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窓際の君  作者: 気衒い
窓際の君〜現代編〜

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第十六話:旅行

「ど、どうしてこうなった…………」


旅行当日。俺は待ち合わせである最寄り駅近くの広場にて、項垂れていた。あの時、優梨奈の提案を聞いた俺達は非常に焦った。何故なら、当初の予定では優梨奈のアドバイスを聞くだけということだったからだ。そうなれば誰か適当な奴を架空の友人として話を進めることができたからである。しかし、よりにもよって優梨奈の提案は"仲を深める為にみんなで旅行に行く"というもの。しかもこともあろうに本人も着いてくると言い出したのだ。となれば、相談元の友人などいないということが明らかとなり、優梨奈に嘘をついたことになってしまう。彼女は以前、言っていたはずだ。"嘘が大嫌い"だと。ちくしょー……………この時ばっかりは優梨奈の真っ直ぐすぎる性格を恨んだ。


「今日はよろしくね、如月くん」


そう言って、隣で微笑むのはクラスで………いや、学園での女子生徒人気NO.1の男である神無月広輔(かんなづきこうすけ)である。優梨奈の提案を聞かされた俺達はその日から早速、俺の友人(設定)探しに奔走した。ところが、こんな面倒臭いことに笑顔で"いいよ"と巻き込まれてくれる人材などそうそう存在しない。いくら、旅行のメンバーに学園でも屈指の美人が揃っているとはいえだ。とそんな時、霜月が徐に言ったのだ。"彼ならば、もしかしたら"と。その槍玉に挙げられたのがなんと、神無月広輔だったという訳だ。とはいえ、そんなに上手くいくはずがない。俺は半分諦めに近い感じで参加メンバーを挙げていった。すると、最初は難色を示していた彼も最後の方にはOKしていた。一体、何が決め手になったんだろうか。


「よろしく、神無月。こうして話すのは初めてだな」


「あれ?そうだっけ?」


ちなみに旅行の目的は親睦を深める為であり、例えばこの先、クラス会のようなものがあった時の参考になればということになっている。だから、旅行の本当の目的を知っている者は俺を含めて三人だけということだ。


「当たり前だろ。何で学園でも人気者のお前と俺なんかに接点があるんだよ」


「学園でも人気者ね……………」


「ん?どうした?」


「いや、何でもないよ。でも、そんなこと言ったら君だって、だいぶ有名人だと思うよ」


「は?そんな訳ないだろ。俺みたいな冴えない奴が」


「いやいや。忘れたの?三階からの懸垂下降事件。今じゃ、"懸垂"の如月とか"下降男"なんて言われてるぐらいだよ?」


「は?そんな呼ばれ方してんの!?全然気が付かなかった」


「如月くんはあまり周りのことに興味がなさそうだからね……………っと、みんな来たみたいだよ」


大して親しくもない男との嬉しくもない時間がやっと終わりを迎えた。向こうから歩いてくる女子三人を見ながら、俺は荷物を抱え直す。その際、ポロッと神無月がこう口にした。


「あのさ、深い意味はないんだけど」


「ん?」


「葉月さんってどんな子?」


「どんなって……………まぁ、話してみれば分かるんじゃね?」


「そう…………あとさ、如月くんと葉月さんって別に付き合ってる訳じゃないんだよね?」


「そうだけど?どうした?」


「いや、別に。ただ訊いておきたかっただけ。深い意味はないよ」


「はぁ」


どこか釈然としない気持ちになりながらも俺は残りの三人を待った。いよいよである。霜月、長月、神無月、優梨奈と俺の旅行が始まるのは……………






            ★





旅行はゴールデンウィークを使った2泊三日のものだった。場所は箱根で親睦を深めるというよりも温泉が目的になりそうな感じだった。あちらこちらから、硫黄の独特な匂いが漂い、いわゆる温泉街と呼ばれる通りを俺達は歩いていた。箱根までは小○急ロマンスカーで行き、車内では優梨奈の持ってきたトランプで過ごしていた。その際、さりげなく俺を長月の隣の席にしてくれた霜月には感謝しかない。何故か、それを見た優梨奈は不服そうだったが………………


「ねぇ霜月さん。あれは何?」


「そうね。あれは…………」


「へぇ〜そうなんですか」


楽しそうに会話をしながら前を歩く女子三人を眺めていた俺はちょうど後ろを振り返った霜月と目が合った。そして、目で何かを訴えかけている気がする。あ、ちなみにどうやら俺の知らないところで長月と霜月は和解をしていたらしかった。一体、二人の間に何があったのだろう…………知りたいような、知りたくないような。


"私ばっかりじゃなくて、あなたが長月さんと話しなさいよ"


俺は霜月からそう言われている気がして、肩を竦ませるジェスチャーでこう答えた。


"それができりゃ苦労はないって"


実はロマンスカーや駅からのバスの車内でもせっかく隣になったにも関わらず、緊張でほとんど会話ができなかったのだ。それを見た霜月は痺れを切らして、今の行動に出たのだろう……………っと、どうやらそれだけでは済まなかったらしい。霜月は徐に優梨奈と共に後ろへと下がってくるとすれ違い様に俺を前方へと押した。


「っ!?おい…………っ!?」


「どうしたの、如月くん?」


位置が入れ替わるということは当然、長月の隣に俺がくるということになる。霜月はなかなか一歩を踏み出せない俺を見かねて、こうして力技に出てくれたのだ。まぁ、すぐ横に長月がいると意識すればするほど、話せなさそうなんだが。


「い、いや別に……………なかなか長月とは話せなかったと思って」


「確かに。道中は結構隣だったのにね…………あっ、もしかしてそれで隣に来てくれたんだ」


「ああ」


「嬉しい。ありがとう」


「っ!?いや、別に……………ってか、嬉しいってことは俺のこと」


「あのさ、深い意味はないんだけど」


「ん?」


「神無月くんって……………どんな人だと思う?」


「神無月?ん〜…………… 周りからの人望も厚くて、もちろん成績優秀で運動神経抜群。誰からも好かれるような好青年なんじゃないか?つまり、みんなが思う通りの奴じゃね?よく知らんけど」


「だよねだよね!!やっぱりそうだよね!!」


一体何をそんなにテンションが上がってるんだ?そういえば長月は参加メンバーに神無月がいるって分かった瞬間、参加をOKしたような……………


「あのさ、今回の旅行って親睦を深める為のものじゃない?」


「あ、ああ。そうだな」


「それで私は神無月くんのこと、よく知らないんだよね。だからさ、今回の旅行で彼のことをよく知りたいなって思うんだけど」


「?何でそれを俺に?」


「えっ、だって如月くんって神無月くんの友達なんだよね?確か、旅行の話をしてくれた時にそう言っていたような」


「…………ああっ!?確かにそう言ったな」


ちくしょー。俺の馬鹿!!何でそんな嘘を!!


「だからさ、彼のこともっと教えて欲しいんだよね。ほら、友達なら色々と知っているでしょ?何が趣味だとか、どんなものが好きだとか」


やばいやばいやばい。そんなの全然知りません。話したのだって、今日が初めてです。


「あとさ、良いタイミングで彼と二人きりにして欲しいんだけど」


おいおい。こんなことじゃ嘘がバレ……………って、ええっ!?


「ふ、二人きり!?」


「ふ、深い意味はないの!!ただ、あまりにも彼のことを知らないから…………よく知りたいの」


その台詞に俺は思わずドキッとしてしまった。自分が言われた訳でもないのに。なんて単純な奴なんだ、俺は……………だが!!


「おう!任せろ!!」


「本当!?」


「ああっ!!良いタイミングで二人の時間を作ってやるぜ!!」


好きな人の望みを叶えてやるのが男の務めだ!!俺は若干、誇らしくなりながら霜月の方へと振り返った。どうだ?成長しただろ、俺。


「はぁ…………」


しかし、想像した通りの反応は返ってこなかった。それどころか、呆れたような感じで頭に手を当てる始末。へ?何で?


「じゃあ旅行の間、よろしくね」


「おぅ!!」


長月と固く握手を交わした俺はその後、後ろに下がり霜月へと報告。その際、俺達の会話が聞こえていたそうで霜月が呆れていた理由を教えてくれた。それによると俺はとんだミスを犯していた。ってか、本当にアホだな俺。何で気が付かなかった……………


「好きな人の望みを叶えるって……………それじゃあ、あなたの望みはどうなるのよ」


そもそも俺も長月と二人きりになりたかったのをすっかり忘れていたのだった。本当、恋は盲目だよな。







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