第四十二話:高嶺の花
私はその容姿と雰囲気から今まで数多くの男子から言い寄られてきた。毎日毎日、靴箱も机の中もラブレターだらけ。放課後は常に誰かの告白を受け、それを断る日々。休み時間になると私を一目見ようと他のクラスからも男子がやってくる始末。さらにそれは学校内だけに留まらず、一歩外を出歩くだけで沢山の男の人達の注目を集めてしまい、ナンパも日常茶飯事だった。そして、私はそんな日々を送るうちに段々と男の人に対して嫌気がするようになり、遂には完全に恋愛対象として見れなくなっていた。もちろん、私の方にも落ち度はいくらか、あっただろう。自分で言うのも何だが、比較的に整った容姿をしている割に高嶺の花のような感じがなく、誰でも話しかけやすいような雰囲気をしていた。だから、周りも私に対して遠慮することなく、近付いてきていたのだ。もう少し、牽制というか威嚇?というか…………とにかく近寄りがたい雰囲気みたいなものを出していたら、こうはならなかっただろう。だから、私は"高嶺の花"のような存在に憧れ、自分もそれになりたいと思うようになった。この時、既に中学三年生。来年からは高校生という新たな舞台で学生生活を送ることになる。今度こそ、楽しく穏やかに学校生活を送りたいと私は高校見学に力を入れた。
「それでここに来たと?」
「いいえ。考えてもみて下さい。私は転校生ですよ?しかもこんな中途半端な時期に」
「まぁ、そうか……………おそらく、何かがあったんだろうな」
「ええ。とはいっても何か特別な事情があった訳ではありません」
私は高校見学を繰り返すうちに一体どこが自分に適しているのか分からなくなっていた。目的ははっきりしている。校風や立地、生徒の男女比…………あと、あわよくば憧れる高嶺の花のような先輩がいるかどうかなんかから、自分の過ごしやすい環境を求めていたのだ。しかし、残念ながら私の理想とするような高校は私の偏差値では見つからず、最終的には妥協して選んだ高校の入試を受けることになった。そして、試験も全て終わった春休みのあの日。たまたまやってきたこの学園見学で運命が変わったのだ。
「学園見学?もう試験は終わってるのに?」
「はい。なんか未練みたいなのがあったんでしょうね。最後にどこか適当な高校でも見ておこうって」
そこで私の選んだのが今、通っている私立蒼最学園だった。この時はまさか、自分が今後お世話になるとも知らずに……………
「決めては何だったんだ?」
「出会ったんですよ……………春の風に舞うリボンに」
「?」
「こればかりはいくら同盟相手である睦月先輩にも教えられませんね。私の大切な想い出ですから」
「別に無理に聞き出そうとなんてしねぇーよ。思う存分、独り占めしてろ」
「うわっ、何ですか今の台詞……………キモッ」
「うっせ……………で?その後は?」
「調べたところによると私達の通うこの学園には世間で春休みと呼ばれる期間中、特別試験という名の救済措置を受けることができるそうです。何でもどこにも行き場のない生徒や転校希望の生徒の為のものだそうで……………もしも、それに受かりさえすれば、新入生と同じ時期…………とは言わないまでも遅くとも六月中には転校生という形で入学ができると」
「なるほど。それで霜月を追って転校生としてやってきたのか」
「ありゃ。そこまでバレてましたか」
「当たり前だろ。普段の姿を見てれば一目瞭然だ」
「そんなに分かりやすいですかね?」
「さぁ?他の奴は知らん。まぁ、俺には全て筒抜けってだけだから、安心しろよ」
「いやいや、安心はできませんよ…………まぁ、とにかく睦月先輩の言う通りです。詳しくは言えませんが、あの人は私の憧れそのものなんです。と同時に私の目指すべきものでもありますが」
「それだけじゃないだろ……………何の為に同盟を組んだと思ってる」
「いやいや、そもそも私がいきなり同盟を組みましょうと言った時、詳しい理由も聞かずにOKしたのは誰ですか……………まぁ、とっくに私の気持ちなんてバレていたからなんでしょうが」
「そして、俺の気持ちもバレていたと」
「同志のことは分かるもんですよ」
「うわっ、何だ今の台詞……………キモッ」
「うるさいです。私の真似しないで下さい」
これは雨の降り止まない時期にとある男女が放課後の教室内でしていた会話の一部始終だった。




