああ。だって……………」


「っ!?」


俺はその後、笑ってこう言ったはずだ。


「あいつの幸せが俺の幸せだから」


だから、何故長月がより胸を強く押さえてそんな辛そうな表情をするのか、分からなかった………………あれ?おかしいな?何で視界が滲むんだ?…………つーか、身体が揺れてんな?誰かが騒いでて、校舎が揺れてんのか?……………いや、そんなことでこの学園が揺れるはずねぇか………………あぁ、そうか。これは俺自身が……………






            ★






「雰囲気、あるな」


「ええ…………とっても」


俺達は寄り添いながら揺らめく炎を見て、そう言い合った。現在、夜の七時。文化祭は全体を通して大成功で幕を閉じ、そのテンションのまま、校庭では有志によるキャンプファイヤーが催されていた。規則正しく組まれた薪がこの闇の中で唯一の光源となる炎を囲み、パチパチという心地良い音と共にこの夜を美しく彩っていた。


「それにしても驚いたわ。拓也があんなに大胆だったなんて」


「そうか?俺があんななのは今に始まったことじゃないだろ」


俺達はあの後、教室を飛び出して最終日の文化祭をこれでもかと楽しんだ。その際、実行委員に空いた穴は突然現れたとある二人の美少女により、無事埋まったんだとか……………あいつらにも借りができちまった。今度、埋め合わせしないとな。


「そうだったわ。忘れてた……………何でかしら?」


「俺達の周りがキャラの濃い奴ばかりだからだろ」


「それは……………そうね。私も幾度か、不安になったもの。私、埋もれてしまわないかしらって」


「お、お前は大丈夫だろ……………その、俺にとってはあん中でお前が一番輝いて見えるっつーか」


「っ!?な、何言ってんのよ……………そ、そんなあなたの主観的な見解なんて」


「役に立たないか?」


「いいえ!大助かりよ!!むしろ、そこが一番重要だもの!!」


「いや、真っ赤な顔でそんな力説されても」


「っ!?と、とにかく!あなたは何も考えず、私のことだけ考えていれば、いいのよ」


「いや、それ何も考えてないってことにならないし。つーか、実質それって告白じゃね?」


「っ!?うるさい!!」


全然痛くない駄々っ子パンチだ………………やばい。クレア、めちゃくちゃ可愛い。


「おっ、音楽が鳴ってるな……………俺達も行くか?」


そうこうしているとキャンプファイヤーでは定番のオクラホマミキサーが流れ始め、近くにいた生徒達が一斉に踊り出した。


「つーん」


しかし、クレアは未だ機嫌が治らず、俺の提案に耳を貸さなかった。……………というか、これはただ構って欲しいだけだな。ならば、こちらも手法を変えるか。


「美しいジュリエットよ。どうか、この私めに一曲付き合ってはもらえないだろうか?」


黒歴史と言う勿れ。後で思い出したら、床の上で転げ回り、壁を数十回は叩いてようやく収まるほど恥ずかしいことをしている自覚はある。ただし、俺にとっての最優先事項はクレアただ一人。俺は今、この不機嫌な顔をしたお姫様と一緒に踊りたいのだ!


「っ!?そ、そんなにあなたがど〜〜〜うしてもと言うのならば、仕方ないわね。本当に不本意なのだけれども!!」


「おぉ!ありがたき幸せ!!神にこの幸運を感謝します!!」


「神になんか感謝しないで!!私にしなさいよ!!」


「…………凄いですね、あなた。神にまで嫉妬するなんて」


「うるさいわね。素に戻らないでよ」


「………………」


「し、しょうがないじゃない!私だって、自分の変化に戸惑ってるんだから!!だ、だから!その微笑ましい顔はやめなさい!!」


「やばいよな?これで付き合ってないんだぜ?」


「一体誰に言ってるのよ!!そ、それに付き合うとか…………あの…………そういうのは……………ブツブツ」


「まぁ、とにかくさ」


ここで俺は痺れを切らし、クレアの手を掴んで駆け出した。


「あっ!!」


「俺達も踊ろうぜ!!」


絶対にこの手を離さない…………心の中でそう誓いながら。










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