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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第二十五話:対峙

「どうですか?」


「少し離れてはいるが確実についてきてるな」


放課後、俺達は昼休みに話し合った作戦を実行に移そうとしていた。それはわざと優梨奈を一人で歩かせて、奴を誘き出そうというものである。ストーカーの性格的に俺達が固まって動いている場合は大きな行動に出ない可能性が高い。その為、こうして優梨奈が一人で行動するとチャンスと踏んで近付いてくるかもしれないのだ。そして、優梨奈に危険が及ばないかつ最もストーカーが近付いた時に少し離れたところにいる俺達が出ていくという寸法だ。当初、この作戦が出た時、俺とクレアは反対した。危なすぎると。しかし、優梨奈は真剣な表情でやりたいと口にした。何もしないまま、日々を過ごすのでは何も解決しない。ここはやはりちゃんと本人の前に出ていって、もう二度とこんなことはしないよう約束させなければならないとのことだった。それを言われた時、俺達は彼女を止めることができなかった。


「本当に大丈夫なのか……………?」


ちなみに場所も商店街を選んでいるし、万が一のことがあったとしても人目がある。そこまで無茶な行動には出ないだろう……………ここに来るまで俺達はそう考えていた。しかし………………


「いくら何でも人目が多すぎるだろ。何で今日に限って、こんなに人が多いんだよ」


「さっき、すれ違った女性の会話が聞こえてきたわ。どうやら、商店街のあちこちで特売があるらしいわ」


「ちっ…………それはタイミングが悪いな」


悪態をついている今もなお人が増え続けている。このままいくとストーカーだけではなく優梨奈のことも見失ってしまうんじゃないか……………そんな俺の懸念は現実のものとなってしまった。


「っ!?まずいっ!見失った!!」


「っ!?仕方ないわ。二手に分かれて探しましょう!もし、どちらかが先に発見したとしても無茶な行動はしないこと!分かった?」


「ああ!!」





           ★






「優梨奈!悪い!人が多すぎて、お前のことを見失った!すぐに駆けつけるから、奴と二人きりにならず、なるべく人目につくところにいてくれ!!」


「分かりました」


私はインカムから聞こえてくる拓也先輩の声を聞きながら周囲へ視線を走らせた。このインカムはクレア先輩が持っていたもので現在私と拓也先輩、クレア先輩の全員がつけている。使っていて分かるけど、随分と高性能だ。何故、そんなものをクレア先輩が持っているのかという疑問は湧いてくるけど、一旦それは心の奥底に仕舞い込みながら、私は拓也先輩達を待った。


「ううっ…………凄い不安だよ」


いくら人目があるとはいえ、同じ空間に私を付け狙うストーカーがいると考えるだけで心が休まらない。


「ん?」


と、不意に視線を感じた私は拓也先輩達が来てくれたと思い、そちらに視線をやった。


「っ!?」


しかし、それはとんだ勘違いだった。なんと、それは数メートル先から私の方を見て醜く笑うストーカーの視線だった。


「う………う…………うわああああっ!!」


私は拓也先輩の指示を無視して思わず、駆け出していた。目が合った瞬間、あの時のことがフラッシュバックして、その場に留まっていることができなかったのだ。


「はぁ………はぁ、はぁ」


そして、私は無我夢中で駆け抜けているうちに商店街の裏路地へと迷い込んでしまった。


「と、とりあえず休憩…………」


そのまま壁にもたれかかって、尻餅をつく。こんなに走ったのは久しぶりで少しの間、休息が必要だったのだ。しかし、神様は私に安寧の時間を与えてはくれなかった。なんと、こちらに向かって駆けてくる足音が聞こえてきたのだ。そして、それは私の目の前でピタリと止まった。ちょうど俯いていたせいでそれがストーカーのものであるかは分からなかったが確認の為、恐る恐る顔を上げるとそこには……………


「全く…………人目につくところにいてって言ったでしょ」


「っ!?クレア先輩っ!!」


私の大好きな先輩が立っていたのだった。


「ほら、手を貸してあげるから立ちなさい」


「は、はいっ!!」


クレア先輩は私に向かって手を差し出してくれた。私はその手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。


「さて…………じゃあさっさと戻りま………っ!?」


「ん?クレア先輩、どうし…………っ!?」


突然、後ろを振り返ったクレア先輩が動きを止めた為、私は気になって先輩の視線の先を見てみた。すると、そこには……………


「見ぃ〜〜〜つけた」


先程と同じく醜悪な笑みを浮かべたストーカーが立っていたのだった。私は思わず、悲鳴を上げそうになるのを堪えてクレア先輩を見た。すると、先輩は毅然とした表情でストーカーを見据えていた。


「もう〜逃げないでくれよ〜優梨奈。せっかく、あの日以来に再会できたんだから」


纏わりつくような不快な声が耳に届く。それだけで私は身体の震えが止まらなくなった。


「ゴールデンウィーク中は凄く寂しかったぞ。なんせ、お前は僕を置いて、旅行に出掛けてしまったんだからな」


「っ!?」


そして、自分の行動がかなり深いところまで把握されているという事態に私は思考が停止し、頭が真っ白になった。と同時に今度は身体を寒気が襲った。


「言いたいことはそれだけ?自惚れ勘違いストーカー」


「っ!?お前には話していない!!僕と優梨奈の時間を邪魔するな!!」


ところが、クレア先輩が少しも臆することなく言い返してくれた為、私は少しだけ心に余裕ができ、顔を上げた。


「どこまでもおめでたい人ね。何が僕と優梨奈の時間よ。あなたは優梨奈の何なのよ」


「そ、そんなのお前には関係ない!!い、いつもいつも邪魔しやがって!!お前とあの如月拓也のせいで僕達は共に楽しい時間を過ごすことができないんだぞ!!」


「それはこっちの台詞よ。私がどうしようがあなたには関係ないし、あなたのせいでこっちも楽しい時間を過ごせてないのよ。今みたいに」


クレア先輩を間近で見た私は凄いと思うと同時に胸の奥が温かくなる感じがした。ああ。この人は今、私の為にこうして立ってくれている……………私はそれを考えるだけで自然とこうしてはいられないという気持ちになり、力が漲ってきた。


「う…………」


ところが、それはストーカーの豹変ぶりを見るまでだった。


「うるさいうるさいうるさいうるさ〜〜〜い!!!僕に逆らうな!!!」


突然、そう叫んだストーカーはなんと逆上して私達に襲い掛かろうとしたのだ。


「優梨奈!私の後ろにいて!!そのまま動いちゃダメよ!!」


「っ!?は、はい!!」


私は再び、恐怖で身体が硬直し始めるのを感じつつ、視線だけは逸らしてはいけないと前を見ていた。すると、続いて驚くべき光景が目に飛び込んできた。


「やめろっ!!二人に手を出すな!!」


「っ!?お、お前は如月拓也!?は、離せ!!」


なんとどこからか拓也先輩が現れ、ストーカーを後ろから羽交締めにしだしたのだ。それに驚いたストーカーは思わず、態勢を崩しかけた。


「くっ…………二人には手出しをさせないぞ」


「こんのぉ〜〜〜離せって言ってんだろうが!!」


「っ!?…………ぐっ!?」


しかし、男は慌てて態勢を戻し、その勢いで拓也先輩を思いきり突き飛ばした。


「拓也!!」


「拓也先輩!!」


それによって、拓也先輩は近くにあったゴミ箱に強く身体をぶつけてしまった。ゴミ箱とはいっても鉄でできたものな為、その衝撃はかなりのものなはずだ。


「ぐっ……………」


「ふんっ、見た目だけで判断するなよ。こう見えても僕は小学生まで空手をやっていたんだ」


「「……………」」


息をするのも辛そうな拓也先輩に向かって得意げに語るストーカー。私達はストーカーのことも忘れて、ただただ先輩の安否が気になった。


「ふんっ、僕に逆らうからこうなるんだ……………さて、邪魔者がいなくなったところでようやくお楽しみの時間だ」


「……………覚悟しなさい。あなたは絶対に許さないわ」


「ちっ。そういえば、もう一人いたんだった。まぁ、いい。所詮は小娘。僕の空手にかかれば…………」


「一人じゃないわ」


ストーカーがクレア先輩へと迫ろうとしたまさにその時、突如聞こえた声と共に私達の足元に何かが投げつけられた。


「これは…………傘?」


クレア先輩が疑問を口にすると同時に向こう側から誰かが歩いてくるのが見え、私達はそちらへと目をやった。


「何もないよりはマシでしょ?」


その人物はストーカーの背後まであと三メートルというところまで近付くと立ち止まり、肩に何かを担ぎながら、そう言った。それはよく見ると私達の足元に落ちているのと同じ傘だった。


「何故、あなたがここに…………」


私達の正面、ストーカーを間に挟んで立っていたのはなんと長月華恋先輩だった。









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