第二十八話:元不良少年
俺がそいつと出会ったのは一年前だった。一年前といえば、中学校という少年期第二の学び舎を卒業し、高校生活をスタートさせる年であり、俺も他の者達同様、新たな学校生活に心を躍らせて……………はいなかった。訳あって俺は中学校で荒れていたのだ。だから、たとえ環境が変わったとて俺の生活には何の変化もない。大体、たかが一学年上がっただけで劇的に何が変わるというのか。俺達はまだまだ子供。そんな俺達に出来ることなんて、たかが知れているじゃないか。俺はそんな風にちょっと捻くれた考え方をしていた。
「よっ。お前、睦月圭太っていうんだって?よろしくな」
と、ちょうどそんな風に教室内で黄昏ている時だった。誰だかよく分からない奴がいきなり馴れ馴れしく俺に絡んできたのは……………
「誰だよ、お前」
「おいおい。同じクラスだってのに随分と辛辣だな」
「だったら、まずは自分から名乗れ。お前だけ一方的に俺の名前を知ってるのはフェアじゃない」
「ぷっ………はははっ!お前、面白いな!!気に入ったぞ!!」
何がそんなに楽しいのか、そいつは笑いながら俺の肩をバンバンと叩いてきた。
「っ!?てめ………」
そして、それは中学上がりの荒みがまだ残っていた俺の感情を激しく逆撫でし、俺は思わず拳を振り上げた。しかし……………
「これから楽しくやろうぜ!!なんか、お前とは気が合いそうな気がする!!」
屈託のない笑顔を向けられた俺はどうしていいか分からず、かといって振り上げた拳をただただ、そのまま戻すのは何だかカッコ悪くて……………結果、行き着いた先が自身の腹だった。
「っ!?ぐっ………」
「おいおい、どうしたんだよ。自分の腹なんか殴って」
結構な勢いのパンチをモロに入れた為、俺は少しの間、腹を抱えて身悶えた。そして、そんな俺を目の前の元凶は心配そうに見つめていた。
「一体、誰のせいだと」
「?」
「…………はぁ、もういい」
俺は恨み言を言おうとそいつを睨み付けたが、そいつは何のことだか分かっていない感じで俺は毒気を抜かれてしまった。
「もういいから、自分の席へ戻れよ」
こいつといるとペースを狂わされる。俺は本能的にそう感じ、視界から遠ざけようとぶっきらぼうに言い放った。すると、そいつは俺のことをじっと見つめ、一人でうんうんと何か納得し、徐に右手を差し出してきた。
「俺は如月拓也。これから、よろしく」
これがその先、親友と呼べる程の関係になる男との出会いだった。
★
高校での生活は退屈だった。中学の時に比べ、平和そのものも。乱闘騒ぎになることも校舎裏に呼び出されることもない。実に平和な毎日だった……………懲りもせず、うるさい蝿が周りを飛び回ってはいたが……………と、そんなある日のことだった。俺が授業を終え、帰宅する為に校門を出ると周りをどう見ても不良としか言えない連中に囲まれたのは。
「こんなところにいたとはな」
「…………杉崎」
不良達の中で真っ先に口を開いたのは中学時代に何かと突っかかってきた杉崎という男だった。見れば、杉崎は見たことのない連中を従えている。おそらく、同じ高校の生徒なのだろう。そして、それと引き換えなのかは分からないが中学時代の取り巻き達は一人も見当たらなかった。
「違う学校に行けば、助かるとでも思っていたか?甘ぇんだよ!!お前は絶対に逃がさねぇ」
「本当にしつこい奴だな。俺にその気はないぞ」
「そういう意味じゃねぇよ!!」
「はいはい。ストーカー乙」
「おい。今の俺をあまり怒らせるなよ?なんせ、あの時の俺とは違うんだからな」
杉崎はそう言うと徐に懐から鉄パイプのようなものを取り出して肩に担いだ。すると、周りの連中も同じようにそれぞれの得物を取り出して、ニヤニヤとした笑みを浮かべて俺を見つめてきた。
「はぁ…………場所を変えるぞ」
「おぅよ…………逃げるなよ?」
「安心しろよ。過去からは絶対に逃げられねぇから」
★
そこはジメジメとした裏路地だった。少し行けば、人の目があり、これから行おうとしていることを考えれば、相応しくない場所に思える。しかし、好き好んで覗きに来られるような場所ではないことと地元の者達も見た目がイカつい連中の厄介事などにわざわざ首を突っ込んでくるとは考えられず、その点は不良達にとっても俺にとっても好都合だった。
「さぁ〜て…………一体どんな風に痛めつけてやろうかな」
「……………」
相変わらず、不快な奴だ。舌なめずりをしながら、こちらを見てくる杉崎を視界に入れてると吐き気がしてくる。
「おい、なんとか言ったらどうなんだ?俺はこの日を待ちに待ってたんだぜ?」
「うるさい。いいから、とっととかかってこいよ」
「ちっ。お前は相変わらず、しらける野郎……………だな!!」
小さく呟いた杉崎は何を思ったのか、いきなり鉄パイプを振りかぶって、こちらに叩きつけてきた。普通の者であれば、そんな奇襲を防げる確率など限りなく低いだろう。しかし、俺は中学三年間に嫌というほど、こいつの汚さを味わされてきた。そのおかげでその奇襲も予想の範囲内であった。
「腐った性根が変わってなくて安心したわ」
「ちっ」
俺は杉崎の攻撃を躱しつつ、奴の脇腹に渾身の一撃を打ち込もうと身を低くした。しかし、次の瞬間・・・
「っ!?」
「杉さん!これでイイっすか?」
「ガッチリと押さえましたぜ!!」
俺は視覚外から現れた奴の取り巻き達によって身体を拘束されてしまったのだ?
「そうだ。そのまま、押さえとけよ」
そして、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、俺の目の前にくる杉崎。
「ちっ。平和ボケしちまった。こんな卑怯な奴が正々堂々と向かってくる訳ないのに」
「おぅ、好きに言ってろ・・・そんじゃ、覚悟しろよ」
そう言って、杉崎は鉄パイプを俺に向けて大きく振りかぶったのだった。




