第四十七話:別荘2
「もう夕方か」
夕焼けを見ながら、俺は呟いた。ビーチではバレーをしたり、泳いだり、スイカ割りをしてみたり、ついでに砂なんかにも埋まっちゃったり……………と定番の遊びをやり尽くした。おかげであっという間に時間が経ち、気が付けばもう夕陽が差していたのである。余談だが、昼にパラソルの下で食べるサンドイッチは格別だった。あ、サンドイッチはメイドさんが作ってくれました……………てか、普通にメイドさんを雇っている金持ちがいる世界線、やばくね?
「本当だね。楽しい時間が過ぎるのは早いな〜」
俺の横でそう呟くのは長月だった。現在、俺達は食材の買い出しで歩いて15分はかかるコンビニまで向かっていた。一方、他のみんなは今頃、別荘内で夕食の支度やなんやらをしているはずだ。
「それにしても私と買い出しで良かったの?」
「悪かったな。釣り合わないのは自分が一番よく分かってるよ」
「そんなことが言いたいんじゃないんだけど」
「まぁ、長月に相応しいのでいったら、神無月くらいなもんだろ………………あっ、安心してくれ。後でちゃんと二人きりの時間作るから」
「むぅ〜」
「ん?どうしたんだ?」
「何でそうなるかな〜……………私、そんなことしてくれって頼んでないのに」
「長月?」
「それにそんなことしたら……………もしも、もしも!如月くんが私に好意があった場合、辛い想いをするのは如月くんになるよ?」
「……………長月の言いたいことも分かるよ。でも、俺だったら、たとえ自分が辛い想いをすることになっても好きな人が幸せになってくれたら、それでいいんだ。だから、もしも俺が長月のことを好きであったとしてもきっと同じことをしていると思う……………まぁ、もしもの話だけどな」
「如月くん…………」
「それに好きな人が自分を見てくれていなくても振り向いてくれるよう努力して、最終的に気持ちが向いてくれれば、こっちのもんさ。なんてったって勝負は最後まで分からないだろ?」
「……………何だか、前と変わったね如月くん」
「ん?そうか?」
「そうだよ。前よりも自信に満ち溢れているっていうのかな……………まぁ、前とはいってもここ最近までほとんど話をしたことなんてなかったんだけど」
「……………」
「でも、それでもやっぱり変わったと思う。私でもそう感じているくらいだから、もっと如月くんの変化に気付いている人は他にいそうだけど」
「そうか?そんなの言われたことないけどな」
「言葉にしていることだけが全てじゃないよ。打ち明けられないものを秘めている人は沢山いる」
「ふ〜ん」
「でも、そうか……………きっと如月くんをそんな風に変えたのは」
「長月?」
「ううん。ごめんごめん。"もしも"の話をしすぎたからさ。如月くんが私を好きなんてあり得ないもん。だって、如月くんが好きなのは霜月さんでしょ?」
「は?」
長月は一体何を言っているんだ?一体、誰の為に去年から頭を悩ませていたと思ってる……………
「如月くん?」
「……………いや」
って本人に直接言ってやりたいけど……………そんなのは自分勝手な言い分でしかない。
「確かに俺はあいつを大事な友達だと思ってる。けど、俺が本当に好きな人は」
「好きな…………人は?」
だから、俺はこう言った。
「他にいるから」
★
あれから、俺達は少し気まずい空気のまま、別荘へと帰宅した。
「ただいま。買い出し、これで良かったよ……………な?」
「ただいま……………うん?みんな、どうしたの?」
すると、何故かこちらも同じような空気が漂い、みんなどこか、よそよそしかった。中でもあのいつも騒がしい皐月がクレアに対して、何か言いかけてはやめるといったことを数回繰り返している。これは非常におかしい。あのクレア大好きな皐月があんな表情でしかも話しかけづらそうにしているなんて……………
「うん。ちょっとね」
「拓也先輩…………」
さらにいつも冷静沈着な神無月も困ったように視線をどこかへやり、優梨奈に至っては助けを求めるように俺を見てきた。はぁ、仕方ない。
「クレア、買い出し行ってきた。これで良かったか?」
「おかえりなさい……………そうね。それでいいわ。ありがとう」
「あの、クレア先輩………」
「こっちも下拵え、サンキュー。じゃあ、ちゃっちゃと作りますか」
俺はまたもや何か言いかけた皐月を"今はやめとけ"と視線で制し、あえて明るくクレアに喋りかけた。
「そんなこと言って、あなた料理できるの?」
「あ…………そうだった。できねぇわ」
「はぁ、全く」
「悪い悪い。まぁ、でも小学生や中学生の時の林間学校とかで作ったことあるし、大丈夫だろ」
「…………本当に?」
「おい、何だその疑いの眼差しは……………安心しろって!仮に失敗したとしても圭太が全部食べてくれるから」
「俺かよ!!」
「うん。だって、最近のお前、そんな役回りじゃん」
「そんな役回りあるか!!………………まぁ、でも拓也の手料理なら、どんなものでも残さず食べるけど」
「本当か?よし!これで安心して失敗できるぞ!」
「上手く作る努力はしろよ!!」
俺達のやり取りに軽く笑いが起きる。どうやら、空気はだいぶマシになったみたいだ。たが、それでも皐月は暗い表情で俯いたままだった。結局、みんなでわいわいと楽しいはずの夕食は少し気まずい空気を残したまま進んだ。そして、最後まで皐月とクレアが目を合わせることはなかった。




