第三十八話:試験勉強2
「…………」
リビングに集まって、試験勉強を開始してから約10分。静かな空間にペンの走る音と時々、教科書のページをめくる音が響く。それぞれの座る位置もすんなりと決まり、さぁ作戦開始と意気込んだはいいものの、気が付けば何もできないまま時間だけが経過していた。
「……………ちっ」
ふと、隣を見れば忌々しそうに舌打ちをする皐月の姿がある。そう、俺達はとんだ思い違いをしていたのだ。試験勉強とはもっとこう…………お菓子なんか並べちゃって、それらを摘みながら、時々、勉強とは関係ない日常会話も織り交ぜ、和気藹々とやるもんだと勝手に思っていた。しかし、蓋を開けてみれば、これである。俺達三人を除き、残りのメンバーはただただ黙々と勉強を続けている。考えてみれば、こうなるのも当然だったのだ。なんせ、クレアはもちろんのこと、長月も神無月も成績優秀者。圭太だって、彼女達程ではないにしろ、成績はいい。ということはそもそも大勢で和気藹々と勉強なぞする必要はないのだ。それぞれが既に確立した独自の勉強スタイルで以って、進めていけばいい。つまり今の時代、大切なのは集団ではなく個でどう動くかなのである!……………というのは流石に言い過ぎたが、とにもかくにもこのままでは当初の目的を果たせそうにない。それに俺も勉強を教えてもらいたいし。
「この状況どうするんですか、先輩……………ひそひそ」
「そ、そうだな……………ひそひそ」
「これじゃあ、まるで私達が三馬鹿トリオみたいじゃないですか………………ひそひそ」
「優梨奈、それは私に失礼でしょ!少なくとも私はあなた達と違ってお馬鹿じゃないわよ!………………ひそひそ」
「お、俺もだぞ!………………ひそひそ」
「わ、私だって!命名しておいてなんですけど、私はいち早くトリオから脱退しますよ!………………ひそひそ」
「あ、ずるい!私も!……………ひそひそ」
「それなら俺だって!……………ひそひそ」
「……………あのさ」
「「「っ!?」」」
そうやって俺達がひそひそ話を続けていると何やら静かな声が掛けられた。振り向くと長月がペンを置きながら作り笑顔でこちらを見ていた………………特に俺の方を見ている気がする。ひぇ〜こ、怖い。
「そちらはひそひそ話しているつもりかもしれないけど、こっちには丸聞こえだからね?勉強するつもりがないのなら、何でこんな会を開いたのかな?」
「「「す、すみません」」」
「それから、如月くん。さっきから二人との距離が随分と近いようだけど……………いいね、両手に華で」
「いや、これはその……………」
「勉強するって割には煩悩にまみれすぎじゃないかな?そんなんじゃ、試験でいい点取れないよ?」
な、なんか今日の長月は怖いな。良く分からん感情が乗っかってる気がするし。
「…………おや、これは」
何故か、神無月はそんな長月を見て、少し驚いた表情をしているし………………一体今の一瞬でどんなことが分かったっていうんだい?えぇ、おい?ちょっとそこんとこ、詳しく教えてもらっても……………
「今回ばかりは珍しく長月さんの意見と一致したわね」
ん?今度はクレアだと?一体何だ?
「こっちは集中して勉強したいのにあなた達みたいなのがいると気が散っていけないわ。ということで私から一つ提案があるのだけど…………」
「提案?」
俺の問いにクレアは軽く頷くとこう言った。
「三人それぞれに私達が一人ずつ付いて得意科目を教えていくの。一時間経ったら、少し休憩してまた別の人へ。それを繰り返していけば、教科も変わるし飽きることもない。それに周りが頑張っているんだから、サボる気も起きないんじゃないかしら?」
俺達三人はその言葉を聞いた瞬間、目配せをし合った。
(今のどう思いますか?)
(俺はいいと思う。今の案だと皐月がクレアに近付きすぎて警戒されるということがないからな)
(はい。桃香は見境いがないので暴走する可能性がありますし、もしそうなったら作戦失敗。下手すれば、桃香が気持ち悪いだけで終わらないかもしれません)
(ちょっと!今のどういう意味!)
(よし、決まったな!とりあえず、クレアの案は)
(はい!せ〜の)
(う、うわちょっと待)
「「「異議なし!!!」」」




