第四十三話:試験終了
「はい、そこまで。筆記用具を置いて、後ろから答案用紙を回して下さい」
師走先生からの号令が響き、教室内にホッとしたような空気が流れる。そう。たった今、期末試験の全日程が終了したのである。ということでクラスメイト達は皆、その安堵感から胸を撫で下ろし、解放感に溢れた表情をしていた。見れば、教室内は次第にざわざわとしだし、早速席を離れて友人と駄弁りに行く奴も現れた。
「は〜い。浮かれる気持ちは分かるけど静かにして下さいね〜」
ところが、それもすぐに収まった。先生のたった一言により、クラスメイト達は自分の席に大人しく座り、真っ直ぐ前を見つめ出したのだ。この担任だけには逆らってはいけない。それは俺達の共通認識としてあることだったからだ。
「みんなも知ってる通り、明日から土・日を含めて五連休となります。その間の部活や学園での活動は一切なし」
そう。俺達にとっては待ちに待った連休だった。皆、試験で疲れた脳を休め、思う存分に羽を伸ばすことだろう。一方で大変なのは先生達だった。明日からの五日間で試験の採点を全て終えなければならないのだ。その為に授業や部活も全て休み、先生達は採点に全力を注ぐのである。これを聞いて、五日間もあれば余裕じゃんとか考える人はいるだろう。しかし、裏を返せば五日間もあるのだから採点でのミスが許されないということ。厳しい保護者であれば、採点のミスが発覚した時点で乗り込んでくる可能性もある。先生達は常にそのプレッシャーを感じながら、職務を全うするのだ。ひぃ〜お疲れ様です。おそらく、今日の夜は明日からの五日間を乗り切る為の飲み会が開かれることだろう……………知らんけど。
「休み期間中の外出は自由ですが、その際に自分達は我が蒼最学園の生徒であるということの自覚をしっかりと持ち、何かやらかしてしまったら学園にまで迷惑がかかるということを常に考えながら行動して下さい……………あ、これは夏休みも一緒ね」
(何故、まだ来てもいない休み中の振る舞いを今ここで?)
「だって、結局同じことを言うだけでそれって二度手間じゃない?あなた達も二回もこんな堅苦しいこと聞きたくないでしょ。だったら、今ここでまとめて言った方がお得よね」
(いや、一個買ったらもう一個ついてくる!みたいな言い方されても…………ってか、心読まれてる!?)
「はい。それじゃあ、今日はここまでね。みんな、気を付けて寄り道したり、寄り道したり寄り道したりするようにね」
先生、そんなに言われたら却って寄り道しづらくなります……………はっ!?まさか、それが狙いか!?結局、終始マイペースな担任に翻弄される俺達だった。
★
「ちょっと待って下さい!!何で如月先輩も一緒なんですか!!」
「いや、俺に聞くなよ」
現在、俺を含めた五名は以前、俺とクレアがデートをしたショッピングモールにいた。試験が午前で終わって、そのままの流れでここへとやってきた為、まだ比較的空いていた。しかし、問題はその面子だった。
「あら?言ってなかったかしら?拓也も一緒だってこと」
「言ってませんよ!だ、だいたい行き先がアレなのによりにもよって男の人となんて」
「まぁまぁ。落ち着きなって」
「優梨奈はいいの!?だって、如月先輩に見られるんだよ?」
「いいんじゃない?どうせ、いつかは見られるかもしれないんだし……………まぁ、私の場合はどちらかと言うと"見せる"だけど……………ボソッ」
「ダメだ、話にならない……………そ、そうだ!長月先輩は嫌ですよね?優梨奈はこう言ってますけど、見られるのは買った物やそれを身に付けた姿だけじゃありません!!その過程まで含めて全てですよ!!」
「い、いや私は別に……………うん。嫌じゃないかな」
「なっ!?」
「それにこういうのはやっぱり男の人の意見も大事だと思うし」
「長月さんの言う通りよ。だからこそ、この男を連れて来たんじゃない」
「そうだぞ〜俺は半ば強引に連れて来られた、いわば被害者だ!だから、憐れめ!それと批判なら、校門を出た時にすぐ言え」
「ガーン!?クレア先輩まで!?だ、ダメだこの人達……………いや、私がおかしいのかしら」
「いや、お前は正常だと思うぞ。それは俺が保障する」
「よ、良かった!私にはまだ仲間が……………って、如月先輩じゃないですか!!何でよりによって、あなたなんですか!!先輩じゃ、仲間になってくれてもむしろマイナスですよ」
「酷いね、君」
「とにかく!私はこんなの認めませんよ!」
「はぁ。強情ね」
皐月がこれだけ言う理由は俺達がこれから入ろうとしている店にあった。その店は男が入りにくい店のおそらく上位にくる、男の性格によっては天国にも地獄にも感じられる禁断の花園…………
「じゃあ、あなたは来なくていいわ」
「えっ!?ち、ちょっと待って下さいよ!!」
女性専用の水着売り場だった。




