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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第五十二話:天体観測

「本当にそれで見えるのか?」


「うん。まぁ、期待しててよ」


学園の屋上に俺と神無月の声が木霊する。現在の時刻は夜の9時。当然、夏休み中とはいえ厳重に戸締りが為され、警備員や宿直の先生の見回りの目が光る学園。そこをなんとか突破した俺達が辿り着いたのがここ、屋上……………目的はなんと天体観測だった。


「それにしてもお前にこんな趣味があったとはな」


「まぁね」


今回の天体観測は神無月からの提案だった。なんでも昔から趣味らしく、望遠鏡やそれに類する機器を沢山持っている程だという。そんな自称、星オタクである神無月に言わせると夏は天体観測の絶好の機会だとか。だから、だろう。現に今も真剣な顔をして、望遠鏡を何やらいじくっているのは。


「ちょっと優梨奈。はしゃがないの」


「え〜……………でも、なんか興奮しませんか?こんな時間に普段、通っている学園の屋上に忍び込むなんて。まるで、いけないことをしているみたいで」


「"みたい"じゃなくて、実際にこれはいけないことなのよ」


「でも、霜月さんも同罪だよね?」


「ちょっと長月さん。話をややこしくしないでちょうだい。私はただ、優梨奈達がこれ以上、いけないことをしないか監視する目的で来ただけよ」


「それなら、入る前に止めるよね?でも、それもせずにこうして屋上まで一緒に来てる……………本当は葉月さん達が心配で来たんだよね?」


「うぐっ」


「楽しいところに水を差すのも悪い。でも、みんなが心配……………そうだ!一緒に行けばいいんだ!って」


「そ、そんな訳ないじゃない」


「照れなくてもいいのに。さっきの学級委員みたいな言い訳も苦しいよ?」


「………………他人の揚げ足を取って、そんなに楽しい?」


「ううん。ただ、霜月さんが可愛いなって」


「っ!?か、可愛いっ!?」


「もぐもぐ…………あ、クレア先輩!照れてます!!可愛いです!!」


……………うん。一方の女子達は実に暢気で平和そうだ。あと、優梨奈。お前、一体何を食ってんだ?


「よし、できた」


と、そうこうしている内にすっかり準備も整ったみたいだ。神無月は満足気な顔をして、望遠鏡を見ている……………あ、ちなみに圭太もちゃんと来ているが、時間になったら起こしてくれと言って、今は寝ている。よし、そろそろ起こすか。


「じゃあ、みんな!準備ができたから早速、始めようか」






            ★







「わぁ〜…………凄く綺麗です」


「星ってさ、物凄い数があるんだよ。銀河には平均して数千億個の星があるし、宇宙には何千億もの銀河があると言われているんだ」


「へぇ〜」


「その一つ一つが莫大なエネルギーを秘めていて、それらが毎日消えたり、生まれたり絶えず変化を続けているんだ。今、僕らが見上げている星々もそうさ。あんなに小さく見えるけど、実はそうじゃない。お互いがあんなに近くに見えるけど、実際は凄く遠い………………それって、とても素敵なことだと思うんだ」


「クサイわね」


「ははっ。そうだね。でも、だからこそ僕は星に惹かれたんだ。あんなに小さく見える光は今、この時も精一杯生きている……………星は僕の憧れだ 」


「そう」


「………………お、あれは何だ?」


「あれは夏の大三角形だね」


「夏の大三角形……………ですか?」


「はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガ……………それら3つの星を結んで描かれる細長い大きな三角形をした星群よ。有名なのでいくと、ベガが織姫でアルタイルが彦星ね」


「あ、それなら知ってます!!七夕ですよね!!」


「そうだね」


「七夕といえば、あれって結構悲しいお話ですよね?」


「何故だい?」


「だって、織姫と彦星は一年に一回しか会えないじゃないですか!私だったら、好きな人とはずっと一緒にいたいです!!それに私達なんて、ほら!夏休みだっていうのに結構、会ってますよ!」


「……………まぁ、一人足りないけどな」


「おい、拓也!」


その瞬間、一斉にクレアへと視線が集中する。クレアはその視線を受けて、いたたまれないのか、明後日の方を向いた。


「織姫と彦星の事情は知らないが、あいつらは一年に一回の逢瀬に全てを懸けてんだよ。だったら、会おうと思えばいつでも会える奴には会った方がいいだろ。何を躊躇う必要がある?人間、いつどうなるかなんて分からないんだぞ。会っときゃ良かったって後悔したって遅いんだ」


俺の言葉に俯いて、そのまま微動だにしないクレア。しかし、数十秒後。緩慢な動作で顔を上げ、俺を縋るような目で見つめてくるとこう言った。


「でも、私…………」


「本当はとっくに許してるんだろ?というか、むしろ謝りたいくらいなんだろ?でも、どうしたらいいのか分からない………………違うか?」


「いいえ。違わないわ。あなたの言った通りよ。私は戸惑っているの。こんなこと、初めてで……………というか、これほど友人に囲まれて、こんな夏を過ごすこと自体が初めてなの。だから……………せっかく、できた友人と楽しい夏を過ごしたいって思ってたはずなのにこんなことになっちゃって」


「でも、自分の言ったことに間違いはないと思ってるんだろ?」


「ええ。あれはあの子が悪いわ……………というか、私もあの子もお互いにいけないところはあったのよ。それが互いに意固地になってしまっているだけ……………ううん。あの子の場合は違うわね。あの子はただ、私に嫌われてしまったと思い込んでいるのよね」


「………………で、流石にこのままじゃ寝覚めが悪いと」


「いいえ。もっと適切な表現があるわ」


「?」


「私はあの子と仲直りがしたい。そして、今以上にもっと仲良くなりたいのよ……………きっと」


「おいおい。途中まで良かったのにな……………最後が」


「ごめんなさい。言ったでしょ?初めてのことだらけで戸惑ってるって……………私自身、友人に対してどう思っているのかを力強く断定することなんてできないのよ」


「そうか」


「ええ………………まぁ、結局そこまで考えたはいいものの、どうやって仲直りしたらいいのか未だに分からずじまいなんだけど」


「そんなクレアに朗報だ」


「え?」


「実は圭太から、聞いた話なんだがあいつも神無月と同等…………もしくはそれ以上に星が好きらしいんだ」


「それで?」


「で、これは俺からの提案なんだが」






           ★





「あ〜あ。今頃、みんなで天体観測か……………いいなぁ」


私はベッドの上で寝転びながら、そう呟いた。近況を伝え合うやり取りは如月先輩や優梨奈としており、その度にクレア先輩の情報を得ては悶える日々を送っていた。最近のそんな私が考えることはただ一つ……………早くクレア先輩と元通りの関係になって、そこから今まで以上に仲良くなりたいということだった。


「ん?誰からだろう?」…………


と、そんなことを考えている時だった。近くに置いていた携帯が光ったのは。


「あ、誰かから写真が送られてきた。一体、こんな時間に誰だろう?って、これは!?」


それは今まさに私の頭に思い描いていた人物だった。その人は夜空を背景にして写っており、それはとても良く撮れていた……………写真が上下逆であることを除けば。


「もったいないなぁ〜良い写りしてるのに……………あれ?後ろに写ってるのって……………」


私は真意が掴めない為、その写真をよく観察してみることにした。すると……………


「えっ!?もしかして、そういうこと!?」


私は写真の真意とクレア先輩の想いを同時に受け取り、そして……………居ても立っても居られずに部屋を飛び出した。







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