第五十一話:肝試し2
「好きな人以外との結婚って、どう思う?」
「へ?」
肝試しの最中、神無月先輩は突然、そんなことを言い始めた。一体、どうしたのだろう?
「いや、ちょっと…………聞いてみたくて」
「う〜ん。そうですね……………私だったら、絶対に嫌かな」
「そう…………だよね」
「?」
「実はさ…………僕、婚約者がいるんだ」
「えっ!?」
「時代錯誤も甚だしいって思うでしょ?……………でも、本当なんだ」
「神無月先輩……………」
「僕らはまだまだ親の庇護下から抜け出せない。大人になったとかは気のせいさ……………所詮、籠の中の鳥なんだ」
「………………」
「だからさ、この間も言ったけど……………葉月さんはやっぱり、自分の幸せを最優先に考えて生きていくべきだと思う」
「………………私はこれでも幸せですけど」
「ごめん。余計なお世話だったかな」
「いえいえ!こちらこそ、すみません!そんな悩みを抱えてるなんて、露知らず」
「いやいや。僕の悩みなんて、ちっぽけなものさ。世界中ではもっと多くの苦しみに囚われている人々がいる。僕らはそんな人々に手を差し伸べなければならない。それなのに僕ときたら、自分のことで精一杯で……………」
「神無月先輩……………」
「驚いただろう?学園では何でもできるだとか、欠点など何もないとか言われてるけど、本当の僕はこんなもんさ。常に自分に自信がなく、消極的なんだ。もちろん、学園での僕も嘘じゃない。ただ、学園の中と外では生きづらさがまるで違うんだ」
「………………」
「笑ってくれよ。こんな僕、みっともないだろう?」
「そんなことないです!!」
「えっ……………」
「みっともなくなんてないです!!誰だって、苦手なことや分からないこと、嫌なことはあります!!完璧な人間なんて、どこにもいないんですから!!」
「葉月さん……………」
「むしろ、そうやってマイナスな感情を吐き出してくれる方が人間味があっていいですよ!!親近感が湧きますし、私は…………この状態の神無月先輩の方が好ましいですよ」
「っ!?」
「どうしました、神無月先輩?胸を押さえてかがみ込んで……………苦しいんですか?」
「ああ。色んな意味で苦しいよ」
「?」
★
拓也と長月、葉月と神無月ペアがそれぞれ肝試しを終え、現在は俺と霜月の番になっていた。
「はぁ〜」
「悪かったわね、相手が私で」
「そういうため息じゃない」
「あら、そう?本当は一緒に歩きたい相手がいたんじゃないの?」
「そういう霜月はどうなんだ?別荘ではやけに高く評価していた相手がいたじゃないか」
「もし、その相手と私がペアだったら、後悔するのは誰かしら?」
「ふん。後悔なんてするものか。あいつの好きな奴は他にいるからな」
「「…………」」
シチュエーション以外は全く肝試し要素がないのだが、妙だ。もしかしたら、夏のこの時間のこの場所は人をどこか妙なテンションにでもするのかもしれない。この調子で話していたら、うっかりどんなことを言ってしまうか……………
「自分で言ってて、悲しくならない?」
「ならない」
「そう……………そういえば、あれから拓也とはどうなの?」
「個人名だしたら、ぼかしてた意味がないだろうが」
「面倒臭くなったのよ。あなたとこんなやり取りをしていても何の生産性もないもの」
「そりゃ同感だ」
「で?」
「何もねぇよ。いつも通りだ」
「へ〜」
「全く…………他人のこと気にしてる場合かよ。そっちの方が大変だってのに……………あっ」
「……………」
「す、すまん!!そんなつもりじゃ」
「…………何のことかしら?」
その時、若干の間があったのには気付かなかったことにした。そして、その時の霜月の表情も見なかったことにした……………本当に肝試しとはよく言ったものだ。これは本当にいけないことを言ってしまう……………これは本当に良くない。




