第四十六話:別荘
「別荘があるのだけれど、良かったら来る?」
クレアのその一言により、リムジンで揺られること約一時間。気が付けば、俺達は太陽の光が強烈に照りつける中、木造建築のおしゃれな建物を見上げていた。俺達以外、人っ子一人いないそこはプライベートビーチを有する僻地のような場所で豊かな自然と耳をすませば静かな波の音が聞こえてくるのが特徴である。こんな大自然に囲まれた中で唯一、人工物を感じさせるものといえば、目の前の建物とここに来るまでに使っていた道路くらいなものでコンビニまでは歩いて15分もかかる。とはいえ流石にそこまでいけば、人の気配はあるにはあるのだが、わざわざ向こうからここまで来る物好きな奴などは俺達以外に存在していなかった。ちなみに今日のメンバーはタイミングよく予定が合った為、七人全員であり、この中だと特に皐月が鼻息荒くして……………いや、首を長くして今日という日を待ち望んでいた。
「でけー」
「これがクレア先輩の…………」
「まさか、クラスメイトがこんな大金持ちだったとは」
「流石の長月さんも驚くんだね。でも、噂は本当だったって訳だ」
「デュフフフ……………ここが先輩と私の愛の巣に」
「なる訳ないだろ。勝手に暴走するな」
「痛っ!?ちょっと、睦月先輩!何で叩いたんですか!私のことを叩いていいのはクレア先輩だけなんですよ!…………いえ、むしろ、叩いて欲しいくらいです」
「そんなカミングアウトはいらん」
「むぅ〜……………本当に私に協力する気はあるんですか?」
「それとこれとは話が別だ。暴走しすぎて迷惑かけたら、好感度どころの話じゃないぞ」
「っ!?なるほど!それもそうですね。珍しく良いこと言うじゃないですか」
「ほっとけ」
なんか、後ろが騒がしいが……………まぁ、いいか。
「さぁ、遠慮せずに入ってちょうだい」
俺達はクレアの言葉に従い、ゆっくりと中へと入っていった。
★
別荘内を一通り案内してもらい、設備の使用方法についてもあらかた説明を受けた俺達はまだ昼までは時間があるということで目の前に広がるプライベートビーチに来ていた。相変わらず、日差しは容赦ないがパラソルを立て、その中で女子達を待っていた為、まだマシではあった。
「ごめん!遅くなっちゃった!」
「すみません!着替えに時間が掛かってしまって」
「デュフフ…………クレア先輩の目の保養になります」
「視線がいやらしいわよ、桃香」
そこにいたのは真夏の直射日光にも負けず劣らず、光り輝いている天使達だった。彼女達が身に付けているのはあの日、俺が連れて行かれた水着店で試着していた水着だった。ちなみに一人ずつ紹介していくとまず、クレアの水着は上下ともイルカが描かれた青のビキニだった。それは髪の色やスタイルととても合っていて、すれ違う男の視界に入れば、間違いなく皆、振り返るであろう。それぐらい映えていた。次に長月。彼女のはピンク色の花柄のビキニだった。そして、女子達の中で唯一、パレオを身に付けており、それがなんともまた色々と想像を掻き立てる。長月に関してはそのせいもあって、特にくびれに目がいってしまうのも事実であった。まぁ、でもこれは不可抗力というものだ。そして、次は優梨奈。彼女の水着は猫が描かれたオレンジ色のワンピースタイプのものだった。クレアや長月と比べるとややボリュームに欠けるというか、控えめというか………………とにかく、細くてスポーティな感じの彼女にそれはよく似合っており、天真爛漫な性格と掛け合わせれば、向かうところ敵なしといった感じだった。最後は皐月。彼女は上下白の無地のビキニだった。一見、地味にも感じそうなそれは逆に魅惑的な雰囲気を放っていた。おそらく、皐月が着ているからだ。他の女子が着てもこうはならないだろう。しかも悔しいことにこれをもしも、男の為に着てきたのだとしたら、その相手は確実に落ちている。それ故に本当にもったいない。
「皐月の言ったことじゃないけどさ………………目の保養になるか?」
「っ!?べ、別に……………」
「ふん。ムッツリめ」
「圭太、どうしたんだよ?機嫌悪くないか?」
「別に」
「おい、俺の真似すんなよ」
俺達がそんなくだらない言い合いをしていると女子達……………というよりはある一人をずっと見ていた神無月がここでボソッと呟いた。
「葉月さんの水着……………」
「神無月?」
「なるほど。あの中で真っ先に優梨奈に目がいくとは…………お前、上級者だな?」
「っ!?あ、あれ!?僕、口に出してた?」
「「大丈夫、大丈夫」」
「何で二人ともそんなに温かいものを見るような目で!?」
海辺に俺達の声が響き渡る。だが、どれだけ騒いだところで誰に迷惑をかける訳でも注目を集めてしまう訳でもない。なんせ、ここはプライベートビーチなのだから。




