第六十一話:ロミオとジュリエット
「ああ、ロミオ…………どうしてあなたはロミオなの?」
「ああ、ジュリエット……………どうして君はジュリエットなんだ?」
文化祭の準備に追われ、毎日がとても早く過ぎていく。現在、文化祭まであと一週間というところまできていた。準備や文化祭に関係する物事などは滞りなく進み、今の所、大したトラブルも起きてはいなかった。しかし、油断は禁物。なんといっても大事なのは本番。そこまで決して気を抜くことはできないのだ………………まぁ、俺達準備委員は本番が来たら、お役御免で後は実行委員が何とかするんだろうが。
「うわぁ〜」
「本当、凄いよね」
「流石だな〜」
そして、もう一つ気にしなければならないのが我がクラスの出し物である劇。演目は"ロミオとジュリエット"に決まり、ロミオ役を長月が、そしてジュリエット役をクレアがやることとなった。台本は元々ある"ロミオとジュリエット"を少しアレンジしたものでシチュエーションや台詞などが所々、変わっているだけで後はほぼほぼ原作に忠実であった。ここ数週間、毎日のように練習する二人を見てきた。そして、急激な速度で演技を物にする二人に俺は尊敬の念と共に何故だか、胸に熱いものが込み上げてくるのを感じていた。とはいえ、本番はまだ。それを迎えてもいないのに今の段階でこれでは先が思いやられる…………と俺は自分自身に呆れ返っていた。
「「どう?」」
練習が終わり、真っ先に俺のところまで駆けてきて感想を求める二人。おいおい、そんなことをしたら、クラス中の視線が……………まぁ、いいか。にしても、この健気な感じは可愛いな、くそっ!!
「うん。とても良かった!よく頑張ったな二人共!!」
「ちょっと。まだ本番は迎えてないわよ?」
「あはは。おっちょこちょいだね如月くん」
く、くそっ!?思わず、胸に込み上げてきたものをそのまま出しちまった!!は、恥ずかしい〜!一人だけ、どんなテンションでいるんだよ!!
「でも、それだけ私達のことで心が動かされているんでしょ?」
「それは素直に嬉しいな〜」
「なっ!?」
な、なんてことを言うんですかこの娘さん達は!!こんな台詞を言われて勘違いしない男がいますか!?というか、劇の台詞よりもやっぱり生の台詞だな!!
「「顔が真っ赤」」
「お、おい!!やめろよ!!つーか、君達、劇を通して仲良くなってない!?」
「そりゃ、ずっと一緒に練習してればこうなるわよ」
「だね」
「だったら、そのコンビ力を俺をからかうことに使うのはやめてくれ〜!!」
「「あはははっ!!」」
全く、笑う時までお揃いとは……………こいつら、前世で姉妹かなにかだったのか?
★
「お久しぶりでございます」
「心にも思っていない挨拶などいらん。それよりも今日、お前を呼んだのは他でもない……………最近の様子を聞こうと思ってな」
「最近の様子…………ですか?」
「ああ。こうして、お前が家を出てから随分と経つ。離れていれば、お前の様子など知りようがないではないか。例えば……………学園ではどんなことをしているかとか」
「ご冗談はおやめください。それこそ、心にも思っていないことでしょう?あなた方が私の学園での様子を知りたがるなど……………私が実家にいる時ですら、私になど何の興味も示さなかった癖に」
「…………………」
「それに今時、私のことなど調べようと思えばいくらでもできます。あなた方はそれすらしなかった……………ほら、答えはもう出ているでしょう」
「………………随分と他人行儀な言葉遣いだな」
「私にそれを望んだのはあなた方だ」
「他所向けにな。だが、私達は家族だ」
「はっ。息子のことなど眼中にもないのに家族ですか!随分と調子がいいんですね……………まぁ、大方ようやくダメ息子にも使い道が出てきたから、機嫌を伺っているだけでしょうが」
「………………」
「やはり、神無月家ともなると名家との付き合いとか、色々とありますもんね………………でもね、婚約なんてしませんよ」
「っ!?お前、それはっ!!」
「許さないと?はははっ!滑稽ですね!……………息子を息子とも思ってもいなかったのにいざ、利用価値が出てきたら、これだ……………今更、ノコノコ出てきたって絶対にあんた達の思い通りになんか、ならない!!」
「広輔!!」
「うるさい!気安く名前を呼ぶな!お前なんか、形上の父親なだけだ!!」
「っ!?」
「僕の……………ようやくできた安寧の日々を壊させやしない。それはお前達じゃ決して作れなかったものだ!!今までだったら、決してこんなことは言えなかっただろう!!でも、僕は如月くん達のおかげで変われた!!だから、これからも彼らと楽しい毎日を過ごしていきたいんだ!!」
「広輔……………」
「僕は神無月の中にいたら、いつまでも飛び立てない…………籠の中の鳥だ。僕は自由が欲しい…………ただ、それだけなんだ」
「………………」
「……………すみません。少々騒すぎました……………これにて、失礼させて頂きます」




