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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第四十五話:課題と虫取り

夏休みがやってきた。部活や委員会活動、また補習(期末試験で良い点を取れなかった生徒が受けさせられるもの)がない者は特に何のしがらみもなく、約一ヶ月もの休暇を思う存分、味わうことができるという最高のイベントである。


「課題はどうしたのよ」


「そんなのは目に入らなければないのと同じだ」


「ああ、そう……………で?現実逃避はそれで済んだかしら?」


「……………はい」


「はい。じゃあ、夏休み初日はまず、そのしがらみとやらから片付けましょうか」


「何が悲しくて、課題からスタートする夏休みがあるんだよ」


「馬鹿ね。後の遊びを楽しむ為に今、やっちゃうんでしょ?」


「……………世の中って、よく出来てますね」


「そんなの語れる歳じゃないでしょ。ほら御託はいいから、さっさと始めるわよ。せっかく、私も手伝ってあげるんだから」


現在、俺とクレアはクーラーの効いた図書館にいた。実はこれ、皐月発案の"みんなで一夏を楽しもう"計画の一発目だったのだ。その為、本来であれば元々来れる予定だった皐月や圭太も一緒にここで課題をやっているはずだったのだが、急遽二人が来れなくなったようでメンバーは俺とクレアの二人きりとなってしまったのである。連絡してきた際の文章から、皐月の悔しさがこれでもかと伝わってきたのでどれだけ今日を楽しみにしていたのかは明白だった。ちなみに他のメンバーは用事で来れないとのことだった。あ、課題というジャンルを選んだのは何を隠そう、クレアだった。


「よろしくお願いします、クレア先生」


「はいはい。とはいっても答えは教えないし、丸写しなんて以ての外。ちゃんと自分で考えて、埋めてちょうだい。もちろん、分からないところがあればヒントは教えるわ」


「あざーす!!」


その日、俺はかなり頑張った。結果、朝から夕方まで掛かってようやく全ての課題を終わらせることができた。その時の達成感ときたら、まるでゲームで難関エリアのボスを撃破した時……………いや、それ以上のものがあり、しばらく余韻に浸ってしまう程だった。本当、クレアには足向けて寝れないわ。




  

            ★






「全く……………何が悲しくてこの歳にもなって虫取りなんか、しなきゃいけないんだよ」


「文句があるなら、来なきゃ良かったじゃないですか」


「しかもこんなクソ暑い中、やる奴があるかよ」


「夏は暑いもんですよ」


「うるせー!!ただでさえ、暑くてイライラするのにお前のせいでもっと加速するわ!!」


「ふん。憐れですね」


「なんだと!だいたい、今回の虫取りはお前が発案じゃねぇか!!お前のせいでこうなってるんだろうが!!」


「お〜怖っ!!でも、そんなにイライラするのはカルシウムが足りてないからですよ……………はい、牛乳」


「お前…………!!」


うわ〜。開幕早々、バトってるよ。あれ?圭太と皐月って、あんな水と油みたいな関係だっけ?いや、そんなことよりも見てるだけですんげー暑苦しいな。


「なんか、あの二人のやり取り…………………初日の私達と似てるわね」


「は?」


「あなたも愚痴を零していたじゃない」


「え?……………あんなに?」


「ショックなの?」


「……………」


「安心して。流石にあそこまでではないわ」


二人をチラリと見たクレアは真顔でそう言った。見れば、二人は今にも掴みかからんばかりの勢いだった。あと、地味に気になっていた皐月が牛乳を持っていた理由は未だ分からずじまいだった。


「よし!そこまで言うなら、乗ってやるわ!!」


「ええ!!安心して、乗って下さい!!その代わり、後で私に泣いて感謝を述べて下さいね」


「なんでだよ!…………まぁ、いい。それじゃ、後は頼んだ」


何やら知らぬ間に二人の間で問題が解決したらしい。ちなみに牛乳はさっきから無言で二人のやり取りを見ていた優梨奈がいつの間にか飲んでいた…………やはり、推し量れない子だ。


「皆さん、聞いて下さい!!」


いや、さっきから散々聞かされてましたよ。これ以上、一体何を聞かされるんかね、わしゃ。


「今回の虫取りはただみんなで平和に虫を取るだけではありません!!これはれっきとした競技なのです!!」


また何か言い始めましたよ、この子は。


「今から私の合図で皆さんは一斉に虫取りをスタートします。そして、一時間後。またここへと戻ってきてもらいます。その際、確保した虫のランクと数で勝敗を競い、見事一位を勝ち取った者の望みを何でも一つだけ叶えます!!睦月先輩が!!」


「俺かよ!そんなこと聞いてねーぞ!!」


「じゃあ、いきますよ?よーい……………スタート!!」








「う〜ん。なかなか見つからないな」


「地道に探していたら、そのうち見つかるわよ」


今日のメンバーは俺、クレア、優梨奈、皐月、圭太の五人だった。前回に引き続き、長月と神無月は用事で来れないそうだ。流石に七人ともなると全員が揃うのはなかなか困難だよな。


「お、みっけ。オオクワ、ゲット!!」


「私も見つけたわ…………種類は分からないけど」


「お、それはミヤマクワガタだな。結構、珍しいぞ」


「詳しいのね」


「まぁな。一応、小さい頃から虫取りしてたし」


「流石は男の子ね」


「そういうお前は小さい頃、何して遊んでたんだよ」


「私は……………特に何かしてた訳ではないわ」


「……………そうか」


クレアの返答に少し間があったことが気にはなりつつ、何故だか、そのことを訊くのは躊躇われた。その為、代わりにこんなことを訊いた。


「クレアはさ、もしも一位になったら何を願うんだ?」


「……………」


軽い気持ちで訊いたつもりだった。だから、クレアが質問に対して考え込むようなそぶりを見せた時、俺は訝しんだ。しかし、彼女が何も言わないまま、数十秒という時間が過ぎた頃、もしかしたら、とんでもない地雷を踏み抜いてしまったのかもしれないと焦り出した俺はフォローしようと口を開きかけた。と、その時……………


「私の望みは……………」


クレアが俯いていた顔を上げるとゆっくりと言葉を紡いでいった。その際、突然吹き荒れた強風によって、それが周りに聞こえることはなかった。









「うふふ。私の優勝は間違いなしよ!!」


「おい。本当にいるんだろうな?」


「ええ。間違いないです!当時、男の人を避けていた私が最終的に辿り着いたのがこの森!!それから、毎年のように来ていましたが、毎回あの木にいました!!」


「本当か?」


「何の為にこの森にみんなを連れてきたと思っているんですか?全てはこの為です!!」


「本当、お前っていい性格してるよな」


「卑怯と言ってくれて結構。でもね、恋は戦いなんです!!どんな手を使ってもという気概がなければ、成就しないんです!!特に私達は!!」


「気概どころか、実際に汚い手を使ってるだろ」


「他人事ですね。そんなに余裕ぶっこいている場合じゃないでしょ」


「……………そうだな」


「分かってくれればいいんです……………っと、着きますよ」


「お、あれか」


「ええ。あそこにいますよ……………この森に住む昆虫の主が」







「これにて、第一回虫取り祭は終了です!!」


ウキウキとした様子の皐月がそう言った。見れば、圭太も同じような表情をしている。これはもしかして、とんでもない大物を捕まえたのか?ってか、その前にこれは第二回もあるのか?


「皆さん、後ろ手に隠した虫かごを目の前に出して下さい。今から採点を始めます」


まずは俺とクレアが皐月のその言葉に従う。それぞれの虫かごは収まり切らないくらいのカブトムシやクワガタで溢れていた………………ん?どうしたんだ皐月?なんか震えてないか?


「え、え〜っと……………採点の結果が出ました。まずは如月先輩、370点。クレア先輩、290点です」


ちなみに採点基準が書かれたボードは目の前にあり、カブトムシやクワガタはそれぞれ10点で珍しいのともなると50点となっていた。


「よし!初めてクレアに勝ったぞ!!」


「おめでとう。経験値は何物にも勝ることが今、証明されたわね…………………まぁ、仮に私があなたと同時期に始めていたとしてもおそらく勝てなかったでしょうね。熱意が違うもの」


「いや、そんなことないよ。クレアも初めてにしては凄いって」


「それはあなたに手伝ってもらったからよ。昆虫に関する知識も聞けたし、楽しかったわ」


「俺も楽しかったよ。なんかクレアが俺の課題に付き合ってくれていた時の気持ちが分かったよ」


「私、そんなに楽しそうにしていたかしら」


「ああ。なんか表情が輝いていたな。教師とか向いているんじゃないか?」


俺達は周りのことそっちのけでお互いを称え合った。これぞ、遊びの時のテンション。恐ろしいぜ、バケーション。


「ちょっとちょっと!これは一体どういうことですか!…………ボソッ」


「それはこっちの台詞だ!……………ボソッ」


「何であそこにいるはずのオオクワやミヤマがここに……………というか、何でいい雰囲気になってんのあの二人……………ううっ」


「いいなぁ〜霜月……………俺も拓也と分かち合いたい」


「あの〜」


「睦月先輩!まだです!!私達の実力もお見せしましょう!」


「おい、でも…………」


「あの〜」


「何かの拍子でランクが上がるかもしれないですし、数も増えるかも」


(きん)や鮭の遡上(そじょう)じゃあるまいし、んなことあるか」


「あ・の!!」


「「うわっ!!びっくりした!!」」


「ん?優梨奈?」


「どうしたの?」


俺達が互いの健闘を称え合い、すぐそこで何やらボソボソと話をする圭太達がいる一方で終始無言で事の成り行きを見守っていた優梨奈が突然、大きな声を出した。それに対して、何事かと彼女の方を見る俺達。


「私も捕まえてきましたよ……………ほら」


そして、目の前にすっと差し出された虫かご。その中で動いているのは……………なんと、たった一匹のみだった。


「何だ。一匹じゃない。優梨奈、悪いけど親友だからって私は贔屓は……………って!!」


最後まで言い切ることなく、途中で驚愕の表情を浮かべる皐月。俺達はそんな皐月を不可解な目で見つめる。すると、それを知ってか知らずか皐月は今し方、優梨奈が出したのよりも大きな声でこう叫んだ。


「これ……………この森の主じゃない〜〜〜!!!!どうして、ここに〜〜〜!!!」


「へ?そうなの?その辺で捕まえたけど」


こうして、第一回虫取り祭は終わりを迎えた。優勝は主一匹で1000点を獲得した優梨奈だった。そして、皐月・圭太ペアはというと同率5位で20点だった。聞けば、彼女達だけが知っているこの森で一番大きな木へと向かったそうだ。そこにはオオクワやミヤマなど、また複数のカブトムシがいて、何より森の主がいる…………はずだったそうだ。だが、蓋を開けてみれば、何故か今年は珍しいのどころかカブトムシすら一匹も見当たらず、集合場所へと戻ってくる途中で慌てて捕まえてきたらしい。あのウキウキとした表情はこの調子だとおそらく、自分達と同じように他の者も全然捕まえられていないと踏んでのものだったらしい………………まぁ、何にせよ、自身が振り返った時に罪悪感が残るようなことはしない方がいい。酷く落ち込んだ様子の皐月と圭太を見て、そう思った。


「わ〜い」


そして、優勝して無邪気に喜んでいる様子の優梨奈を見て、癒された。








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