第四十四話:打ち上げ
その誘いは突然だった。
「あ、そういえば、まだやっていないので連休中にでも期末試験の打ち上げ、やりませんか?」
ショッピングモールからの帰り道、しこたま俺を荷物持ちとして、こき使った皐月がそう言った。すると皐月の言葉に対して三人は様々な反応を示した。
「それ、楽しそう!」
「うん。私もこのメンバーでっていうのがいいと思う」
「いや、そもそも打ち上げって、たかが期末試験ごときでするものなの?」
「クレア先輩、たかがじゃないですよ!!普通の高校生にとって"試験"というのは"試練"と同じなんです!!むしろ、せっかく言葉が似てるんだし、そっちに変えて欲しいぐらいです!!」
「あ、そ、そう」
うわ、クレアが皐月の勢いに引いてるよ。
「そりゃあ、クレア先輩や長月先輩にとっての試験は私達なんかとは感じ方が違うでしょう」
「あの〜さりげなく、私を含めないでくれるかな」
「俺もね」
「一体何を言っているのかしら?学生である以上、日々勉学に勤しみ、その成果を試験という形で表す………………これは当然のことじゃないのかしら?」
「シャラップ!今はそんな正論、聞きたくもありません!!」
「えぇ〜」
クレアが困ってるぞ。皐月、ここからどう巻き返すんだ?ってか、凄い必死だな……………あ、なるほど。なるべく、多くの時間をクレアと過ごしたいから、ヤケクソになってるな。そもそも皐月や優梨奈は俺ほど成績が悪くないしな……………なんか、悲しくなってきた。
「と・に・か・く!!クレア先輩達は私達とは難易度が違うんです!!ゲームで言ったら、"easy"と"hard"くらい違うんです!!」
「分からないわよ。ゲームやらないから」
「じゃあ、私達は休息と安寧を欲しているとでも思ってて下さい!」
「休息が必要なら、なおさら馬鹿騒ぎしないで休んでいた方がいいんじゃないかしら」
「先輩の中で打ち上げって、一体どんなイメージなんですか………………まぁ、いいです。とにかく、これは決定事項ってことで!!ついでに睦月先輩や神無月先輩にも連絡しておきますね」
「なんか、段々とメンバーが固定されてきたな」
「はぁ。分かったわ…………じゃあ、神無月には私の方から連絡するわ。皐月さんだけに任せちゃ申し訳ないもの」
ちなみに試験勉強の時に全員で連絡先を交換していた為、誰が誘っても良かったのだが…………珍しいな。クレアがここで動くのは。
「…………ふふっ、打ち上げね」
俺はその時、察した。なんだかんだ言って、クレアが打ち上げを楽しみにしていることを。
「ふふふふっふふふっ……………この打ち上げで私は」
と同時に肝に銘じた。当日、俺はこの危険な笑みを浮かべている暴走馬の手綱をしっかりと握っておこうと。
★
「では期末試験が無事に終了したことを祝して………………乾杯〜〜〜!!!」
「「「「「乾杯〜〜〜〜〜!!!!!」」」」」
「か、乾杯」
俺の家のリビングにて、皐月の音頭と共に打ち鳴らされる計七つのグラス。しかしながら、こういったノリにある程度、耐性がある俺達と違い、クレアは戸惑いながらだった。というか、何で会場がまた俺の家なんだ?
「えぇ〜私達はあの辛く苦しい試験を無事に乗り切った訳ですが」
「なんか変な口上が始まったぞ拓也」
「ほっとけ。奴は今日、張り切ってんだ」
「高校生生活という名のたった三年間の短い青春はこんなものでしょうか?否!これで終わりではありません!!私達にはまだあらゆるイベントが残されています!その中でも今、最も近いイベントは………………夏休みです!!」
「凄いエンジンかかってるな」
「なんか、冬休みの時も同じような口上を述べそう」
「試験勉強、そして今日の打ち上げ………………この二回のイベントを共にした私達は今や固い絆で結ばれていると言っても過言ではありません」
「過言だろ」
「たった二回だしな」
「ここで私から一つ提案があります!」
「お、何だ?」
「変な張り切り方してなきゃいいが」
「この夏休み中は色々なイベントがあります!その間も忙しい大人達と違って私達は学生です!!であれば、その休みを使って様々なところに出掛け、より多くの一夏を経験しようじゃありませんか!!」
「回りくどいな。ようはどこかへ出掛けようってだけだろ」
「ってか、こういうのは拓也の役目だと思ってたけどな」
「なんか皐月が自分が中心となって回したいらしい」
「何かに影響を受けているのか?」
「そっとしといてやれ。あいつにも色々、あるんだろ」
「あの〜先輩達、結構なこと言ってますね」
「お前程じゃないよ、優梨奈」
「へ?」
「そこ!静かにして下さい!今からオチを言うところなんですから!!おそらく、これを聞いたら、みんなびっくりしますよ」
「「「あ〜はいはい」」」
「つまりですね、私が何を言いたいかと言うと……………」
皐月はそう勿体ぶると大きく息を吸ってこう言った。
「みんなでどこかへ出掛けましょうってことです」
うん。知ってた




