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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第十八話:旅行3

「じゃ〜ん!!先生ちゃん、到着!!」


そう高らかな声を発して、俺達の目の前に現れたのはなんと担任の師走柚葉(しわすゆずは)だった。現在、旅行二日目の朝であり俺達は旅館のロビーにて、次にどこへ行くか話し合っていた。そんな中、突然聞こえてきた声と共に現れたのが柚葉先生だったという訳だ。ちなみにこの旅館の予約は全て先生が行い、料金も先生持ちだという。随分と格式の高そうな旅館でお客さんもどことなくエ〜レガンスな感じだが、それを一人で払うとかどんだけ太っ腹なんだ?それに教師ってそんなに給料いいのか?……………とまぁ、本人にとってはおそらく余計なお世話なことを考えつつ、先生の話に耳を傾けた。


「君達、学生だけでの旅行なんて親御さんも私も心配するでしょ!!という訳で来ちゃいました!!勝手な行動は許さないぞ!!」


思わず、テヘッという効果音をつけてしまいそうな言い回しをした先生は軽くウインクした。これを学園の男子生徒達や男性教師が見ていたら、クラッときているんだろうが生憎と俺はそれどころではなかった。何故なら昨日、ロビーで別れるまであんなに楽しそうにはしゃいでいた長月が今はどこか陰のある表情で俯いているのだ。そのせいでどこへ行くかという話し合い(もちろん長月と神無月を二人きりにするものも含まれる)もあまり進められてはいなかった。すると、やはり先生もそんな長月のいつもとは違う雰囲気に気が付いたのか、心配そうに声をかけた。


「長月さん?どうしたの?体調でも悪い?」


「っ!?い、いえ!何でもありません!!先生、わざわざ私達の為にお越し下さってありがとうございます」


「そんなお礼なんていいのよ……………それにそんなこと一ミリも思ってないくせに」


「っ!?」


おそらく後半部分の台詞を聞こえたのは俺と長月だけだろう。満面の笑みは変わらなかったものの、その時の表情には何か別の意味が含まれている気がしてならなかった。





           ★





「ほら、神無月くん!あれ、凄いよ!!」


「そうだね」


長月と神無月をまたもや遠くから見守りながら、菓子パンを食べる俺達。気分はさながら張り込みの刑事のようだった。


「どうだね、優梨奈くん」


「ええ。神無月先輩がなんだか心ここにあらずな顔してますけど、それを除けばいい感じじゃないですかね」


わざわざ双眼鏡を使ってまで二人を見守る俺達。それを見た霜月は呆れたようにこう言った。


「その行動力を何故自分の為に使わないのかしら」


「霜月、お前は分かってないぞ…………でも、まぁ仕方ないか。俺も昨日までだったら、そっち側の考え方をしていたかもしれないしな。だが、逆に考えるんだ」


「逆?」


「ああ。確かに今の長月は俺のことを何とも思っていないかもしれない。しかし、彼女はふとした拍子に思い出すだろう。旅行中の俺の功績を」


「そんなに上手くいくかしら?」


その声は突如、後ろから聞こえてきた。驚いて振り返るとそこには先程、団子屋に行くと言ってどこかへ消えていった柚葉先生がいた。両手に三本ずつ団子を器用に持ちながら………………あれ?この人、一応引率の立場なんだよな?


「随分と面白そうなことしているわね。先生も混ぜて〜」


「い、いえ。面白いなんて全然そんなこと」


「どうやら、そうみたいね……………楽しそうにしているのはあの子だけみたいだし」


柚葉先生は俺達の表情をさっと見渡してから、そう言った。俺はそんなはずはないと慌てて、返答した。


「そ、そんなはずは……………ほら、神無月だって、あの長月と二人きりなんて嬉しいはずですし……………優梨奈だって、こんな展開を望んでたんだよな?」


「それ、本気で言ってるの?」


いつもニコニコ笑顔の柚葉先生が真顔になって訊いてくる。俺は焦りながら、周囲を見渡す…………と霜月と目が合う。彼女は目を瞑りながら、首を横に振っていた。


「私は……………」


そんな中、優梨奈がポツリと言葉を零す。


「こんなの望んでないです」


「優梨奈?」


「長月先輩、楽しそうですけど、なんか無理している感じがします。神無月先輩はどう見ても心の底から楽しんでいるって訳じゃなさそうです。霜月先輩も何か別のことを考えながら、私達と過ごしていますし、拓也先輩に至っては何がしたいのか分かりません」


「な、何言ってんだよ。これは俺達が望んだ展開だろ?俺の友人である神無月とその想い人である長月を仲良くさせようって。本来、ハッピーなもののはずだし」


「じゃあ!!」


その時、優梨奈は人目も憚らず大きな声でこう告げた。


「何でみんな、楽しそうな顔をしていないんですか!!」


「っ!?」


それは俺達が決して口に出さず、必死に目を逸らしてきたことだった。それを優梨奈は臆することなく、堂々と告げた。


「こんなの私が望んだ展開じゃないです!!一体どうしたんですか!!道中はあんなにみんな楽しそうだったのに!!私だって、せっかく拓也先輩の願いを叶えようと頑張ったのに……………」


「優梨奈……………」


俺も………霜月でさえも優梨奈に返す言葉がなかった。こっちに来てからの俺達の行動は常に歪だったからだ。その違和感を優梨奈も感じていたのだろう。彼女は普段の言動から勘違いされやすいが周りを非常によく見ている聡い子だ。おそらく、とても気遣いをする子でもある。まだ出会って少ししか経っていないがそれは分かった。


「それに拓也先輩、ちっとも嬉しそうじゃないです」


「っ!?お、俺は」


だから、こんな真っ直ぐで優しい子にこんな表情をさせたくなかった。こんなことを言わせたくなかった。


「は〜い!ストップ〜!!」


と、そこで横から声が掛かった。見れば、いつのまにか団子を食べ終わった柚葉先生が笑顔で両手を広げていた。


「続きはまた今度にしましょ。ほら、もう旅館に戻る時間よ」


その言葉にハッとなって周りを見る。と、だいぶ日も沈みかけていることに気が付いた。どうやら、知らない間に結構時間が経っていたらしい。


「たまには先生らしいことも言うんですね」


「霜月さん、ひど〜い!言っておくけど、私は引率で来ているのよ!!」


柚葉先生の言葉で空気が変わった俺達は先程のことをなかったかのように帰路につく。その際、去り際の柚葉先生の言葉が妙に頭に残った。


「それにこの勝負……………どうあっても如月くんの負けよ」







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